第20回 「スカートみたいなもん」
前回に引き続きケンちゃん武器防具店。
もはや隠しているようで隠せても居ない恋心。
しかし、俺が言うのもなんだが黒髪着物の女性は、まるで気が付く素振りがなく。
本人曰く"ド鈍感"
"まだほんとに中身女の子かも定かじゃない"とはケンちゃんの言。
いやもうこの関心の無さったら、マジで"そう"なのではないかと。
まぁ、でもわからない。
俺とて生粋の女子というわけでもない。
そもそもそこは男も女もなく"人それぞれ"と言えば、そう。
本来の用事であったという玉鋼──刀の材料だという──をやり取りしている二人を遠巻きに眺めながら。
まぁこの二人については時間をかけてアプローチしていくしかあるまいよ、というか出来たらあんまり触りたくないなァ、なんて溜息を吐きつつ。
ふと、思い立って。
と、いうか話題を変えたくて。
隣で"いいとこなんだから邪魔すんじゃないわよ"みたいなデバガメ顔してるきゃみさまをバッサリぶった切って。
「あの、ケンちゃんさん、ちょっと相談したいことあんですけど」
「お、おう?」
◇◆◇◆◇
「新しい衣装相談?」
「そうです。さすがにそろそろセーラー服じゃ不必要に目立つかと思って」
「で、後ろのピンクいのが睨みを利かせてて色々制約が付いてると」
「スカート限定、らしいです」
「でもなんだって武器屋男」
「そこはぶっちゃけ誰でも良いっていうか、相談したい時にたまたま目の前に居ました」
そろそろ立ち話もなんだってんで、店先の丸太椅子に座って、一同。
隣には"譲らないわよ"って仏頂面したきゃみさま。
正面に"それをなんで俺に"って顔したケンちゃん氏。
なんか帰りそびれた風のいはるさん。
「自分で言うのもなんだが、さすがに相談相手を間違えてないか」
御多分に漏れず、達筆に謎な一文が書かれた白Tシャツをつまみ上げて、ケンちゃん氏。
今日の奴は"りあじゅぅばくはつしろ"とか書いてある。
…………。
「あ、まって。"まぢでそうかも"みたいな顔しないで。絶妙に傷つきます」
「え、いや、なにも」
けちょん顔のケンちゃん氏は、例によって後ろ頭をがりがりと搔き。
ため息。のあとに、自分の横で他人事みたいな顔してる着物の女性を指し示し。
「そしたらお前ぇ、もうちょっと参考になりそうな人がそこに」
「え、そこであっしに振るん!?」
「男のオレよりは適任なのでは」
「そんなん言うたかて、あっしずぼらやし、他人様の格好に口出せんよー」
着物の女性、伊春さんは目の前でブンブンと手を振って謙遜なさるが。
俺的には、あー、まー、確かにそうかもな。と。
「あの、あーしろこーしろってんじゃなくて。貴女の"お薦め"を教えてくれるだけでも」
「う……」
いはるさんはどうにも苦しそうに唸るが、まぁその、真面目に考えてくれるだけで俺的には御の字なのだけど。
流石に無茶振りだったかと、俺が話題を斬り上げようと思った矢先。
「せや!」
閃いた! とばかりに、いはるさん。
思いついてしまえばとたんに乗り気なのか、少し興奮気味に指を立てて。
「あっしのお勧めちゅうたら、こんなかっこしとるもん。そりゃ"和服"ちゅうことになるんやけどなー」
「え、着物ってことですか?」
「着物って脚開けないんでしょ? いや開くとぱっかーんしちゃうっていうか。チャンバラ向いて無くない?」
きゃみさまも加わって疑問の声。
いはるさんはチッチと指をフリフリ。ちょっと得意げに。
いや折に触れて思うがこの人、年上なのか可愛らしいのかよくわからんな?
