表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未完成作品集  作者: 京 高
真名探求研究会
14/20

真名探求研究会7

 職員室の前に着くと会議中の看板が立てられていた。紛糾しているのか、途切れ途切れに漏れ聞こえてくる声は強い口調のものが多かった。


「困ったな」

 既にここに来てから数分経っているのだが、一向に会議が終わる気配がない。昇は先にクラブ棟に行くことも考えたが、時間を忘れて没頭してしまう可能性があるので却下する。

 いつまでも実習棟の鍵を返さないまま持っていたとなると、余計な課題がまた増えてしまうかもしれないからだ。


 物思いに耽っている間にも数分経ったが、相変わらず会議は終わるどころか進展すら感じられない状況だ。ここは多少の小言は覚悟の上で、突入するべきだろうか。

 普段のキャラ作りによって教師陣からは傍若無人とまではいかないが慇懃無礼な生徒だとは思われている。

 甚だ遺憾ではあるが、今更会議に割り込んだ所で評価が大幅に下がるようなことはないだろう。


 そうと決まれば行動あるのみ。まずは会議に気付かなかったという体にする為、扉の前に置かれている会議中の看板を横にずらすことにする。

 持ち上げようと近づくと、『会議中』の文字の隣に何か消したような跡があるではないか。目を凝らしてよく見ると『ちょっと待っててね❤』と書かれていたようだ。


 お茶目な教師が書いたのか、それとも生徒の悪戯なのかは不明だが、こうしたユーモアが握り潰されていることはとても残念なことに感じられた。

 しかし同時に職員室の前という外部の人間の目にも触れ易い場所である以上仕方のない事なのかもしれない、とも思っていた。


 いずれにせよこちらの計画遂行の為に一先ず扉の前からご辞退頂く。

 その後コホンと一つ咳をしてから息を整える――予想以上に看板が重かったのだ――と、


「失礼する」


 声を掛けて扉を開けた。

 職員室に一歩踏み込むと異様な空気が漂っているのを感じる。普段であれば直ぐにでも会議に乱入してきた不届き者を叱責する声が飛んでくるはずなのに、どの教師も驚いて固まってしまっていたのだ。


(これはまずい)


