第5回 「あっそういうの穿いてるんだァ、ふぅんっていう顔」
まぁケチはついたものの。
高坂にとっては今日がゲーム初日。"デビューは楽しくいこうぜ"ってんで、気を取り直して三人で町へ繰り出す。
始まりの庭を抜け、石橋に差し掛かったあたりで視界が開け、ヴァルハラ市街地がある程度見渡せる。
美麗、壮大、何処とは表現しづらいが外国風の石造りの街並み。
どこぞのテーマパークか、さも無きゃ本当に外国の田舎に瞬間移動でもしたか。
そんな錯覚を、きっと高坂も。
「お~~~~~~~! こ、これはすごい、ねぇ!」
叫ぶ高坂。
となりから微笑ましくそれを眺め、若いのう若いのう、なんて勝手な悦に浸る。
何なら今この瞬間、"主人公"は高坂だ。
てってれてーててててーてててーてーてててーてててーてーてー♪
ひと狩り行こうぜ? 制限時間は50分です?
一瞬頭の中をだいぶ昔に流行った狩猟ゲームのテーマ曲が流れ、いや違う違うと首を振る。
街中もっとすごいから! 早くいこうぜ!
って俺までなんか嬉しくなっちゃって。
道すがら、ゲームの話で盛り上がる。
「それが使ってる武器や、行動次第で勝手な"通り名"がついちゃうらしくてさー」
「はは。なにそれ、二人は今どうなってんの?」
「そういや開闢以来見たことないわ?」
「"かいびゃく"て……」
そんな話題で、初めて自分の"ユーザータイトル"なるものを確認するに至る。
ええと。
"水兵服侍"
何だそりゃ?
手に持った刀を片手に掲げ、一方でスカートの端をつまんで持ち上げる俺を、きゃみさまが指さしてひとしきり笑う。
じゃーきゃみさまはどんなんだよ?
と、みんなで可視化したきゃみさまのステータスを覗き込んでみれば。
"暴虐の対人外刀"
今度は俺がきゃみさまを指さして笑うが、ああ、これ、高坂にはちんぷんかんぷんだよな。
ちょっと恥ずかしそうに、インベントリから自分の武器を取り出すきゃみさま。
かくして全長2メートル超、身幅30センチは有りそうな巨大な剣を担ぎ上げるキャミワンピの少女という絵面。
「女の子がこれ振り回せちゃうのはやっぱりゲームよねー」
そんな姿を高坂に見られるのが恥ずかしいのか、少し照れたように。
「メスゴリラやん」
「うるせェよ"ブシドー"?」
戦火勃発して、二人火花を散らせていれば、困った様な顔の高坂に諫められる。
まぁそれは良いとして。
"どこいく?"
"まず冬樹君の武器じゃない?"
ってんで、何の気とはなしに商業区へ足を向ける。
「そういや高坂、キャラ名なんてつけたの? こっちではあんまりリアルを露出しない方がいいらしくて、人前で高坂とか冬樹君とか呼びづらいんだ」
そう言ってみれば、高坂は実にばつの悪そーに目を泳がせ、指先を弄び始める。
ああこれは、となんとなくお察しして、高坂の体をタップしてみれば。
"フユキ Lv1"
俺ときゃみさまは"あちゃー"って目を覆うも、そういや自分たちだって「なつぴこ」と「きゃみさま」である。
方や半濁点が付いただけ。方やそもそもが愛称だけどリアル呼びと同じ。まぁ大差ないか、と。
「"ステ振り"ってどんな感じ?」
「ああ、それはさ──」
ステ振りってのはアレだ。レベルアップでなんかポイントがもらえて、そのポイントを使って"筋力値"だの"敏捷度"だの自分のキャラクターの能力を自分好みにカスタマイズできるタイプのゲームにおいて、その"身の振り方"みたいなもんで。
しかしThebesは……
「勝手に決まっちゃう。何も考えないで単純にレベルだけ上げてけばいいんじゃないかな」
「まぁ楽でいいんだけど。ふたりは今どんな感じなの?」
そんな話題から、お互いのステータスウィンドウを可視化モードにして見比べながら、あーでもないこーでもないと盛り上がる。
「僕の筋力値が今16で……きゃみさまが79……レベル幾つなんだっけ?」
「アタシは今13ねー」
「ん? あれ? 俺もレベル13だけどSTRなんて48しかないぞ?」
