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第53回 「晩餐会」



 ワープアウト。

 またも高価な転移結晶で、俺たちはそろって薔薇十字の拠点へ。

 セレクトリア領ユリシャ市──PvP(対人)勢が好んでいう言い方をすれば、旧ユリシャ連邦市国群ターヴァ市、その主幹道路の終着点にある緑地公園基地。

 今夜、ここで開催される合同立食パーティーに招待された。


 俺たちはおっかなびっくり、ケンちゃん氏の背後から顔だけのぞかせて。

 こういう格好であれば最強ギルドの風格と言おうか、ギルドのロゴが入った羽織を肩掛けて、ケンちゃん氏。


「取って食やしないよ。普通にしてろって」

「だだだだだだってぇ」

「だ、大丈夫ですか!? あとで請求来たりしませんか!?」


 ボヤキ顔のケンちゃん氏に、きゃみさま、高坂。

 及び腰の二人を差し置いて、ケンちゃん氏の背後から抜け出してみれば。

 

 公園内は以前訪れた時より格段に明るく照明が焚かれ、そこかしこに飾り付け、広場には大きなテーブルが置かれ、豪勢な料理の数々。

 各所に積まれた紙皿と木製のフォークを各々取り、勝手に取って食べるスタイルらしい。

 だいぶ途中からの参加になってしまったか、既に歓談始まっているらしい喧騒の中へ歩を進める。


 肉。鳥。牛。豚。なんでもござれ。

 串物。椀物。丸焼き。豪快に見せ、演出の後は切り分けられて皿に。

 香しい旨味薫り。油。砂糖。甘辛く食欲を掻き立てる様な。或いはスパイシー。

 人によっちゃ気持ち悪くなったりするかもってくらい、色んなものが。


 山盛りフルーツの周囲にはそれらを使用したらしいスイーツの数々。

 焼き菓子。生菓子。ゼラチン物。

 宝石のような青果の煌びやか。飴と露の艶。


 きゃみさまと高坂はなんかこう、Thebes(ゲーム)をはじめてから、色んな情報媒体とかで俺より調べててさ。

 そのせいで逆に主催の知名度に萎縮しちゃってるみたいなんだけど。

 俺はと言えば"白羽根"や"薔薇十字"と言われても未だに実感が持てず。


「すっげー! ね。ね。ケンちゃんさんコレ全部食べちゃって良いんすか!?」

「おー食え食え」


 ケンちゃん氏の苦笑交じりの声が後ろから。 

 漂う香りに思わずよだれが零れそう。周囲を見回し、御馳走の数々に目移り目写って。

 一体どんな美味珍味が、とわくわくしていれば徐に後頭部に衝撃。


「あいた!」


 振り仰げば、きゃみさまが何か切羽詰まった表情で俺のおでこにビスビスとチョップをかまし続け、その後ろでは高坂までもが仰々しい三流映画じみたジェスチャーで がっでーむっほわーい!? みたいなことしてる。

 

「あああああああんた! あんた! あんたああああ!」

「なななななななっつぅぅぅん!」


 あ、うん。なんか"何やってんだもっと恐縮しろ"みたいなニュアンスだけは伝わりましたが。


 でも俺はお祭りムードになんだかうれしくなっちゃってさ。

 ちょっと抑えられなくて。

 てってって、と。数歩を先に駆け、くるりと三人を振り仰ぐ。

 着物の袖を大きく広げて。


「楽しもうぜ! ──それが俺たちに出来る礼儀ってことじゃない?」


 微笑んで見せれば、きゃみさまと高坂はちょっと呆けた様にこちらを見返し。

 遅れてワープアウトしてきた"魔女"──白羽根のギルドマスターさんがケンちゃん氏と並んで肩を揺らして笑う。


「そうしてもらった方が、主催としては嬉しいわね」


 戸惑った様にケンちゃん氏を見るきゃみさまと高坂に。

 ケンちゃん氏は優しく笑って。


「ほら。遠慮すんなって。行って来いよ」


 難しい顔してた二人は顔を見合わせて、其れからこっち見て。

 とたんにニッコニコになりながら走って追いかけてくんの。


 ああ、いいな。

 こういうのはいい。

 色んなしがらみ一時忘れて、うまいもん食って、笑って。


 会場は招待客でごった返す。

 人波をぬって、俺たちは会場の奥へ。


 それを見届けたケンちゃんたち白羽根メンバーは、出迎えに現れた薔薇十字の面々に連れられて別方向へ消えて行く。


 まぁ主催の片割れだし、あれでケンちゃんもなんか重役っぽいし?

 貴賓席? とか、あるんかな?


