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未完成作品集  作者: 京 高
真名探求研究会
13/20

真名探求研究会6

 昇の言葉にそれぞれ検知魔法で障壁の出来具合を調べていく。


「本当に俺たちの障壁もウエシタのと同レベルの完成度になっているな」

「俺、中等部の試験で落第すれすれだったんだけど……」

「見えるようにするだけで随分と変わるものだな。なあウエシタ、これで論文が一本書けるんじゃないのか?」

「『可視化によるイメージ難易度低下に伴う効果の増大』についてなら、既に研究されていて、それを実証するデータも多く存在しているそうだ。そのテーマで論文を書くには何か新発見が欲しい所だな。そうでなければ過去の論文の焼き直しに過ぎなくなる」


 つい先程仕入れた知識を披露すると、一人から待ったの声が掛った。


「実証データまであるのに、どうして魔法障壁はその、可視化?が普及していないんだ?」


 効果があることが分かっているのに、何故そうしないのか?彼の疑問はもっともな話だ。


「視覚情報からの影響が大き過ぎると想像力が弱体化してしまうから、らしいな」


 想像力は創造力に繋がるものであり、無から有を生み出す魔法使いにとって想像力の弱体化はそれは存亡の危機とも言えることである。


「その為特に学校を始めとした教育機関では必要最小限の魔法以外は可視化して教えてはいけないことになっている、と書いてあった」

「はーい、先生質問。必要最小限の魔法って何?そんな魔法を習った覚えなんてないけど?」

「いや、俺も含めて全員確かに習っている」


 昇はそこまで言ったところで一旦区切り、友人たちの顔を見回した。皆答えを焦らされてやきもきしているようだ。


「俺も最初知った時には驚いたが、言われてみれば納得の話だ。……答えは、風魔法だ」


 もう少し勿体つけたかったのだが、我慢の限界に達しそうだったので答えを告げる。

 すると全員唖然としていた。昇は自分も数時間前にこの記述を見つけた時には同じような顔をしていたのだろうか、と思っていた。


「風魔法って、あの四大元素の一つで基礎中の基礎の風魔法?」


 いち早く気を取り直した一人が尋ねてくる。だが未だ混乱しているのだろう、言い回しが妙に説明的になってしまっていた。


「そうだ。ウィンドカッターに代表されるあの風魔法だ。ああ、皆の言いたいことは分かる。しかしよく考えてみてくれ、自然の状態で風が見えることがあるか?」


 そこまで言うと、皆ハッとした表情を浮かべる。そう、風魔法は発動されると白、または薄い緑色をしていることが多いのだが、現実の風には当然色など付いてはいない。

 水面の動きや木々の揺れなどによって間接的に見ることはできるが、それ自体を見ることは――基本的には――できないのである。


「なるほど。見えるようになっているな」

「それと、可視化とは少し異なるが、四大元素にはイメージの補強の為に火は赤、水は青、土は黄、風は緑と色が当てはめられている」

「それ幼年部の時に上手く魔法が使えなくて、先生からアドバイスされた覚えがあるわ」


 一人が言うと、皆覚えがあるのか「ああ」と頷いていた。


「そんなわけで四大元素の基本魔法以外は可視化を多用しないように、というのが魔法協会の方針だ。だから皆くれぐれも今日のことは誰にも話すことなく墓場まで持って言って欲しい」


 つまりはバレると先生に怒られることになるから秘密にしてね、ということである。


「ウエシタの場合は普段からあの呪文でイメージ作りをしているからお目こぼしがあるかもしれないけど、俺たちは間違いなく説教行きだな」


 確かに今でも特例のような扱いを受けているので案外平気かもしれない。が、怒られるかもしれないというリスクを冒してまで確かめようという気にはならない。


「とにかく黙っておくのが一番ということだ。それと俺が唱えているのは呪文ではない、真名(マナ)だ。後ウエシタも止めろ」

「それは良いとして、残っている天井はどうする?」


 昇の抗議は今回もまたあっさりスルーされた。


「そう言えばここの天井って雨漏りしてなかったか?」

「してたしてた。この前の実習の時なんて首筋に落ちてきたとかで、花宮が「ひゃう!」って可愛い悲鳴を上げていたぞ」


 わざわざ魔法で悲鳴を真似てみせる芸の細かさだが、なんともはや魔力の無駄遣いである。


「ということでウエシタ、何とかしてくれ」

「素人のDIYで直せるものではないから、先生に言って業者を呼べ」

「誰がウエシタに大工仕事を頼むか。そうじゃなくて魔法で何とかしてくれと言っているんだ」

「お前たち……自分たちも魔法使いだという自覚をなくしているのではないのか?」


 まるで魔法イコール万能だと思い込んでいる一部の一般人のような台詞に頭が痛くなってくる。

 ちなみにその昔、魔法の存在が発表された頃には「医者いらずの世の中になる」とか「これでエネルギー問題は解決した」などと騒がれたものであるが、今でも医者は現役で活躍しているし、エネルギー不足は人類が直面している重大な問題の一つのままである。


