第2話 なにあの子、ものすごく綺麗…
三重県に引っ越してきて、その近くの学校へ入学することになった。
その日初めて出会う同級生たちは、いろいろだった。騒がしい人、静かな人、かわいい子、かっこいい子。
ひときわ目を引いたのは、私の前にいる子の女の子だった。
目立ちたくないのか、少し俯いている。しかし、他の女子と比べると、また、一部の成長期にかかっていない男子に比べても、少し高い背のため、頭一つ分目立っていた。
整った顔立ち、黒く光沢があり、風が吹くとさらさらと流れる髪。表情は少し困っているようで、これが“ハッコウの美女”というやつだろうか。
私は、この子と友達になりたいと思った。今は眉をひそめて何かを考えているような顔だが、口角と眉毛の角度が変わったら、つまり笑顔になったら、もっときれいで、絵になると思うのだ。どうにかして、彼女の笑顔を引き出してみたい、そう思った。
思いついたら即行動が私のモットーだ。入場の前に話しておかないと、いや時間がたつほど、話しかけにくくなってしまうだろう。先手必勝である。
「ねぇ、私は谷春香。あなたは何て名前?」
すると、彼女は澄んだ声で、しかし少し緊張した面持ちで答えた。
「私は宗谷房子。はるかちゃんね、どこの小学校から来たの?私は鈴鹿小学校なの」
うっひゃー!こりゃ上玉ですぜぇ!こうふざけたくなるくらい、彼女の声は美しかった。なにこれ。てんはにぶつをあたえず、とかなんとか言ってたけど、この子3物もってるじゃない!私は彼女にフォーリンラブ。
なんとか一緒に遊びたいと思って、こういった。
「えっとね…すおう、ってわかる?山口県なんだけど…中学からこっちに引っ越してきたんだ。鈴鹿ってことは地元だよね。よかったら明日でも、三日市このあたりを案内してくれない?」
しゃー!いったぞ!言っちゃったぞ!ただ、いい答えがもらえるか、内心ものすごくドキドキしていた。
「いいよ!実はおしゃれなカフェがあってね」
やったー!もうクラッカーならしたい!案内だけじゃなくて一緒にお茶もできそうじゃないですか奥さん!
私は式の間中、ニヤニヤが止まらなかった。後で担任の金田一先生に叱られた。
房子ちゃんの家が私と同じ方向だと聞き、明日死んでもいいと一瞬思った。気の迷いとはいえいけないいけない。これから学校ではおはようと言い合って、帰りにまた明日と言い合うのだ。クラス内ではドラマについて語り合ったり、音楽について聞いたりしたいんだ。だからまだまだ死ねない。
春香はこれから起こるであろう学園生活に、楽しみしか見いだせないことに驚きつつも、うきうきとしながら帰り道。
「そういえばさー、あ、その前に、房子ちゃんってなんか呼びにくいから、ふーちゃんって呼んでいい?」
あだ名で呼ぶのは仲良しの第一歩である。砕けた呼び方ができるっていいよね!
彼女は了承してくれた。
「それでふーちゃんってさー」
そこでトラックがやってきた。
「すごい可愛いよね」
口からこぼれたその言葉は、トラックの起こす砂ぼこりにかき消され、吹き飛ばされた。
呟いてみて、無性に恥ずかしくなった。聞こえなかったとはいえ、いきなりそんなことを言うなんて。聞こえていたら、早くも失望されていたかもしれない。
改めて聞かれたが、うまくごまかせたようで、そのあとは何も聞かれなかった。
家について、言った。
「またね」
玄関を入って、悶絶した。キャー!あんなかわいい子と友達になれたー!
先に家に帰っていた両親が怪訝そうな顔でこちらを向いて、
「何やってんだ春香、さっさと手を洗って着替えなさい」
と言った。
「はぁい。あ、そうそう!今日ね!すぅっっっっっっっ」
「まだかかるのか?」
父が口をはさむ。
「邪魔しないでよ、まだまだなんだから。でね、今日ね!すうっっっっっっっっっっっっっんごくかわいい子と、友達になったの!」
母が答えた。
「あらあら、それはよかったわね。近くの子なの?」
「そうそう、三つ隣の家みたいでね!明日遊ぶ約束しちゃった!」
父はそれに対して、こういった。
「そうか、よかったな。仲良くやるんだぞ。それはともかく手を洗え」
部屋に入って着替え、ベッドに飛び込む。
「はぁー。すごかったなぁ、あの子。明日、早く来ないかなぁ」
すると、うちの電話が鳴った。小さな声が聞こえてくる。
「はい、谷です。はい。春香ですか?じゃああなたが…はい、ちょっと待ってくださいね」
「はるかぁー?そうやふさこ、って子が…」
全力で階段をかけ下りる。そして、母から奪い取るように受話器を手にする。
「ありがとっ!もしもし?」
ふーちゃんからの電話は、明日の約束のことだった。あちこちお気に入りの場所に連れて行ってくれるみたいだ。すんごくうれしい。
春香はこの夜、興奮で眠れないだろうなと思っていたが、これまで興奮しすぎていたため、かなり疲れがたまっていた。だから、お風呂を上がってベッドに入ると、すぐに夢の世界へいざなわれていった…
谷春香…ハイテンションな体育会系。小学生の時に兄と混ざって軟式野球に取り組む。小学生の中ではかなりの長打力をもっている。中学からは野球じゃない別の部活動に入りたいと思っている。




