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未完成作品集  作者: 京 高
真名探求研究会
17/20

真名探求研究会10

「ここなら問題ないはずだが、保険は掛けておいた方が良いだろう。サクラ、頼む」

「自分でやれば……って良い言葉が思いつかない訳ね。はいはい、分かったわよ。サウンドプルーフ!」


 サクラの防音の魔法が広がると『真名探求研究会』に静寂が満ちる。

 あの後、松野は昇と廊下での続きのような言い合いの裏でサクラと筆談を交わし――同時に二人と会話しているようなものだったが、難なくこなしていた。中央大学園入学内定は伊達ではなかったということである――、この部屋に移動することになった。


「これで大丈夫だ。それで松野、生徒会室に盗聴器が仕掛けられているとはどういうことだ?説明してくれ」

「丁度去年の今頃、代変わりの機会に生徒会室の大掃除をして偶然見つけたんだ。元々は先生たちが生徒の動向を探る為に取り付けたものらしい。とは言っても相当古い物で完全に機能は停止していた」

「それなら私たちには問題がないのではありませんか?」


 爆発物ではないので停止していたのならば危険はないはずだ。サクラの疑問はもっともなものと言えた。しかし松野は首を横に振って続けた。


「問題なのはここからだ。何を思ったのか鶴西はこれを父親である鶴西剛三に報告した。知っているかもしれないけれど、彼は前々から魔法学校の運営に口を挟みたがっていたから、このネタを使い学校を強請って理事会に名を連ねることになったんだ。ほら、去年から行事に来賓として顔を出すようになっただろう」


 言われてみれば鶴西剛三が現れるようになったのは昨年からだ。しかし息子である鶴西が生徒会副会長職に就いていたからであり、そんな裏があるとは誰も考えもしないことだった。


「しかしいざ理事になってみると、息子が足枷になっていることに気付いた」

「足枷?どういう意味だ?」


 昇に問い返されて松野は不思議な顔をしていたが、暫くすると合点がいったようで、


「ああ、学年が違うから知らないのか。あいつは中等部の頃までやたらと問題を起こすトラブルメーカーだったんだ。問題と言っても君たちが知らなかった程度の他愛のないいざこざに過ぎない。一応家には連絡が言っていたけれど、呼び出されるようなことは一度もなかった。

 だけど一保護者でなら問題がなくても理事になるとそうはいかない。鶴西の方も生徒会副会長という大役に就いている。そこでさっきの盗聴器を利用することにした」

「松野先輩が知っているのだから、そのことは当然鶴西先輩も?」

「知っていた、というより「余計なことをしでかさないように盗聴器を付けている」と本人から言われたそうだ」


 松野の言葉に昇とサクラは顔を見合わせた。


「つまり大人しくしていろという脅し、または牽制ということか」

「そういうことだ。そして相手が相手だけに僕たちも大っぴらに動くことができずに設置個所は結局不明のままになっている。ただ、仮に見つけられていたとしても先に釘を刺されてしまっていたから、放置するしかなかっただろうけれどね」

「取り除くことで、反逆の意志があると表明することになってしまう訳ですか……」

「厄介だな。ところで生徒会の代は変わったのに鶴西剛三はまだ盗聴を続けているのか?」

「あの事件のことで情報収集の一環として続けているみたいだ。もっとも聞き耳を立てているのは部下の誰かのようだけれどね。花宮さん、昨日生徒会室でサウンドプルーフを使わなかったかい?」


 コクリと頷くサクラ。


「やっぱりか。突然連絡があって「新しい生徒会役員に盗聴器のことを話してはいないか?」と尋ねてきたよ。「知らない、何かあったのか」と聞き返したら「それなら良い、気にするな」と言って直ぐに切られた」


「声が外に漏れるのを防ぐために掛けた防音の魔法が、盗聴器にも効果を及ぼしたということか。今度あの部屋で防音魔法を使う時には「外に聞こえるとまずい」と前振りをした方が良いかもしれないな」

「そんなことで誤魔化せるかしら?」


 不安げなサクラに昇は首を振りながら答える。


「分からん。だがやらないよりはマシだろう。それにいつも魔法を掛けていれば先生たちに不審がられる。適度に情報を流すつもりでいた方が良い。どうしても秘密裏に話さなければいけないことはこの部屋を使おう」


 そうなると、やはりこの部屋は確保しておいた方が良さそうだ。


「僕も木下君の意見に賛成だ。先生たちに怪しまれては元も子もない。……だけど上手く使えば向こうを撹乱させることもできると思う」

「撹乱?どうするんですか?」

「そうだな……例えば事件と全く関係のない話をしている最中に突然サウンドプルーフを掛けてみたり、魔法を掛ける前に意味深なことを呟いてみたり、かな」


 その答えに昇の眼がキラリと光る。


「ほほう、前生徒会長殿はなかなか悪巧みが上手いようだな。それでは帰る直前に防音魔法を掛けておくというのはどうだ?何者かが忍び込んだと勘違いしてくれるかもしれないぞ」

