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第55回 「晩餐会・そのさん」



「──まぁ確かにその通りなンだがよ? 勝手に言っちゃうのはどうかなー? ザッキー(・・・・)?」

「はひィ!?」


 忍者の後ろから突然第三者の声。

 心当たりがあるのか、間崎センパイ──ザキマル氏は飛び上がって即座に逃げようとするも、なんていうか、こう。

 古いアニメ表現で例えて言うと、しっぽ掴まれたまま逃げようとするネズミのキャラクターがびよーんてゴムみたいにのびて、空中でジタバタもがいてる。


 ──みたいな感じだ。


 見れば、トリコロール調の煌びやかな服。パニエでふんわり膨らんで、裾からわずかに真白が覗く、青のティアードのミニスカート。金縁取りに青い装飾が綺麗な髪飾りに、長い金髪がさらりと流れ。

 腰にはゲーム内唯一(ユニーク)等級と思しき豪奢な長剣。

 エルフ種か、と言ったような、幼さを圧してなお洗練された美少女。


 ──に、服の端を掴まれ、物理をまるで無視した様に全く逃げられないでいる忍者。


「わわ。もも申し訳ないでゴザル! てかなつぴこ殿も最初から知ってたみたいだからノーカンでゴザル! ノーカン!」

「ったくよぉ」


 呆れた様に、溜息を吐きながら美少女が手を放せば。

 忍者はバビュンと隣のテントの陰まで跳躍。ひょっこり顔をのぞかせて。


 "神谷ちゃーん? 本題入れなかったけどわかってるでゴザルなー? 不可侵(・・・)でゴザルぞー?"


 お互いのリアルは秘密。

 バッチンバッチン片目を瞑ってアイコンタクト。


 "へェ、わかってございます間崎センパイ"


 苦笑で手を振り返すと、忍者はまたも覆面を貫通する冷や汗のエフェクトたらたらに、ぐぬぬ顔で遠くへ飛び退ってゆく。



 で。



 目の前の美少女である。

 赤、青、白の配色が美しい。ザ・勇者って感じの。さも無きゃ森の妖精族かって煌びやか。

 ミニスカートからすらりと伸びる細脚。華奢で白い腕。

 遠間には高身長のように見えて、間近に見ればなんと見下ろす140センチちょっとくらいの少女。


「いよぅ。嬢ちゃん。ひさしいな。月初以来か?」

「???」


 にっこにこで俺を見上げながら挨拶してくる美少女──に、見覚えがなく。


「え?」

「え?」


 俺が何とも目の前の人物が記憶の誰とも結びつかず、困惑していると。

 向こうも向こうで顎に手をやって思案顔。


 しばし沈黙の後、何だかハッとした顔になって


「ちょ、ちょ、ちょっとまっててな? そこに居ろよ?」

「え、は、ハイ」


 なんだか豪奢な見た目に反して喋りがぶっきらぼうな()だな、なんてぼんやり見てれば、少女はそそくさと近場のテントに飛び込み。

 大昔の某長寿アニメ番組のエンディングのロッジみたいにテントのシルエットを歪ませながら、中ですったもんだしてる様子。


「こ、こ、これでどうよっ!?」


 しばらくして出来てきたのは"赤ずきん"を緑色にしたみたいなカントリードレスの少女。

 慌てて早着替えしたのか、本来であれば緩く結んでいたはずの長い金髪は多少乱れて。腰の剣帯なんかはそのままに、ドレスの上から似つかわしくない豪奢な長剣をぶら下げる。

 脚出してない分すらりとした印象がなくなって、逆に見た目年齢然としたもこもこ感というか。


 しかしそこまで見せられれば俺とてはっきりと思い出す──


「──マリーさん!?」

「おうよ!」


 にかっと歯を見せて、Vサイン。


 なるほど間崎──ザキマルさんが逃げてったことにようやく合点が。

 つまり"噂をすれば影"だったわけだ。


 彼女は"屠龍の勇者(ドラゴンバスター)"と二つ名指される、なんとこのThebes(ゲーム)内最高レベルのプレイヤー、"マリーシア"

 見た目に反して他の追随を許さぬ最強の戦士。

 散々前述する先日の"虚象事件"の折、イベント指定地域へ移動する馬車に同伴し、その後もなんだかんだでお世話になった。


 拠点はヴァルハラらしく、イベント終了後に再会し、その後も何かと良くしていいただいている。


 それにしても……


「ずいぶん雰囲気が」

「それなぁ……」


 マリーさんは溜息を吐きながら、慣れた所作で頭を振って、長い金髪を片側から胸元へ流す。インベントリから取り出した、服とそろいの緑のリボンで、迷いのない手つきで毛先をまとめる。


 ずいぶん手慣れているが、彼女のプレイヤーは30歳過ぎの男性であるという。

 実際口調はおっさんそのものだし、ヴァルハラでは親しみを込めて"おやっさん"等と呼ばれていたりする。


 その彼女が如何にもな"勇者"然とした格好をしていて、逆にわからなかった。


「おれっちこんなでも"勇者"ってことになってっかんな。まぁこういう催しでは、いっぺんああいうカッコしてやんないと治まり悪い層ってのが居てなァ」


 ちょっと照れたように、頬をかきかき。


"ホントは勇者として出向くときにはそれなりのロールプレイ、それなりの格好していくんだ"