「いやこれはこれで、ちょっとやそっとじゃ見えへんのやけど、そうやなくて」
「でも和服って、着物とか浴衣とか」
どちらにしろ前合わせのワンピース衣装だろう、と。
きゃみさまも頷いているが。
「あっしの勧めたいのは"袴"やー」
「えっ」
「袴ってあの、剣道部とかが着てる奴です?」
「や、剣道着っちゅうんやなくて。えっと、袴ってのはなー?」
袴ってのは俺が思うに、スカートみたいにヒラヒラしてるけど、その実股が割れていて、構造的にはものすごく緩いズボンみたいなものだ。
少なくともうちの高校や、出身中学の剣道部が着てたのはそう。
だとしたらきゃみさまの言う"スカートで"という要件は満たせない。
しかし伊春さんの言う事にゃ、それは剣戟を立ちまわったり、サムライが騎馬に跨るために割れているためのもので、騎乗袴──所謂"男袴"とか言ったりするのだそう。
で、それじゃないなら何なんだという事なんだけど。
袴には"行燈型"ってのがあって、そちらは股が割れておらず、まんまスカートのような構造なのだとか。
古くは神社の神主や、馬つかわないけど地位の高い人なんかが使ったりして、古式袴とか言われたりもするとか。巫女さんの緋袴なんかは今もそう言うのもあるらしい。
俺達素人にもなじみ深いたとえをするなら"大正ロマン"とかだろうか。ほらあれだ、大昔の女学生さんの衣装だ。
総じてそういう構造のモノは"女袴"とか言ったりするそうだ。
「でな、でな。厳密には女袴やと、帯位置が高くて普通に帯刀はできんかったりするんやけどな。大昔のゲームにそんなカッコで刀持ったような人気のビデオゲームヒロインが居ってな」
ちょっと興奮気味に袴の良さを語る伊春さん。ふんすふんす。
いや、和服好きなんだろう。本人も着物着てるくらいだし。
これはあれだ。もしかして俺、今、布教されてるんだろうか(笑)
「それにこれやったら所謂スカートみたいなもんやし、それでいてロング丈が基本みたいなもんやし、袴が捲れたところで着物の裾が見えるだけや」
「へぇ」
「な。な。お嬢さんぱっつん気味の黒髪やし、似合うと思うんや。それに袴やったら今使てるブーツもそのまま使えそうやし」
「なるほど」
正直、俺は乗り気だった。
未知のファッションではあるが──
「そっちのピンクのお嬢さんの要件もこなしつつ、お嬢さんの言う"捲れて恥ずいの嫌"ってのもなんとかなるし、ええと思うんやけど」
「そうですね!」
そう。結局はそこだ。
きゃみさまの言う所も、俺の望みも一応にクリアしている。そんな都合のいいファッションがあろうとは。
どうなの? と、きゃみさまを振り仰げば。
顎に手をやって熟考、してるフリ、みたいな胡散臭さを出しつつも有無と一つ頷いて。
「──アリね」
「やった!」
「ま、中の着物を裾上げしないなら、脚は開きづらいから、チャンバラするなら"すり足"的な歩法の練習は要るかもやけどー」
「うぐっ」
れんしゅう が ひつようだ。
なんにしろ姉御のお墨付き。
方針は固まったと喜んでいれば。
「盛り上がってるとこ水を差す様で悪いんだが」
大変申し訳なさそうに。
途中から蚊帳の外だった殿方が一人、おずおずと手を上げるのだが。
「?」
そんなケンちゃん氏を振り仰げば。
「ナツヒコ、お前ぇよう。セーラー服じゃ周りから浮くから着替えようってんだよな?」
「あ」
「あっ」
そう、つまり着物に袴ではどのみち浮く。
──のではないか。という事だが。
俺ときゃみさまは、はたと気が付いたように真顔になってしまうわけだが。
「なんやー! 剣十郎さんそしたらなにか。あっしが周りから浮いとるって言いたいんか!」
「え、いやしかし、Thebesはどっちかっていうと西洋ファンタジーだし、往来でそう見かけるかって言ったら……」
「日本人向けのファンタジーで、プレイヤーが逆張り的にブシドー気取るなん、昔から一定数居ったやん!」
「いつの時代の話してんだよっ」
そしてあんた、実際何歳なんだよ、と。
なんだか俺達をそっちのけてすったもんだを繰り広げ始めた二人を眺めつつ。
「で、どうなの?」
と、きゃみさま。
「や、まぁ、少なくとも俺ともう一人、居るわけだし」
「じゃあ決まりね」
俺の和装が、決まりました。




