庭
攫うのはムリでも、会見につれてこいという指示は出せる。
そのうち、そういう方法を取るのもアリだろう。
だが、それは今じゃない。
ケイはいつか実践するであろう長老誘拐のシナリオを考えつつ、シームァと並びラテーシア家の外周を歩いていた。
柵に囲まれた庭。
柵の内側に、一定の間隔で木が植えられている。
手入れしている庭師と目があい、頭を下げて通り過ぎる。
家の周りを一周しても、長老は見えなかった。
――外から見える位置にいるはずもないか……。
「じゃあ、次は、中央の方へ……」
行こうか、とクラルが言いかけた時だった。
「コーヒー屋さん?」
二人は後ろから声を掛けられる。
振り返ると、そこにミンがいた。
* * *
「やっぱり。旅の人が家の前にいると聞いて……」
ミンは、笑顔でそう話した。
「大きな家だと思って、見てたんだ」
と、クラルが言う。
本当は環境維持ロボを操ってよくこの周辺は来ていたし、大きな家なのは百も承知だった。
「ちょうど良かった。コーヒーを売ってほしくて」
と、ミンは愛想よくにこやかにシームァに話しかける。
「コーヒーは行商さんに売ったから、買うなら行商さんから……」
「そう? どうせなら直接、買いたかったわ」
答えるミンはあいかわらず笑顔だ。
なんだか無理矢理な笑顔だと、クラルは思った。
――まさか、長老誘拐を見破られた?
クラルはシームァをつれてその場を離れようと思った。
「せっかくだから、庭、見ていかない? 庭が気になってるようだから、ぜひ」
と、ミンは言う。
「え? いいの?」
シームァは乗り気だ。
クラルはどうやって断ろうか、考えていたのに。
「あのお花畑が気になってたの」
と、シームァが指さした。
「お花畑?」
クラルは、シームァの指さした方を見た。
クラルの知る限り、この地にお花畑なんてないはずだ。
「あぁ、あれね。よかったらどうぞ中へ」
シームァは頷く。
クラルは、複雑な思いでラテーシア家の庭に足を踏み入れるのだった。




