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未完成作品集  作者: 京 高
真名探求研究会
18/20

真名探求研究会11

 薄暗くなった生徒会室で昇とサクラは向かい合って座っていた。どちらも口を開こうとはせずに沈黙が場を支配している。

 そのため、せっかく掛けた防音の魔法――予定通り「外に聞こえるとまずい」と言っておいた――は用を足してはいないという有様だった。

 あの後、松野とはクラブ棟で別れて生徒会室へと戻ってきたのだが、二人とも事件の全貌に半ば茫然としていた。

 よく氷山の一角と言われるが、サクラが教師たちから聞かされていたことが正にそれだった。


 事件当日の夕方、松野たち前生徒会役員の四人は魔法学校の近くにある行きつけの喫茶店『カ・フェ屋』に集合して慰労会を始める。二時間ほど飲み食いしてそろそろお開きという頃に同学年の知人に会い、会計を除いたメンバーで移動を開始する。

 途中知人とも顔見知りである野球部員二人に連絡を取り、事件を起こした店の『れすタウ』で合流して二次会が始まることになる。実は先の『カ・フェ屋』もこの『れすタウ』も同じオーナーの店であり、代々の生徒会の行きつけだった。

 そして、ここで昇が睨んだ通り全員飲酒をしていた。


 ここまでは予想通りであり、酒に酔った上での喧嘩、魔法使用ということであれば騒ぎを収めるのは容易かっただろう。

 まず店側に飲酒の事実を確認――もしも拒まれても、未成年だと知りながら酒を提供したことをちらつかせれば、気分よく話してくれるだろう――し、それをもとに知人と交渉――という名の口止め――をすれば良い。

 後は互いに禍根を残さないように当事者同士による話し合いの機会は設けてやれば、一件落着である。


 しかし現実というのはそう上手くはいかないようにできているのものようだ。


「まさか松野たちの知人というのはプロ入りが確実視されているような奴だったとは……」

「しかも魔法を使った理由がその場に居合わせたフリージャーナリストに写真を撮られそうになったから、だったなんて」


 居合わせた、というのは方便で本当は付け回していたのだろうが、今となってはどちらであっても大差のないことである。


「さらにそのフリージャーナリスト、治療の為に入院しているそうじゃないか。ゴシップ誌どころか新聞の一面も飾れるくらいの大ニュースだぞ」


 こちらの治療の為というのもまた方便で、実際は鶴西剛三の息のかかった病院に監禁されているのだろう。


「それだけじゃないわ、もしも松野先輩と鶴西先輩のことまで明るみに出てしまったら手のつけられないことになる」


 人間とは他の者にない力を手にすると、それだけで偉くなったと勘違いしてしまう生き物である。

 魔法使いたちも同様で、魔法使い至上主義を掲げる極端な者たちもいる。また、力を持たない者の中にも極端な考えの連中はいて、魔法使いは人間ではない――よって生体電池として搾り取るべき――とする魔法使い排斥論者がどこの国にも少なからず存在している。

 今回の事件は下手をすればそうした極論者たちを勢い付かせてしまうことになる危険性すら持っているのである。


 ウンド魔法学校の高等部並びに中等部において全生徒に部活動が義務付けられているのは、そうした極論に安易に走ることがないように、他校の生徒との交流の機会を持つ為でもある。

 そのため対外試合を行いやすい運動系の部活が推奨、優遇されている。


「これはもう理事の人たちの政治力で何とかしてもらうレベルよ」

「だけど、任せきりになるのはまずい。貸しを作るのはこの際目を瞑るとしても、俺たちか少なくとも学校主体でないと、これから先良いように扱われることになるぞ。特に鶴西剛三なんかは……」


