第21回 「しんぢゃぅ」
和装、することんなった。
また"奇抜な格好"として目を引くだろうか。
"日本人向けのファンタジーで逆張り的にブシドー気取る一定の層"とは、例の着物の女性、伊春さんの言だが。
まぁ、俺とて女性の体なる前はそれなりにゲームする少年だったよ。
で、確かにそう。
確かにそうなんだ。
ケンちゃん武器防具店でそうと決まった時は
ほんとにそうだったかな?
もしかして俺(予定)と伊春さんしか居なかったりしないよな?
なんてちょっと不安にもなったりしたんだけど、翌日の今日、ヴァルハラの街を歩いてみればだ。
いやきっと、元から居たんだろう。俺がさっぱり興味を示していなかっただけで。
でも気になって探してみれば割とそこかしこに"ブシドー"
鎧甲冑に太刀佩きだったり。着流しの浪人風だったり。
まぁわりと、そこかしこ。ちょっと安心。
ただあれだ、件の伊春さん曰く。
"女袴は男袴と違て腰より高い位置で帯締めよぉから、どのみちまともに刀は佩けんのやけどね"
なるほど女もんのベルト位置は、確かに腰骨上というよりウェストって感じだ。腹横っていうか。
袴の腰ひもをその位置で締めてるのに、よくある時代劇のサムライみたいに刀を紐に差そうとすると、位置が高くなって抜くとき脇切りそうになる、らしい。
そもそも単純に抜きづらいことこの上ない。
これは、何だったらセーラー服の今もそうなんだが、どうやら改善はしないらしい。
まぁ刀って完全に男社会の時代の代物だしな。
"そもそもそういう風に出来て無い"
存在からして差別的って考えると、まぁ現在無いのも頷けるというもの。
なら何でそんなもんを、ケンちゃんさんに勧められるままにメイン武器にしてんだって。
そりゃ単純に
"かっこいいからだよ"
ででどん。
武器や兵器、攻撃力、破壊力、殺傷力なんかに憧れるのは"おとこのこ"にありがちだ。
そう言った意味じゃ、こんな体になってなお、俺の精神構造っていうか、"脳みそだけは男"みたいな慰みを感じないでもない。
でもそんなことを口に出してしまえば、やれ
"男だけの特権ではない"
"女の子だってロボ武器兵器大好きで何が悪い"
とか一部の女子には怒られちゃうんだろう。
そんでもって確かに居るんだ。そういう女の子たち。
女性になった今となっては、是非ともお近づきになりたいくらいだ。ははは(真顔)
そんな自虐思考を溜息と吐き出しつつ、商業区のマーケットをのらりくらりと目的地へ。
世間──VR空間内でそれもなんだが──世間は月曜日ながら、夏休みのシーズンでもある為、学生プレイヤーたちで往来はそれなり。
あれちょっとまてよ?
目当てのお店の店主は、社会人プレイヤーではなかったか──
◇◆◇◆◇
結果的に言うと営業ってた。
いやそれは良い。
ほっとするのも束の間。
2046年8月20日、月曜日。
世間の社会人たちはまじめに仕事に勤しむ、夏休みシーズンの平日午前中。
営業中のゲーム内店舗。普段何のお仕事してらっしゃるのか。
セレクトリア王国王都ヴァルハラ市、商業区リバーサイドマーケット
服飾店"Ages"
そう。俺は先週ここで注文した新しい下着を受け取りに来た。わけだが。
わけだ、が。
ててん。
店先から覗く、レジカウンターで店番をしているのは、どう見ても店主、エイジさん。
黒髪オールバックに、整った顎髭が素敵な二十代後半って感じの男性。
ワイシャツにスラックス。店のロゴらしいものが書かれた黒いエプロンがちょっと素敵で。いやそれはこの際今はどうでもいいとして。
そう男性。
そして何度でも言うが、今の俺は曲がりなりにも女性だ。
はなもはじらーじょしこーせー(笑)ってやつだ。
いやもう、何なら先週木曜日に注文して、"明後日には出来てるから"とか言われて週末取りに来なかった俺が悪いよ?
悪いんだけど。
これはちょっと失念してたっていうかそう言う可能性を考慮出来て無かったっていうか。
良いかもう一度言うぞ。
エイジさんは年上のイケメンで男の人だ。
俺は女の子だ。今は。
注文した下着は色気のないデザインながら当然女物で、組のブラジャーとショーツだ。"女の子ぱんつ"ってやつだよ。
……言うのか。
"先週注文した下着を受け取りに来ました"
ってにこやかに。
言うのか。異性に。
いや相手にしてみれば服屋だ。そう言う事なんか日常茶飯事で慣れてるのかもしれない。
さわやかな笑顔で、ちょっと待ってねとか言ってバックヤードから、今から目の前の相手が身につけるのわかってる女物の下着を取り出してきて。
これで間違いありませんかー? すぐお包みいたしますねー。ハイ。って。
ひきつった笑顔でそれを受け取る自分を想像し。
てけてん。って効果音と共に三回アングルが変わったところで正気に戻る。
"絶っっっっっ対に嫌だ"
だってだって。お前あれだもし渡される時に向こうは何の気とはなしにって感じで
"若いのに結構そっけない奴着けてるんだね"
とか逆に慣れてるからって感想の一つも呟かれてみろよお前。お前。誰に話してんだお前って誰だ。なぁお前。
"しんぢゃう"
店先でひとり、両手で顔を覆ってしゃがみ込む。
そしていい加減、俺が店先でうろうろしてることに気が付いたエイジさんが、その様子を不審に思って店から出てくるんだよ。
あかんもうこれ逃げられん奴だ。
どうしようどうしようどうしよう。
「え、っと。なつぴこちゃん、だっけ? どうしたの? 大丈夫?」
ちょっと困ったような、でも優しげで真摯なその対応に、後ろめたい気持ちでいっぱいになる。
ここまで来てなんでもありませんさよならでは通らない。きっと通らない。
「う、うー……」
涙目で唸りながら見上げるしかない俺に、いよいよ困った顔のイケメン。
進退窮まったと観念しかけたその時。
しゅわーん。って気の抜けるような音と共に、無人となったお店のカウンターに薄青く輝く光。
誰かと確認するまでもなく、エイジさんの奥さんのサキさんが、その瞬間ログインしてきたのである。
地獄に仏とはまさにこのこと。
「うわぁぁん!」
俺はもう半泣きになりながらサキさんへと駆けよって、その服の裾に縋りつく。
先週俺の注文を受けた本人でもあるサキさんは、泣き縋る俺を見て一瞬"若い娘になにしてんのよ"って、自分の旦那であるエイジさんにジト目を向けるが。
次の瞬間、驚異的お察し力でもってすべてを理解した様に、目を丸くした後、あはー、って遠い目になり。
「えいじー。こっちあたしが対応するからリアルの方の店番お願い」
「え? あ、うん」
エイジさんもエイジさんで一瞬キョトンとするも、おおよその事はお察しいただけたのか、苦笑いしながらログアウトしてゆく。
た。
たた、たすったすっ。
たすかっ……た。




