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未完成作品集  作者: 京 高
真名探求研究会
15/20

真名探求研究会8

 事の起こりは一週間程前に遡る。週末に祝日が重なり連休となったその日は、多くの生徒達が外泊届を出して実家へと戻っていた。

 前生徒会会長である松野を始めとした前役員たちは学校近くの店で慰労会をしていたのだが、偶然知人と再会する。

 その後意気投合した彼らと合流して騒いで回っていたのだが、何らかの原因によりトラブル、つまりは諍いが発生。

 その際に魔法を使ってしまったというのである。


「幸いなことに現場となった場所はうちの学校のOBが経営している店だったから、情報が漏れるのを食い止めてくれたの」


 いくら魔法使いだからといってどこでも自由に魔法が使える訳ではない。

 特に学生や生徒、児童などは魔法学校外での使用は厳しく規制されていて、彼らが起こした問題は警察沙汰になっていてもおかしくないものである。


「状況から考えると相手側も同じく未成年で、全員酒が入っていた可能性が高いな」


 こちらがどれだけ隠そうとしても、もう一方の当事者である知人らが喋ってしまえば一巻の終わりだ。

 それがないということは、つまり向こうにとってもばれるとまずい状況だということである。


「お酒に関することは知らされていないけれど、私も同じ意見よ。多分先生の誰かが情報を隠したのね」

「そうするとこの経営者のOBも怪しいな。未成年だと分かった上で酒を提供していたのかもしれない。そう言えば、元々慰労会をやっていたのは別の店なのか?」

「ええ。違う店らしいわ」

「特定はできているのかな?」

「先生たちは知っているみたい。でも生徒のプライバシーに関わるっていう理由で、私には知らされていないわ」


 どうにも情報の開示度合いが中途半端だ。ことが大きくなった時に責任を問われないように、という配慮とも取れるが、それ以上に何かを隠している感じがする。


「もしかするとこの慰労会、生徒会活動費を流用しているんじゃないのか?しかも先生たちもそれを知っていて黙認していた」

「まさか!?」

「今回だけじゃなく何代も前からだとしたらどうだ?慣例として続いてきたけれど、何も知らないサクラが生徒会長になったのを機に学校側も改めようとしているのかもしれない」

「昇の予想が正しいとするなら出所は生徒会が主催の講演会や進学・就職説明会の接待費辺りになるわね。それについては後日改めて調べることにしましょう」


 サクラの提案に昇は首を横に振る。


「いや、慰労会をやっていた店の特定に繋がるだろうから、早くやっておいた方が良い」


 一般生徒に秘密にするような無理がきく店だとするならば、普段から懇意にしていて学校行事の打ち上げなどでも頻繁に使用しているだろうと考えたのだ。


「それに上手くすれば学校と交渉する時の切り札にもなる」

「そちらが本当の目的か……まあ良いわ。いい加減何も知らない小娘扱いされるのには飽きてきた所だから、乗ってあげる」


 揃ってニヤリと悪い笑みを浮かべる。


「ところで、どうしてこの事件を隠すのに、野球部が騒ぎを起こしたことになったんだ?」


 はっきり言って、この問題と学校が流したものでは質が違い過ぎる。覚えのない罪を擦り付けられた野球部員にとっては迷惑以外の何物でもない、はずなのだが昇の問い掛けにサクラは頭を抱えていた。


「あなた本当にこの学校の生徒なの!?前生徒会役員の会長に副会長は元野球部員だし、それに私の対抗馬だった前書記は現役の野球部員よ!」


 言われて唖然とする昇。無理もない、生徒会役員は会長、副会長、書記、会計の四人――文化祭などの学校行事の期間には各種実行委員会会長が役員に追加される――であり、その内の三人までもが野球部に所属していたというのである。


「どうしてそんなことに?部費の選定で他の部から不正を疑われても文句は言えないぞ」

「詳しい事は分からないけれど、優遇はされていたと思う。それで話を戻すと、事件を起こした時には会計の子は既に帰っていて、代わりに野球部員数名が加わっていたそうよ」

「つまり野球部自体問題の関係者で、学校が流した噂に乗る方が都合が良かったってことか」


 と、一つの疑問が解けた所でまた新たな疑問が浮かんでくる。


「野球部については分かった。だけどそうまでする学校側にメリットはあるのか?何の得もないように思えるんだが……」

「確かに学校に利益は全くない。だけど何もしないで警察任せにすると不利益が出てくるの」

「不利益?生徒会への監督責任は問われるかもしれないけど、その程度じゃないのか?」


 先程昇が予想した不正経理も明るみに出るかもしれないが、そこまで警察の捜査の手が伸びるかどうかは微妙な所だろう。


「実は主犯である前生徒会長と前副会長の二人、国の中央大学園への進学が決まっているの」

「はあ?推薦の試験ですら来月後半だぞ?」

「だからその推薦試験での合格が決まっているのよ」


 どうにも胡散臭い話になってきた。


「裏口入学っていうことか?」

「一種の地方枠だそうよ。何年か毎にその地方の生徒数名に先行で試験を行って、優秀な人材を取り込んでいるという話。正規の試験自体は受けているのだから裏口ではなく勝手口ってところかしらね」