 そこまで口にした所で何か違和感を覚える。


「どうしたの?」


 黙り込んだ昇にサクラが尋ねてくる。そうだ、この違和感はサクラに起因するものだ。

 しかしそれが何かが分からない。再び声を上げようとする彼女を手で制して、さらに深く思考の海へと潜る。鍵になるのはサクラ、そして鶴西に関することの二つだ。


「……あ!」


 突然の閃きに思わず声が漏れる。


「今度は何?」


 訝しがるサクラに説明しようとした所で踏み留まる。素直に話してしまって大丈夫なのだろうか。先程の閃きが正しいとするならば、目の前に座る彼女は鶴西の側の誰かと繋がっていることになる。

 そこまで考えた時点で昇は頭を振った。松野がその気になればこちらの現況など向こうに筒抜けになってしまう。今更情報セキュリティについて考えた所でどうなるものでもないので、気になることはストレートに聞くことにした。


「鶴西の裏口入学内定は誰に教えてもらったんだ?結構なレベルの秘密情報のはずだ」

「何のことかと思えばそんなこと?いきなり黙り込むから驚いちゃったわ。……えっと、あれは確か……、そう。真由美さんから聞いたのよ」


 敬称を付けたことから上級生だと思われるが、該当する人物は思い浮かばなかった。


「真由美……?記憶にないな、編入組か?」


 魔法の素質の覚醒は生まれつき、またはごく幼い時期に起きるのが大多数であるが、まれにある程度の年代になってからという者もいる。そうした者たちも受け入れられるように、魔法学校には編入制度が導入されている。


「高等部からの編入よ。それにしても昇、お願いだからもう少し学内の事情に詳しくなって。生徒会副会長が前生徒会役員を知らないなんて冗談にもならないわ」


 定番になりつつあるやり取りの後、サクラは盛大に溜め息を吐いた。


「前生徒会役員だって!?それじゃあ慰労会の二次会に参加しなかった会計というのは彼女のことなのか?」

「その通りよ」


 昇が副会長に就く――一応まだ内定の段階である――までサクラは一人で生徒会業務をこなしていた。特に歳入、支出について会計だった真由美に尋ねる機会は多かっただろう。


「ふむ、サクラとその彼女との接点は分かった。しかしどうして彼女は鶴西が試験で落ちたことや、鶴西剛三の介入によってそれが覆されたことを知っていたんだ?」

「同じ生徒会仲間だからじゃないの?」

「失敗談だぞ、相当仲が良くなければ話すことはないと思う。それに試験自体は極秘のものだから誰彼構わずに伝えることはできないはずだ。その点から考えると松野から漏れたというのも考え難い」

「つまり真由美さんは独自のルートでその情報を仕入れて、わざわざ私に話してくれたっていうこと?」

「恐らくは。慰労会で本人が話したという可能性もあるけれど、彼女は一次会のみで帰っているからとても現実的とは言えないな」


 事件の起きた二次会でならば酒に酔った勢いということも在り得るが、余程の破滅志願者でもなければ学外のどこで誰が聞いているかも分からない場所で話したりはしないだろう。


「でも、一体何の為に?」

「そこが問題だ。サクラに喋ったところで彼女の得になることがあるとは思えないんだよな。ちなみにその話を聞いたのは事件が起きた後かな?」

「いえ、事件の前よ。あれは……もう半月以上前だったわ」


 そうなるとますます分からなくなってきた。鶴西剛三は後ろ暗い噂の絶えないタイプの政治家で、息子を裏口入学させる位はやってもおかしくはないと思われている。

 また当の鶴西自身も清廉潔白で通っていた訳ではなく、松野の話を信じるならばむしろその逆で問題児――同学年しか知らない程度の可愛いものではあったが――だった。


 つまりこの程度ではスキャンダルとしては決定打に欠け、彼ら――特に鶴西剛三――を貶めるには至らないのである。

 それに何よりスキャンダルとして情報をリークするならマスコミのような報道機関や、ジャーナリストの連中の方がよほど効果的だ。生徒会長とはいえ世間的には一介の学生に過ぎないサクラとは雲泥の差であろう。


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