 直感的にそう判断した昇は急いで用件を済ませて出ていくことにした。


「魔法実習棟の鍵を返却しに来た」


 入口のすぐ横にある所定に位置に鍵を吊るす。


 カチャ。


 しまったと思った時にはもう遅かった。静まり返った室内に響いたその音は、止まっていた教師たちが動き始める切っ掛けとなるには十分だった。


「どこから聞いていた」


 近くにいた教師の一人が恐ろしい形相で詰め寄ってくる。


「何のことだ?」

「惚けるな!」


 と怒鳴られても分からないものは分からない。防音設備の効果か――または防音魔法によってか――外にいる間は内容までは聞き取れていないのである。

 話が噛み合わない状況に困っていると、予想外の方向から救いの手が差し伸べられた。


「木下君ならば内情を全て知っているので問題ありません」


 そう言って立ち上がったのは生徒会長であるサクラだった。そう言えば友人の一人が野球部の魔法使用の件で連日職員会議に参加していると話していた。

 そうなると教師たちがピリピリしているのは、処分の件で一般生徒に知られるとまずいからなのだろう。


「問題ないとはどういうことですか?どうして彼が知っているのです?」


 昇が現状を予測していると、別の教師からサクラへと詰問が飛ぶ。とは言え幾分のんびりとした温和な口調であったので、場をクールダウンさせる狙いもあったと思われる。


「木下君には生徒会副会長に就いてもらうことで話が付いています」


 サクラのトンデモ発言に思わず声を上げそうになるが、「黙ってこちらに話を合わせろ」という無言の圧力に潰されてしまった。


「花宮さん、生徒会の人選は会長であるあなたに委ねられてはいますが、今はこの問題のこともあります。あらかじめ私たち学校側に話を通しておいて欲しかったですね」

「申し訳ありません。以後気を付けます」


 サクラが頭を下げたので、昇も一応頭を下げておく。


「それでは先生方、今日はここまでとしましょう。引き続き何か打開策はないか、検討のほどよろしくお願いします。」


 校長の言葉に教師たちは口々に「お疲れ様でした」と応えると自分の仕事に戻っていった。


「木下君、私たちも生徒会室に戻りましょう」

「え?ああ、分かった」


 サクラに促されて職員室から出る、直前にここに来た理由を思い出した。


「悪いが、少し待っていてくれ」


 断りを入れて、実習担当の教諭の下へと向かう。


「遅くなったが魔法障壁補強の報告に来た。問題はないとは思うが、もし不備があったらやり直すから言ってくれ」

「分かった、後で確認しておこう。……しかしお前が副会長か。よく承諾したな?」

「そこは成り行きというか、まあそんな所だ」


 説明にも言い訳にもなっていないような昇の言葉に教諭は「そうか」とだけ答えた。


「ああ、それと木下、相手を気遣っているつもりなのかも知れんが、余り手を抜くようならペナルティじゃ済まないからな」

「肝に銘じよう」


 特段手を抜いているわけではないのだが、やはり勝つための対策を取らない今の昇の授業態度は教師側から見るとそう映ってしまうようだ。

 とりあえず釘を刺されたことへの理解は示しておいて、その場を後にした。


 職員室を出ると、サクラは律義にも廊下で待っていた。


「先に生徒会室に行ってくれて良かったのだが」

「そんなことをしたらあなた逃げちゃうじゃない」


 言われて考えてみると……、なるほど。その可能性は高い。

 例え問題を先送りすることにしかならないとしても、「状況を理解するのに時間が必要だ」などと自分に言い訳して逃げたかもしれない。

 そしてサクラには見事その機会を潰されてしまったということである。


「はいはい。大人しく付いていきますよ、会長様」


 軽口を叩きながら、既に歩き出していた彼女の後ろに着いて行くのだった。




 生徒会室に入るとサクラは内側から鍵を掛け、その上周囲に「サウンドプルーフ」と防音の魔法を掛けた。

 まるで何かしらのロマンスか、または貞操の危機を感じそうなシチュエーションである。

 しかし二人ともそんなことは全く頭になかったようで、早速話し合いが始まった


「まずは何が起きているのか、から話すとしましょうか」

「待て待て。何が起きているのか、だって?どんな処分になったのか、ではなく?」


 のだが、出だしから食い違ってしまっていた。


「???昇が何をどこまで知っているのかを先に聞いた方が良さそうね」


 促されて実習室で友人たちから聞いた話を伝える。


「学校側が流した噂そのままで、特に尾ひれが付いて大袈裟になっている様子もないか。それにしても……はぁー……」

「ちょっ!?人の顔見て溜め息なんて、うちの生徒会長様は随分失礼だな」

「溜め息も吐きたくなるわよ!これだけ学校中で大騒ぎになっていたのに今日まで知らなかったなんて、あなたどこに棲息しているの!?」


 必要以上に他の生徒たちと交流していないことは認めるが、まるで珍獣のような扱いはさすがに酷いのではないだろうか。そう考えている間にも彼女のダメ出しは続いていく。


「そんなことだから職員室に乱入するなんて非常識で空気を読まないことをしちゃうのよ!ああ、もう!どうしてこいつが副会長だなんて言っちゃったんだろう!」


 さて、この時点で昇が取れる行動は以下の二つだ。

 一つは「そんなこと頼んでいない」とか「そっちが勝手にやったことだろう」とか言って喧嘩別れをすること。

 もう一つは何とかサクラを宥めて詳しい話を聞くことだ。


 前者はやるのは簡単だが、問題を先送りどころか解決し辛くしてしまう。あえて苦難の道を進みたいのでもなければ選ぶべきではないだろう。

 さらに教師たちの前で副会長就任に同意していると言われてしまった以上、職務怠慢の評価を受けることになり、最悪『真名探求研究会』は廃止、部室を取りあげられることもあり得る。

 そして何より、サクラのことを気に掛けておくという自分の決定に反することになる。


 そんな訳で実質取れるべき道は一つしかないのであるが、さてどうやって宥めたものか。

 サクラのダメ出しは昇のパーソナルな部分へと突入していた。恐らくは愚痴を言うことで溜まった鬱憤を晴らしているだけなのだろうが、本気で愛想を尽かされている可能性も零ではない。

 取れる行動の幅を広げておくためにも、最悪のケースを想定することは重要だ。しかし本当にそうだった場合ショックで何の行動も取れなくなる、という新しい問題が浮かんでくることになるのではあるが。


 悩んでいる内に状況が変わるというのはよくある話で、この時も昇より先にサクラが行動を始めた。

 彼女は睨みつけるように――決して甘酸っぱい空気になりそうな『見つめるように』ではない――してこちらを見ると、


「とにかく、あなたに対人能力がないのはよく分かったわ。だけど子どもの時に神童だの何だの言われて大人たちから期待されたり失望されたりした経験がある。その経験値をかってあげるからいい案を出しなさい」


 とんでもない要求を突きつけてきた。ちなみに他人との関わりを避けているだけで、能力が欠如しているとか、ないということではない。


「期待に添えるかは分からないけど、頑張るよ」


 とりあえず玉虫色の返事をすると、サクラの表情が一気に険しくなった。


「頑張るじゃダメなのよ。期待に応えてくれないと、最悪この学校がなくなるわ」


 そう言って話し始めた内容は、正しく学校の危機となるものだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