第13回 「男向けの愚痴聞きって奴しか出来ませんけどォ」
「はぁ」
「…………」
今度こそ見られた。
気心の知れているとはいえ、男に。
男友達──高坂冬樹に。
いやもう真上も真上、まん丸な目をして俺を見上げてた。
俺の、スカートの中を。
エイジス衣料品店でオーダーした奴はまだ受け取ってない。
もともとステータス画面を覗かれてデザインがバレていたとはいえ、今度こそ決定的にパンチラって奴……。
いや俺が悪いんだけどさ。俺が悪いんだけどさ。ああもう。
それもあるし。
ここ最近他にちょっと思う所もあって。
もんもんもんもんもんもん。
例の金策の後、今日はちょっと一緒にいるとみんな意識しちゃうよねって、解散して各々自分の時間。
同18日、土曜日、午後6時半。
ヴァルハラ市商業区画、リバーサイドマーケット、"ケンちゃん武器防具店"
夏日とはいえそろそろ日も傾こうかといった頃合い。
マーケットはいたるところで灯がともり始め、黄昏時。
ヴァルハラ市はささやかながら電力というものがあるのか、白熱灯が存在し、アンティークのような街灯がいたるところに見受けられる。
特にこのマーケットでは夜通し灯りがともされ、翌朝まで費えることはない。
平日の社会人プレイヤーは必然、この時間帯からのプレイが多くなるため、ここを根城にしている人は多いようだ。
で。
一人の時間をったって、何処とも当てもなく、考えなしにここへきて、店先の丸太椅子に座ってしょぼくれているわけだが。
「…………」
「………………」
すぐ裏手では特段客の呼び込みをするでもなく、商品の置かれたテーブルの裏でケンちゃんが沈痛な面持ちで眼を閉じている。
む――――――んって感じで。
「は、話しかけづらいっ!!」
「!」
わ。割とドストレートな感想来た。
いやはや、二十歳前後くらいの年上が、自分の表情一つでこうもたじろぐのが少し不思議に感じるが、これはこっちから何か言わなきゃいけない奴だろうか。
苦笑、して。
「あー……お邪魔なら、どこかへ行きますけど……」
「いや邪魔じゃない! 邪魔じゃないんだが、いやその」
そういってこめかみを押さえながら待てのポーズ。
何を躊躇うのかわからず、軽く首をかしげて見せる。
ケンちゃん氏は何かを吹っ切る様に、大きく吸って、吐いて。
「いや、これでしょぼくれてんのがフユキだったら一発ド突いてやるとこなんだが、何分女の子の扱いは素人なもんで、サ」
その言葉を聞いて。
自分でもどういうわけかわからないんだけど。
急速に自分の心が冷えていくような。
泥沼に沈み込んでいくような。
そんな感覚が有って。
気が付けば、なんだか泣きそうな気持ちでケンちゃん氏を見返して。
「俺は、ド突いてくれないんですか……?」
「いや、さすがに女の子ド突くわけには──え?」
◆◇◆◇◆
「あの、すみません。なんか気を遣わせたみたいで」
「そら、あんな顔されたらよぉ」
確かに泣きそうな気持ちでああ返したが、実際そんな顔をしていたろうか。
あの後ケンちゃん氏は無言で店先にクローズドの看板を掛け、呆けている俺の肩を抱いてテントに招き入れた。
西洋映画かなんかでたまに見るような、戦中陣幕みたいな高さが有って、でもそんなに広くはないテントだ。
幕に背をつけるほど椅子を引いても、ケンちゃん氏の顔はほんの数十センチ先、といった具合。
「あんまり……人に見せない方がいい。その、オレにも」
「……?」
泣きそうな顔を、という事だろうか。
わからず、わずかに首をかしげるにとどめる。
「ええと。付け入ろうとする奴もいるよ。胸糞悪いことに」
ああ、傷心に、という事か。
そんなに酷い顔してたろうか。
ランタンひとつ。
そう広くもないテントの中でふたり。
丸太を短く切っただけの椅子に座って向かい合う。
いや、目の前の金髪のお兄さんは顔を赤らめて横を向きながら。
なんだか可笑しいな。俺が、そうさせているのか。
俺が。
女の子だから、彼はそういう態度になるんだろう。
それは、考えないようにしていたのだけれど。
それは、割り切ったつもりでいたのだけれど。
俺は。
もう、女の子になったつもりでいたのだけど。
女の子に、なることに決めたつもりになっていたのだけど。
だけど──
「キミが……何を悩んでんのか知らないけど──」
横を。向いたまま、ケンちゃん氏。
苦虫を噛み潰したような顔で。
そこで言葉を切り、もどかしそうにがりがりと頭を掻いて。続ける。
「──"武器屋のケンちゃん"としてはぁ。男向けの愚痴聞きって奴しか出来ませんけどォ」
溜息ひとつ、ようやくこちらを向き。
「それでも良ければ。聞くけど、どうする?」
心底困った顔で。年上の男にそんな提案をされて。
顔が歪むのを寸でで止めるみたいに、苦笑──
──苦笑、して。
「いいっスね。それ。今夜だけ男扱い、してくれます?」