 とは件の馬車に同伴したもう一人、スキンヘッドの巨漢の戦士、ロイの言。

 なるほど。なるほどなぁ。


「しかし嬢ちゃんたちもこのパーティーに招待されてるとはなー」

「ああ、ええと。真白の羽根……でしたっけ? そのギルドメンバーのケンちゃんさんて人のお店をよく利用してまして」


 マリーさんからは、主催とそれなりに懇意にしてる人間しか呼ばれないはずだが、というような驚きが滲んでおり。

 まぁ、白羽根と薔薇十字の名声を知った今となっては、その、ですよねーって感じでして。


「あー、けんたろー……剣十郎のとこの客だったのか。いままでよく三者鉢合わせなかったな」

「その"剣十郎"って……ええと他の利用客の方も言ってましたけど、彼のキャラネームって"ケンちゃん"ですよね? 本名?」


「あーちがうちがう。あいつ全く同じ見た目でサブキャラ作ってサムライとブラックスミス使い分けてんだよ。普段街にいる方が鍛冶師の"ケンちゃん"でメインはサムライの"剣十郎"ってわけさ」

「なんとサブキャラ! ってThebesって2キャラ持てるんですか?」


 というか普段いる方が(・・・・・・)サブって?


「できるョー。まぁ没入感凄くって、1つで変身願望満たされすぎっからあんまやろうって奴はいないなァ。そもそもレベル分散しちゃうし」

「えっ」


「うん?」

「ケンちゃんさんてレベル52とかですよね? あれでサブなんスか?」


「そうだぞー。サムライの方はたしか65とかあるんじゃない?」

「そ、そんな簡単に……このゲームって30超えたら全然上がんなくなって、50以上はほぼほぼ現実味ないって聞きますよ?」


 ちなみにここ一カ月くらいやった俺のレベルは18とかだ。

 次元の違う話にげんなりしていると、ゲーム内最高レベルの勇者様はわかりやすくてへぺろポーズでおどけて見せ


「えー。マリー、一年前にはもう70超えてたからわかんなーい☆」

「いまいくつなんすか……」


 そう聞いてみれば、マリーはこれまたわかりやすく拗ねたような顔になり


「それがよー。まだ82とかなんだよー。今回開発がはっきりと"上限90まであげました"って明言しちゃったかんな―。くやしいよなー」

「え、えーと」


「俺、次のレベルまで5322ポイント、とか書かれてるんですが。参考までにマリーさんのレベルだとどんくらいか聞いても良いですか?」

「ん? あんまりそっちの数字は気にしたことねェな……ええと、いち、じゅう、ひゃく……」


 レベル80台ってどのくらいか。

 単純に気になって聞いてみれば、マリーもステータスウィンドウを開いて何やらごにょごにょと桁を数え始める。

 いや数えないと把握できない桁って何だよ。それは本当に次があるレベルなのか。いや開発が90だって言って90行ってないんだからあるんだろうけど。


「ええと、5億──」

「ふぁ!?」


 マリーが呟いた数字に仰天して目を見開くも


「──あ、ちがった。ええとごじゅうにおくさんぜんさんびゃくまんとんではっせんきゅうひゃくさんじゅうろくポイント。だな」

「どういうプレイしたらそんなレベルになるんですか……」


 それはもう、疑問というより呆れといった感じで呟いてみたが、件の勇者はニッコニコな笑顔で歯を見せて笑う。にしし、って。


「おう、根詰めてレベル上げするときゃゲーム内で寝たり(・・・・・・・・)して、3日間くらい狩場に籠った事もあったぞ」


 いま、なんか可笑しなことを聞いた気がした。

 ゲーム内で寝る? いやたしか全感覚投入(フルダイビング)型のログインデバイスであれば、ログインしたまま意識を失うという状態が有り得るというが。


「え、で、できるんすか。そんなこと。そもそもこっちで寝て意味はあるんですか?」

「あるよー。眠くなるし、ちゃんとそれで眠気取れるし」


「け、健康被害とかは」

「あー確か24時間超えたあたりでシステムからメールが来てヨ」


 "お前ェさん連続ログイン時間長すぎ。このメールに応答がなければ事故として調査開始するよ"


「みたいなこと言われたんだが、まぁダイジョウブーって返信してつづけた。そしたら48時間超えたとこでもっかいメール来てヨ」


"貴方は当社の想定していないプレイスタイルをしています。平たく言うといますぐやめれ"


「みたいに言われてよ。ヤダ! って返したら"当社は責任取れません"てよ? それにイイヨー! って返信したらなんも言ってこなくなった」

「…………」


「実際には"トイレ切断"は何度もあったんだがよ。ログアウト時間が短すぎてカウントされて無かったみたいだ」


 トイレ切断とは、全感覚投入(フルダイビング)型ログインデバイスの安全装置みたいなもんで、以前俺が経験した"精神負荷遮断"と同じように、一定の負荷──つまりこの場合ゲーム中ヘッドギアによって感覚遮断された、現実の肉体側の方が尿意だの催せば、強制的にゲームからログアウトされるという機能のことだ。

 流石にこんな、人間の脳から神経伝達系を一切遮断してから元に戻す、なんていうシステムが認可を受けるには、それなりの安全措置というものがあるんだろう。


「やー流石に三日後に自発的にログアウトした後は、すぐに飯食って風呂に入ったよ。それまでトイレついでにエナドリしか飲んでなかったかんな!」


 …………。


 あるんだろう。一部の例外を除いて。

 俺が流石の流石にって感じでしょっぱい顔してると、だ。

 件の勇者様は何とも悪意の無い顔でにしし、と笑って俺を見上げて。


「お嬢ちゃんはこんなトコでなにしよるの?」

「え? ああ、それは──」





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