「えーうそ。って、なんでなっつんAGIとかDEXとかそんなに高いのよ!?」
STRだのAGIだのDEXだの。
そんなゲーム用語、たとえば普段ゲームとかしない女の子なんかにはさっぱりな話かもしれないが。
まぁこの場にはゲーム少年と元ゲーム少年しか居ないわけで。
ゲーム元少年ていうか、ゲーム少女っていうか、うん。
「"成長にランダム性がある"ってんじゃ説明付かない差がついてるわね……」
「きゃみさまがパワー型で、俺がスピード型みたいになってるな?」
「もしかしてさっきの"ユーザータイトル"といっしょで、行動次第で"そういうステータス"になっちゃうってこと……?」
「うっわ、だいぶ取り返しつかない奴ー」
で、そんなステータス談義しながら、あーでもないこーでもないなんて歩いてたら、だ。
突然。
俺のステータスウィンドウを覗いてた高坂の奴が"ぶほぁ!?"なんて言って吹き出したかと思うと、顔真っ赤にしてそっぽ向くんだよ。
いや、俺もきゃみさまも何が起こったかさっぱり分かんなくて、はにゃー?って顔してそれを見てたら。
「ごめ、なっつん。ステータスウィンドウ消して。きゃみさまも人前で可視化しないようにした方がいい……」
「うん?」
「どうしたの冬樹君?」
わけもわからず、ひとまず言われた通りステータスウィンドウの可視化モードを解除するも、結局なんでかわからず高坂に先を促すほかない。
「だ、大丈夫? こ、高坂?」
俺が心配して覗き込めば、高坂は余計に顔を赤くして目を泳がせ。
躊躇う様に何度か俺とあらぬ方を目線が行ったり来たりして、で、やがて意を決した様に。
「なっつん……もしかして、いま、水色のぱんつ……穿いてたりする?」
そんなことを言うのだ。
一瞬。
何言ってんだこいつ? みたいな感想から始まって。
ああ、そういえば、キャラ作成ん時に下着から普段着を選ぶような項目があって、できるだけ飾り気のなさそうな水色のショーツを選ん、で────
──なんで、知って……!?
「~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!?????」
いや、えーと。あー。あれだ。
他人の装備欄を覗けるタイプのゲームって、結構あるんだ。
もちろん下着アイテムまで、何つけてんのか見られちゃったりするゲームもあったよ?
でもそれは現実の自分とは似ても似つかないアニメ調のアバターで。ぱんつって言ったってまぁ"ポリゴン"ちゅうか出来の悪いコンピュータグラフィックスっていうか。
だがThebesはちがう。
ゲーム内で使用するアバターは現実かと見まごう高詳細のグラフィックスで。
俺達なんかキャリブレーションのビジュアルトレーサで現実の姿をスキャンしたそのままでゲームプレイしてるから、その姿はまんま現実の其れと同じなわけで。
つまり、このThebesにおいて"ステータスウィンドウを覗かれる"とはそう言う事なのだ。
さっきまでの俺達は、名刺に下着の色まで全部載せて"こういう者です(笑)"みたいな……
「~~~~~~!!!」
正直、うろたえた。
何がどう捲れているわけでもないのに、無意味にスカートを抑えて真っ赤になってる自分がいて。
すぐ隣ではまさに"絶句"って顔で口元を抑えるきゃみさまと、心底困った顔で眼を逸らす高坂。
「え…………っと。ごめん。なっつん。……ナルベクワスレルヨウニシマス」
「い、や。不可抗力……だ。高坂は悪くない。悪くないんだ、けど」
「──けど?」
「ごめん一発殴らせて?」
そういって高坂の頬を張る。
羞恥の──発散先が必要だった。
ぺちん☆
「理不尽!?」
──セーフティエリア内で フユキ さんに 11 ダメージを与えました。
──現段階で相手の任意に貴方を告発することができ、最大で以下のペナルティが云々かんぬん。
とりあえず。
今日、解散したら。
ゲーム内で(高坂の知らない色の)新しい下着を買いに行こう、と、硬く心に誓うのであった。