「誰が上手い事を言えと。どうしてサクラはそんなことを知っているんだ?」

「今はどこの大学園も同じことをやっていて、生徒会長はその筆頭候補だからよ」

「なるほど。それでそのグレーゾーンを経て、晴れて二人とも中央大学園の入学権利を手にしたということか」

「ところがそれほど簡単な話じゃないの。試験をパスしたのは一人だけ。もう一人は強引に捻じ込まれたの。鶴西剛三っていう名前に聞き覚えはない?」


 サクラがある人物の名を口にした途端、昇は思いっきり顔をしかめた。

 それは子どもの頃に彼を『神童』と持て囃しておきながら、成績が振るわなくなると一番最初に見限った人物であった。


「聞き覚えがあるどころかできれば忘れたい名前の一つだよ。政治家だろ、そいつがどうかしたのか?」

「前副会長である鶴西の父親よ」

「ああ。つまり試験に通ったのは前会長の松野だけだったけど、父親の政治力を使って鶴西の方も無理矢理合格にさせたのか」

「そういうこと。そしてこんな背景があるから学校としては事件を隠さざるを得ないのよ」


 国の中央大学園に多方面に影響力を持つ大物政治家、確かに立ち回りを誤ればトカゲのしっぽ切りよろしくウンド魔法学校が全責任を負わされることも十分あり得る。

 そうなると廃止・他の魔法学校に吸収という可能性も出てくる。

 サクラが言った学校がなくなるというのは、単なる脅しではなかったのである。


「どこにでもあるようなガキ同士の喧嘩がここまで大事になるとはね。どれだけ日頃の行いが悪いとここまで拗れるんだろうな」


 昇の言うように事件自体はそれほど珍しいものではない。ただそこに魔法の使用、飲酒――この点は昇たちの予想で確定事項ではない――、中央大学園の勝手口入学試験、そして政治力をちらつかせての裏口入学という付加価値が付くことによって、世にも面倒な事件へと様変わりしてしまったのであった。


「さあ、この行き詰った状況を出打開できるような妙案を出してちょうだい」

「便利道具をねだる駄々っ子のようなことを言わないでくれ。しかし本当に面倒だな、これは……。あ、大事なことを聞くのを忘れていた。この事件で負傷者は出ていないのか?」

「残念ながら怪我人は零よ。いっそ傷害事件にでもなっていればこんな苦労をしなくて済んだのだけれどね」


 冗談とも本気とも取れそうな口調でサクラが答えた。生徒代表として一人きりでこんな厄介事に向き合っていたのだから、多少の嫌味が口を吐くのは仕方のない事だろう。


「後、事件の相手については何も聞かされていないわ」

「それこそ個人情報だから、教えてくれと言ったところで無駄だろうな。聞くとすれば当事者から、かな」

「松野たちに会うつもりなの?」

「会議に参加しているとは言っても、俺たちの立ち位置は完全に蚊帳の外だ。どう立ち回るにしても最低限事件の全体像を知っておく必要があるよ」


 肝心な所がぼかされたままでは有効な手立てなど打ちようがない。それどころか却って悪手となることもありうる。


「素直に話してくれるかしら?」

「それは会ってみないと分からないな。だけど生徒会運営についていろいろ教えて欲しいと言えば、会うこと自体は拒否されることはないと思う」


 昇が副会長候補になったことは耳の早い者であれば数時間で、情報に疎い者でも明日中には知ることになるだろう。

 接触を図るのは明日の放課後辺りが良さそうだ。


「さてと、それじゃあ少しでも有利に話が進められるように、不正会計処理の痕跡を探すとしますか」


 サクラが指差した戸棚の一角を埋め尽くす会計関連のファイルの数に、昇は早々に前言を撤回したくなりながらも、手近な一冊に手を伸ばす。


「夕食の時間が終わる前には寮に帰りたいわね……」


 作業を始める二人を置いて秋の太陽はつるべ落としのようにその姿を消して行くのだった。


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