 なんにしろ、俺たちは連れ立って"お祭り"の中へ。



◇◆◇◆◇



「え、高坂なにそれ。ギョーザ? そんなんあるの? どこどこ?」

「あっちのテーブルに山積みされてたよ」


「えーでもニンニクよ? 口臭気になっちゃうわね」

「どのみちこの後山ほど肉料理食うんじゃん?」


「この会場でもし素敵な出会いがあったらどうするのよ。油断よ油断!」

「まぁまぁ気になるなら一度ログアウトしたらリセットされるから」



◇◆◇◆◇



「ローストビーフうっま!」

「あんまり飛ばし過ぎると、後で素敵なスイーツ見つけても入らないわよ?」


「えー別腹でしょ?」

「フユキ君も意外や食べるわね」


「そりゃ女の子と比べれば」

「脂身がー。とろけるー」



◇◆◇◆◇



 で。


 っていうのもなんだけど、で。



 はぐれました。(ででどん)



 いやさ。俺がちょっとテーブルの脇目に手羽先揚げっぽいものを見つけて、そそくさと皿に取りに行って帰って来てみれば、俺にしてみれば"忽然と"って感じで二人は居なくなってて。


 まぁなんだ。この人ごみの中を探し回るってんでもないというか。

 まぁ食べ歩いてればどっかでまた会うやろくらいに考えて、ひとり食事を続行。


 しかしあれだな。

 少量ずつ取ってるけどやっぱり入らないもので。

 "スイーツ入んないわよ"

 きゃみさまの言を思い返し、拾いかけたフィッシュフライに後ろ髪ひかれながらもそのまま通り過ぎる。


 や、男だから女だからってんじゃないんだろうけどさ。

 俺は変わっちまった時にだいぶ体格が小さくなったこともあって、頭んなかだけは昔のまんまなんで"食べられると思った量が入らない"なんてことがしょっちゅうある。

 宴もたけなわに、どんな豪勢な甘味が後出しされるかもわからない。そういう食べ逃しはちょっと悔しい。


 宴の最中、一人難しい顔になって、唇を尖らせる。


 俺の身長158センチは、変わってしまった2年前から比べて1センチも伸びていない。ほぼほぼ止まっていると思っていいだろう。

 このまま大人になったとて160を超えるだろうか。


 男の時は牛丼チェーンで丼物2杯とかの無茶すらできたが、この身体ではそうもいかない。生涯美味しいものを楽しむ総量が少ないって考えると、何だか損した気分というかなんというか。



 小さくなってしまった自分の腹を擦り擦り、そんなケチ臭いことを考えていれば、だ。



「お客人。なんだか浮かない顔でゴザルな」



 気が付けば、そんな声を掛けられる。

 驚いてそちらを振り仰げば、以前テントの入口ですれ違った忍者風の男。

 細身ながら180を超えるであろう長身に覗き込まれ、思わずドキリとする。


「楽しめておらぬかな?」

「あ、い、いえ」


 びっくりして、流石に人見知りしたような態度をしてみれば、忍者は両手を上げて身を引く。


「おっと、怖がらせてしまったでゴザルかな?」


 見た目よりだいぶフレンドリーな感じに。

 覆面から覗く目だけで、ニッコニコに微笑んでいるとわかる。

 そういやこの人こないだ俺のこと見てぎょっとした顔してたけど、なんなんだろ。


「いや、だいじょうぶ、です。えっと」


 気を取り直して


「あんまり食べられないんですが、その、どれも美味しくて。この後もっとおいしいものでてきたら、食べ逃したくないな、なんて」


 俺だって、流石に食い意地張ってるのを正直に話すなんて、恥ずかしい。特に男性相手に、だなんて。

 後ろ頭をかきかき、上目遣いに言ってみれば。


「なるほどなるほど。それでは悩める神谷姫(・・・)にこの裂丸(ザキマル)さんが"とっておき"をお教えしよう。にんにん」

「えっ」


 片目を瞑って、鼻先に指を立てる。

 見た目に反したおどけた態度──は、この際どうでもいい。


 いま、なんつった?

 この人、なんつった?


 俺自身がしゃべらなければ、ただ"なつぴこ"としか表示されないはずのこのアバターを、神谷と呼んだ。

 神谷……姫。……ゴザル……にんにん。


 ────


「あ~~~~~~~~~~~~っ!!!!」


 俺は目の前のこの忍者が誰なのかを察し、彼を指さして思わず驚嘆の声。


「ま、間ざkむぎゅっ!!」


 ばっちん。すごい勢いで口を塞がれる。

 おいちょっとまて、口塞がれただけでLP(ライフポイント)3割くらい減ったんだが! どんなレベル差してんだよ!?

 死んじゃう! これ3回やられたら俺死んじゃう!


 ニコニコ目だけは笑ったまま、何だか漫画表現の様に覆面を貫通して青筋たったようなエフェクト。ぴきぴきぴき。いや柔軟だなA.E.(オートエモーショナ)C.(ル・コントロール)

 なんにしろ顔を寄せ、内緒話の態勢。



「声が大きいでゴザル~。お互い穏便に済ませたいでゴザルよな~? か・み・や・ひ・め」

 


 こ、この忍者、間崎さん(・・・・)だ!

 バイト先の! 女子大生の!




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