「そんなことはない。だけど俺たち全員よりもウエシタの方が魔力は大きい。つまり俺たちが変に出しゃばるよりもウエシタ一人にやってもらった方が上手くいくのだ!」


 一人の熱弁に残る面々も「うん、うん」と頷いている。結構情けない事を言っているはずなのだが、彼らにその自覚はあるのだろうか?

 しかもつい先程思いっきり出しゃばってきていた記憶があるのだが、その辺りどうなっているのだろうか?


「はあ、どこで誰が聞いているのかも分からないのだから、余りおかしなことは言わない方が良いぞ。……それで、雨漏りの件だが一つ考えがあるにはある」

「?はっきりしないな。どういうことだ?」

「魔法障壁と同時に物理障壁も展開するのだ。これで雨水が落ちてくるのを防げるようになる、はずなのだが……」

「何か問題があるのか?聞いている限り上手くいきそうじゃないか」

「これは建物の内側に展開するものだから、雨水自体は屋根の破損部分を通って入ってくることになる。そして障壁の上に溜まる、もしくは障壁を伝って壁が水浸しになる、ということにはならないだろうか?」


 昇の説明に皆その状況が頭に浮かんだのか、複雑な表情を浮かべていた。


「それじゃあ屋根の上から物理障壁を張れば問題解決じゃないか?」

「雨粒一滴辺りがどの程度の負荷になるのか分からないから正確なことは言えないが、恐らく一晩持たずに障壁が切れてしまうだろう」

「結局、魔法も万能じゃないってことか」

「そういうことだ。餅は餅屋、専門家に任せるのが一番ということだな」


 チャレンジ精神を失ってしまうのは論外であるが、それを発揮する時と場所は選ぶ必要があるということだ。

 それに魔法以外にも科学技術という選択肢もある。科学万能主義と同様に魔法万能主義ももはや過去のものだ。状況に応じて適切な判断を下せる柔軟性こそが大切なのである。


「それでは天井も魔法障壁だけ補強して終わりにしよう。雨漏りについては俺の方から報告ついでに先生に話しておく」


 そう言って昇は真名の詠唱に入る。


「其は盾、其は鎧、向い来る魔を阻み打ち消す守護者よ、ここに宿れ」


 再び昇の手から光が照射され、天井一面に広がり消えていった。


「礼を言っておこう、皆のおかげで楽ができた」

「気にするなよ。でも礼をしたいと言うのなら拒むのは却って失礼かなあ?」


 とニヤニヤ。


「具体的には昼飯を奢ってくれるので十分だぞ」


 とこちらもニヤニヤ。残る面子を見ると止めるつもりは毛頭ないのかニヤニヤニヤニヤ。


「悪いが今月は仕送りが遅れているから、サウン軒のトッピング一品ずつが限界だ」

「一律八十円のトッピング一品だけだと!?何という世知辛い世の中だ……」


 余程ショックだったのか皆一様に膝を着き、頭を垂れてしまった。


「何を大袈裟な。鍵を閉めるから早く出ていけ」


 しかし今までの付き合いから八割方演技だということは分かっているのでさっさと追い出しに掛かると、素直に従って出ていく。


「それじゃあ俺たちは先に寮に帰っているからな」

「また晩飯の時にな」


 去っていく友人たちを見送った後、壁に掛けられた時計を見ると早一時間が経っていた。彼らのおかげで魔法の使用回数は減らすことができたが、その分余計な時間を使ってしまったようだ。

 しかし野球部の起こした問題についてなど、有益な情報もあったので一概に無駄とは言えないのが難しい所である。

 まあ、変り者である自分と長年友達でいてくれていることについては素直に感謝すべきなのだろう。


「おっと、時間がないのだった」


 つい物思いにふけってしまうのは悪い癖だ。

 栗田教諭に出された課題については今日中にある程度の形にしてしまいたい。昇は急いで実習棟の鍵を閉めると、職員室へと向かうのだった。


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