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未完成作品集  作者: 京 高
真名探求研究会
12/20

真名探求研究会5

 放課後、ホームルームが終わるや否や昇は魔法実習棟へと向かった。

 栗田教諭から余計な課題を追加されてしまったため、実習でのペナルティを急いで終わらせる必要ができた為だが、一部の女子生徒達から逃れるためでもあった。

 しかしその分サクラの方に彼女たちの追及の手が伸びてしまい、後で余計酷い目に遭うことになる場合もあり得るのが困った所だ。


「それで、何故お前たちまでここにいる?」


 魔法実習棟には昇だけでなく、いつの間にか友人たちも集まって来ていた。


「それちょっと酷くないか?声掛けたのに無視して行くから、また面倒なことになっているんじゃないかと思って追いかけてきたんだぞ」


 一人がそう言うと、残りの皆も頷いていた。


「それは悪かった。慌てていたので気付かなかった」

「気にするなよ、どうせ今のは建前だ。本音を言うと今度はどんな呪文が出てくるか興味があったんだ」


 謝った途端にこれである。そんなことだろうとは思ってはいたが、どっと疲れが押し寄せてくる。

 おかしい、まだ何も魔法を使っていないはずなのにすっかり気力がそがれてしまった。


「ところでお前たち部活はどうしたんだ?」


 ウンド魔法学校では中等部、高等部の生徒には何らかの部や研究会への参加が義務付けられている。しかし現在では形骸化が進んでおり、幽霊部員となっている生徒も数多い。

 その中で昇の友人たちは比較的真面目に部活動に参加していた。


「お前相変わらず学内情勢に疎いのな……。野球部の馬鹿ちんが先生に隠れて魔法使ったとかで、運動部は自主謹慎中だよ」

「は?一体何をやらかしたんだ?」


 呆れたように言われて尋ね返すと、


「ドラマの真似して練習中に『燃える魔球』を投げたらしいぜ」

「俺は外野が『レーザービーム』で三塁ランナーを刺したって聞いたぞ」

「『分身の術』でキャッチャーを避けてホームイン」


 出るわ出るわ。普通なら噂に尾ひれが付いて広がったと思う所だが、活動中止が運動部全体に広がっている所を見ると、全て事実の可能性が高い。


「もう直ぐテストで部活禁止期間に入るから、新チームが秋の大会に間に合わないって悲鳴を上げてる所もあるみたいだぜ」


 魔法学校と言っても公式戦から練習試合まで、他の一般校との対戦が不可欠である部――特に運動部――は当然魔法が禁止されている。

 それも何かの拍子に使用することがないように、部活動中は一切の魔法禁止という徹底ぶりである。

 しかし反対にテレビなどで人気を博している熱血スポ根ドラマでは試合中、練習中を問わずに魔法を使いまくっている。

 その為か何年かに一度の割合で、こうしたドラマの真似事をして問題を起こす輩が出てくるのである。


「それだけの騒ぎになっていたということは、生徒会の方にも飛び火しているのか?」

「当たり。花宮の奴、生徒会長になったばかりだっていうのに先生たちと毎日会議だとさ」

「野球部の処分が重くなり過ぎないように走り回っているって話だな」


 道理でここ暫くの間サクラの機嫌が悪かったわけだ。生徒会長とは言っても教師たちからすれば子どもであり、しかも就任したばかりとあっては信頼関係も何もない。

 形式的に会議に参加することはできても碌に発言権も与えられずにストレスが溜まっていたのだろう。


「花宮のことになると誰かさんはやけに真剣になるよな」


 我に返って友人たちを見回すと、クラスの女子たちと同じ素敵な笑顔を浮かべていた。例の探知機能の高性能化は男女問わずに進んでいるらしい。


「まあ、それはともかく、そういうことで部活がなくて暇だから見学させてくれ」

「邪魔をしないのなら構わんが……ぶっちゃけ過ぎではないか?」


 身も蓋もない言い方につい苦言を呈してしまう。付き合いが長いので気遣っていることへの照れなのだと分かるが、そうでなければ色々と台無しになってしまうところだ。

 魔法学校という閉鎖空間で限られた人間同士の狭く深い関係しか構築できない弊害とでも言うべきか。