「木下君の方こそえげつない事を思いつくじゃないか。もしかすると不法侵入の決定的瞬間を撮ることができるかもしれないね」


 どうやら本当にその手のことを考えるのが好きなようで、松野の声は今までで一番生き生きとしていた。


「そこまでは考えていなかったな。俺は精々次の日に「何だこの散らかりようは!?」とか言ってやればさらに混乱させられると思っていた程度だ」

「あはははは。それは良いな」

「二人とも楽しそうな所に申し訳ないのだけれど、そろそろ本題に入らせてもらいたいわね」


 悪ノリを続ける二人にサクラが極地もかくやという冷たい視線を向けると、揃って「はい」と小さく答えたのだった。


「それじゃあ本題に――」

「いや、ちょっと待ってくれ。もう一つだけ聞きたいことがある。鶴西は何故盗聴器のことを話したのだろうか?」


 一連の流れの中でそれだけが理解できなかった。その後の展開を見ると、鶴西は完全に自分の首を絞めてしまっている。


「それは分からない。問い質しても謝るばかりでこの件に関しては完全に口を閉ざしていた」

「普通なら何か得をすることがあったと見るべきでしょうけれど……父親の権力拡大に乗じて自分も甘い汁を吸おうと考えた、とか?」


 サクラが口にしたのは物語でありがちな小悪党の行動原理そのものだったが、松野はそれを否定する。


「それはないと思う。あいつは父親が自分のことを疎んでいたことを知っていた。むしろ話せばどうなるかということを一番分かっていた筈だ」

「ふむ、それなのに話したということは、何か話さざるを得ない事情があったのか、それとも誰かを庇っているのか……これ以上は推測の域を出ないな。仕方がない、この件は後回しにしよう。すまないサクラ、話を続けてくれ」


 与えられた情報の中から答えを探すことは大事だが、それに固執し過ぎると却って真実から遠ざかってしまうこともある。ここはいくつかの推論や仮説を立てるだけにとどめておいた方が良いだろう。

 何より他に考えなくてはいけないこと、やらなければいけないことが山ほどあるのだ。


「それでは改めて本題に移るわね。松野先輩、単刀直入に聞きます。あの事件のことを詳しく教えて下さい」

「……本当にど真ん中の直球で来たね。しかも普通当事者本人にそれを聞くかな?」

「突拍子もない事だということは認めよう。しかし状況は切迫している。特にとばっちりを受けている運動部の生徒達は我慢の限界が近い。にもかかわらず先生たちから回ってくる情報は断片的だ。事件の全容を知るにはこれが最適だと俺たちは確信している」


 実際、野球部の生徒を他の運動部の生徒達が問い詰めるということが学校内のいたるところで起きていると――友人たちから――聞いている。

 できれば数日中、遅くとも一週間以内には生徒会として何らかのアクションを起こしたい。


「……確かのその通りだ。僕が君たちの立場でも同じことをしただろう」

「それじゃあ話してくれますか?」

「その前に、事件の全容を知って君たちはどうするつもりだ?その対応によっては話すことはできない」

「別に犯人を特定して吊るし上げたい訳ではありません。もちろんここまで騒ぎが大きくなっていますから、多少の罰は受けてもらう事になると思います。でもそれはあくまでもやり直すためのものであるべきです。連帯責任だといって野球部を公式戦出場停止にする様な真似はしないと約束します」


 サクラが昨日二人で話し合って出した生徒会の方針を伝える。トカゲの尻尾切りのような安易な処分で終わらせることだけはしたくない。


「もし先生たちがそれをしようとしたら?」

「生徒会として全力で反対する。その為の交渉のカードを今探している所だ」

「当てはあるのかい?」

「あんたたちはそうでもないが、それよりも前はやたらと慰労会を開いている。はっきり言ってその回数は異常だ。しかも店を借りきってやるケースも多い。

 いくらオーナーがOBでも相当な金額になっているはずだ。つまりは学校側も知っていて黙認していたと言える」

「……まさかそこまで見抜かれていたとはね。正解だ。歴代生徒会は運営費やその他の資金をプールしてきている。後で教えるけれど裏帳簿も存在しているよ」


 昇が睨んだ通りやはり不正会計が行われていたようだ。


「しかしそれを見せても生徒会側の悪事だとして却って不利になるだけじゃないか?」

「そこはそれ、先生たち学校側には監督責任というものがあるから、そこを突けば良いだけの話だ」

「あなた、本当に悪どいわね……副会長にしたのは失敗だったかしら……」


 自信満々に答えた所にサクラからげんなりした表情を向けられてハッとする。子どもの時から利権にまみれた大人たちの姿を見てきたので多少強引な手法や汚いやり口をするのにも抵抗が薄くなっていたようだ。

 気を付けなくてはあの時軽蔑した連中と同じになってしまう。


「今はこんな状況だし、少しくらいブラックなやり方もありだとは思うけどね」


 意外にも助け船を出してきたのは松野だった。先程の悪巧みといい、どうも彼は生徒会長のような皆の先頭に立つ役よりも、トリックスター的な役割の方が好みなのかもしれない。


「松野先輩が納得してくれるのなら構いませんが……」


 言いながらもサクラ自身は納得しきれていない感じだが、ここは目を瞑ってもらおう。


「それではあの時あの場所で一体何が起こったのか、話してくれないか」


 昇に促されて松野はゆっくりと口を開いたのだった。


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