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第2回 「そう言えばこれネトゲする話だったわ」

挿絵(By みてみん)



  駅南のアミューズメントパーク含む複合施設「パレス」

 そのほど近い海岸沿いの喫茶「ソラリス」


 午前10時。

 この時間頼むものなんて決まりきっている。

 モーニングセット。400円以上のドリンクの注文で色々ついてくる、学生の味方だ。


 ハーフサイズながら小倉餡トーストがなかなかうまい。

 ホットのブレンドコーヒーに、ミルク、と角砂糖を1つ。2つ。


「相変わらず甘くするわねー」

「きゃみさまはよくブラック飲めるよな」


「そういやアルバイト、決まったの?」

「あ、うん学校帰りに寄ってける本屋。エプロンだけ着ければ制服のままで良いっていうしさ」


「セーラー服のまま……?」


 そこまで話したところでぴくり、と。

 きゃみさまの手が止まる。何だろうか、と思うものの、何をどうできるものでもなく、話しを続ける。


「品出しとか、店内清掃とか希望って言ったんだけど、女の子は接客してくれないと困るとか言われてさ。結局レジ打ち」

「あーね。アンタの顔見て裏方に使うとかアタシでもしねーわ」


「??? どゆこと?」


 俺が心底わからない、と首をかしげて見せれば。

 きゃみさまは盛大にため息を吐いて。


「美少女には客寄せに使われる義務があるって事よ」

「俺がレジ打ちしてて、客寄せになるって?」


「ちゃんと愛想振りまきなさい。多少のミスなら許されると思うわ」

「納得いかないな」


 そんなやり取りをしていれば。

 からん。と。ドラベルの軽やかな音。

 喫茶店のエントランスへ目を向ければ、そこには知った顔。


 件のゲーセン仲間、高坂冬樹。

 茶髪の痩せ型、朴訥そうな男子高生。背の丈は170ちょいくらい。

 男子高校生として決して高いというほどではないそれを、今や見上げる形だ。

 あいつと間近で向き合うと、たまに昔の自分の背丈を思い出しておかしな気持ちになる。


 何しろ、店の奥側にいて、高坂と向き合う形のきゃみさまが手を振って。

 俺達に気が付いた高坂が「連れ合いが」と店員のエスコートを断ってこちらへ。



 俺達はお互い4人掛けの通路側に居て。

 きゃみさまがそそくさと、窓側の席に移るのを見て、一方で俺はその場から動かなかった。


「…………」

「…………」


 絶妙な間があって。

 それでも何事もなかったかのように、にこやかな高坂が、きゃみさまの隣に腰を下ろす。


 先日の事件で、高坂からの交際の申し入れを断ったのが、二週間と少し前。

 高坂は笑顔でいてくれたが。

 友達でいてくれると、そう言ってくれたけど。

 そう簡単に割り切れる話でもないだろう。


 流石に無頓着な俺にだってわかる。

 高坂はどちらかで言えば、俺の隣に座りたかったんだろう。

 その場限りの話であれば、そうしてやりたい。でも俺にその気はないのだから、勘違いさせるような態度は、それこそが残酷だろうと思う。


 それに、きゃみさまにしてみれば、きっと高坂に隣に座ってほしいだろう。

 だからこそ、ああやって真っ先に隣を開けた。



 だから、退かない。

 俺は──退かない。



「ホットを。あ、ミルク要りません」


 追って注文を取りに来た店員を返したところで。

 ちょっと焦ったように。

 其れを隠せないのはコイツの良いところだけど、今は時と場合っていうか、乾いた笑いで高坂が。


「いや、両手に花だね」


 なんて心にもない(・・・・・)ことを言うもんだから。


 穏やかな夏の午前。

 日当たり良くも冷房で過ごしやすい喫茶店の窓際。


 俺にはズドギャアアンなんて感じに稲光が見えた気がした。


 すん。て、表情を消したきゃみさまがゆ~~~~~っくりと窓の外へと視線を移し、ちょっと涙ぐみながらぼそりと零す。


「……いいのよ、無理に"含めて"いただかなくて」


 俺が、少し責めるような目を高坂に向ければ。


「いやその……ごめん」


 可哀想なほど小さくなって、高坂。

 ったく。なんで俺なんだ。

 気持ちは嬉しいし、その気持ちごと否定したりはしないが、こんな"男女"の何処が、と今でも思う。


 俺としては、なし崩しにきゃみさまと高坂がくっついてくれれば良い、なんて思っていて。

 そんで、恋仲になっても、たまにでいいから俺とも遊んでくれたらな、なんて。


 苦笑、が。声になって漏れ出ないうちに。


「まぁまぁ。それで高坂、今日呼び出した理由なんだけど──」

「あ、うん。なんだい?」


 其処までに何とか立ち直っていたきゃみさまと、アイコンタクト。

 お互い頷き合って、それぞれ鞄から取り出したものを、テーブルに置いた。


「え、これって」

「そう」


 オンラインゲーム。

 体感型──VR-MMO-RPGのゲームパッケージと。

 全感覚投入(フルダイビング)型のログインデバイス。


 これ、俺もきゃみさまも一度一通り購入しているとはいえ、高校生にとって決して安い買い物ではなかったが、二人、お金を出し合って買った。

 先日の事件まで、俺ときゃみさまが執心していたネットゲームに、高坂を誘う為に。

 



 そう。

 長らくの前置きで、アレだけど、このお話の本文はそこ。


 Thebes(テーベ)World(ワールド)Online(オンライン)

 去年の初頭辺りに、開発中であるという事前情報もろくになく、突如発表された全感覚投入(フルダイビング)型のVR-MMO-RPG。

 リリース直後から驚異的な人気を博し、今や国内ユーザー数トップのオンラインゲーム。

 当初視覚と聴覚のみをゴーグルで体験する「半感覚型」が主流であり、嗅覚、味覚、触覚に至るまでを再現するデバイスは相当な高額であった。

 しかしながら技術ってのは日々進むもので、いまや全感覚型のログインデバイスのお値段は高校生のアルバイトで十分手が届くものになり、ゲーム内ではそれが主流となりつつある。


 なんでもできる。

 今や、異世界で始める第二の人生である。

 その謳い文句に偽りなし、と。



 つまり、だ。

 このお話は、原因不明の性転換で女性になった元男と。

 そんな元男に惚れてしまった不運な男子高生と。

 そんな男子高生に惚れているMtFの元男が。



 体感型のネットゲームするお話、ってわけ。






 ──Thebes:karma──

 






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