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第22回 「うわまじかこいつって顔」



「たすかりました……」


 前回に引き続き服飾店"Ages(エイジス)"店内。

 試着室代わりの(はなれ)から戻り、多分、まだ少し赤ら顔で。店舗の方で待っていたサキさんに礼を言う。

 選ぶとき揶揄ったお詫びにって、2種類選ばせてくれた下着を受け取り様。


 "折角だから今ここで着替えてっちゃう?"


 なんて言われて、今に至る。

 で、まぁリアルで着けてる奴と似たような、腰や胴のゴムが太い感じの、上なんかブラというよりハーフトップとかに近い様な、スポーティな方を選んで着替えてきたところだ。


 色は白。

 選ぶとき散々すったもんだした癖に、白。の、ゴムんとこだけ青い奴。

 結局Thebesでは衣類の汚染が継続して残ることがないので、白下着における"汚れが目立つ"ってデメリットはないってんで、折角ならって。

 でも上に着る服によっては色はちゃんと透けるし、縁取りしっかりしてるからアウトラインとかも気を付けてねーとか言われた。


 色が透けるってのはわかる。

 俺もさすがにこうなって二年近く。そのくらいはわかる。

 でもあうとらいん(・・・・・)? ってなんぞや?

 なんて。俺がまたぞろはにゃー? って顔してたら、きゃみさまとふたりで"うわまじかこいつ"みたいな目で見られた。


 あれだ。下着によっては体型をある程度矯正、というか服着た時のシルエットに響いてしまうものもあるようで。

 ま、そのくらいは俺的には気にならないんだが、上に着る服がぴっちりした奴だと下着の輪郭が浮き出てしまって、外から見てわかってしまうって事らしい。

 なるほどそう言うタイトな服は性分としてあまり着ないから、気が付かなかった。スカートにそんなに抵抗が無くなってからは、なおさら。

 これからは気をつけなければ。


 "見られる(そういう)の平気?"

 "絶対無理!"


 髪を振り乱して首を横に振る俺が居た。


 今は2年前ほどではないにしろ、こうなってからは何だか男の視線が怖い。


 例えば登下校。

 セーラー服を着て、スカートで街を歩く。膝下のスカートとソックスの間にわずかに露出した素肌。明らかに其処に向けられた、男性の視線。そういう他人の目に気が付いた時。


 自意識過剰……かもしれない。でも"こんなにも見られているものか"と驚いた。

 そんですこし、いやかなり、嫌悪、した。



「だいじょうぶ?」

「あ、いえ」


 おっといかんいかん。サキさんを前に考え事しちゃってた。


「もしかしてロゴ入ってるの気に入らなかった?」

「へ? いやそれは全然」


 というかロゴ?

 ああ、ゴムのとこに印字されてた


 "Aegis(イージス) Lingerie(ランジェリー)"


 みたいな奴か。

 真ん中にヒーターシールドみたいなザ・盾って感じのロゴが入ってた。

 多分店名の"Ages(エイジス)"とかけてんだろうけど、しかし"イージス"ときたか。


 イージスってのはあれだろ? なんか神話かなんかで、神様が娘に与えたとかいう"凄い盾"ってやつだろう?

 いや、女物の下着を着けざるを得なくなってからこっち、売り場で色んな文言を見てきたよ。


 やれ"天使のブラ"とか"女の子の味方"だとか"ふんわり着心地"とか。


 ぶっちゃけ"女の子はか弱くて繊細"と決めつけて"そんな貴女を守ります"みたいなイメージなんだろう。

 や、そういう売り文句自体を否定するわけじゃないけど、何なら星の数ほど見たって感じでさ。


 其処へきてついに"最強の盾"来たよコレ。

 ってなってちょっと笑ってしまった。


 着替える時の感想がぶり返して、思わずクスリと笑いが漏れる。

 そんな俺に少しほっとしたような表情を返す、サキさん。

 デザイン選ぶときにはなかったアレンジに、俺が納得してないと勘違いしてしまっていたようだが。


「なんかちょっと、浮かない顔に見えたものだから」

「あー……」


 視線怖い。の(くだり)が顔に出ていたか。

 まぁ実を言って心配させることもない、か。


「や、このゲーム、服の汚れが残んないじゃないですか」

「ええ。楽でいいんだけどちょっと油断しちゃうわよね」


「そうそう。で、脱いだ下着なんて、リアルじゃそのまま洗濯籠に投げ入れてんのに。汗染みひとつなくって」

「あーなるほど」


「そのまま畳んで、インベントリにしまってホントに良いのかって悩んじゃって」

「あ、わかるー」


 私も最初の頃はそうだったわー。

 とかしみじみと語るサキさんと笑い合って。

 話題が流れるついでに、そう言えば、と思い出して。


「そういえばセーラー服(コレ)じゃやっぱり目立つからって、新しい衣装を用意しよって事になったんですが──」

「あらウチを御贔屓くださるのかしらー?」


 さっきの心配事もどこへやら、ウッキウキでもみ手するサキさん。

 あ、俺で着せ替え楽しむ気満々だこの人。



 ◇◆◇◆◇



「さて、どうするかな」



 エイジスを後にした俺は、ヴァルハラのマーケットをぶらつきながら、今後について考える。


 あのあと、ケンちゃんさんの知り合いに和装をお勧めされたんですが、とサキさんに切り出して。

 エイジスで着物や袴の取り扱いがあるかと確認したところ、だ。


 "え、着物?……うーん着物かー"


 とちょっと色よくないお返事。

 何か問題が? と重ねて聞けば。


 実はこのThebesでは、長らく"和服のレシピ"のようなアイテムが見つかっていなかったんだそうな。

 本当につい最近になって、とあるプレイヤーがどこからともなく持ち帰って、ようやく流通し始めた、といった感じらしい。

 サキさん曰く、服飾プレイヤーがフリーデザインで見様見真似したものならだいぶ初期からあったそうなんだけど、折角"純正"があるのにそれじゃ満足できないでしょ? と。


 "つまり、むっちゃお高価(たか)い、と"

 "そゆこと"


 簡単な"着流し"みたいな奴ならそんなでもないけど。いやそこかしこに居るしね。

 でもきちんとした行燈袴、しかもオーダーとなるとちょっとお値段が張るらしい。


 えっと、おいくらまんえんで?

 怖ず怖ずと、俺が覗き込めば。

 サキさんは申し訳なさそうな顔で


 "それこそNPCからゴムの下着を買うようなものね"


 と。

 つまり"貴族のお召し物"

 具体的には5000シルバーから。


 まいった。

 新しくした下着を、またぞろうっかりで見られたりしないうちに、とっとと着替えてしまいたかったのだが。


 ふぅ、と溜息ひとつ。

 ステータスウィンドウの端に書かれた所持金を眺める。


 残金743シルバー。


 ……どうしたって、金策が必要だ。

 誰か、お金稼ぎに付き合ってくれそうな、誰か。


 俺はウィンドウを操作してフレンドリストを開く。

 といったって数えるほどしかない。一目瞭然だ。


 頼みのきゃみさまが残念ながらオフライン。

 そんでもってその少し下の方でフユキ──つまり高坂のみがオンライン標示。



 ──二人きりは、マズい。

 

 頭の中でそんな警鐘が鳴る。

 きゃみさまにも申し訳ない。

 そして、俺に一度明確に交際を断られて、はっきりと口に出来なくなっただけで、まだあきらめられない、みたいな暗黙の好意を浴びせられるのは。



 正直、つらい。




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