「いいからさっさと始めろよ。訳分かんない論文のレポートも書かなくちゃいけないんだろう」


 そこはかとない理不尽さを覚えながらも、急かされて準備に入る。「ふう」と大きく息を吐いて心を落ち着かせる。

 対戦形式などではそんな余裕はないが、今回は時間を掛けて魔法を使うのに最適な精神状態を作り上げていく。


 そして壁の一面に向かって両手を差し出すと、考えていた真名を唱える。


「其は盾、其は鎧、向い来る魔を阻み打ち消す守護者よ、ここに宿れ」


 手の先から放たれた光は壁に沿って広がると、その表面を覆い尽くす。徐々に光が弱くなり完全に消えた所で定着が完了した。

 時折その存在を主張するようにキラキラと光っている。


「マジックウォール・エンチャントもウエシタがやると舞台の一幕みたいだな」


 静かに見守っていた友人の一人が呟くと、それに釣られるように残りの者たちも口を開く。


「魔法障壁のエンチャントって普通もっと味気ないものだろ?どうして光っているんだよ?」

「光という目に見える形にすることによって、魔力の流れを制御しやすくした、ということじゃないか」


 さすがは魔法学校の生徒、昇のオリジナルの部分とその意味をあっという間に見抜いていく。


「光っているって言えば、壁もキラキラしてるな?」

「壁が光っているのは魔法障壁の残量を分かりやすくするためだ」


 全てを答えられても癪なので、今度は先に答えを提示する。実は障壁が切れる前に補強を繰り返したせいで薄い壁が重なり、却って脆くなってしまっていたのだ。昇は目印を付けることによって脆い障壁に到達しないように配慮したのである。


「そろそろ補強ではなく、張り直しをした方が良いかもしれないな。先生には報告の時にでも伝えておこう」


 さて、余りのんびりとはしていられない。まだ壁の一面が終わっただけで、残りの三面と床や天井も補強しなくてはならないからだ。


「まあまあ、俺たちにもちょっとやらせてみてくれよ」


 早速次の壁面に向かおうとする昇を友人たちが呼び止めた。


「お前たちがやってしまったらペナルティの意味がなくなってしまう」

「言わなきゃバレないって。弱いようなら後から重ねて掛けたら良いだけだし」


 と話している間にも他の者たちはそれぞれ壁に向かって準備を始めていた。


「「「マジックウォール・エンチャント」」」


 一般的な呪文を唱えて魔法を発動させる。先程昇がやったのと同じように光が壁を覆い、やがて定着していった。異なっているのは残量の目印がないことくらいである。


「確かにこっちの方が目に見える分イメージし易いな」

「ああ。高出力でも安定している」

「でもさすがに壁にキラキラを付けるのは無理だ。魔力が持たない……」


 自分で使う時には問題なかったが、他の者にはあの目印がネックとなるようだ。


「おかしいな、あれにはそれほど多くの魔力を割いてはいないぞ」

「俺たちとウエシタでは魔力の総量が違い過ぎるんだよ」

「後、本来の魔法障壁の作製と関係ない部分だから、意識し過ぎるとイメージが分散してしまって失敗しそうになる」


 魔力量だけの問題ならどうしようもないが、詳しく説明をしてくれたことで解決の道筋が見えてきた。


「別々に考えるから失敗するのだ。障壁が厚く、強くなるごとに輝いていくというイメージでやれば上手くいくのではないか」

「そういうことか!それじゃあ俺がやってみよう。……マジックウォール・エンチャント」


 まだ試していなかった残りの一人が昇のアドバイスを受けて呪文を唱える。光が床一面に広がり、やがて吸い込まれるように消えていく。


「……ダメか?」


 誰かが呟いたその時、目の端の方で微かな光が揺れる。

 断続的に光り始めると「おぉ~」と感嘆の声が上がった。


「ウエシタの程ではないけれど、キラキラしているな。あ、だけどこれじゃあ他の所はやり直した方が良いか?」


 友人の問いに昇は首を横に振った。


「障壁の厚みも誤差の範疇に収まっているし、元々全面を光らせるつもりはなかったからこのままでも問題ないだろう」


 あれは実験の意味合いも強く、さらに余りキラキラし過ぎていると訓練時に邪魔になる。

 友人たちを気遣った訳ではなく、本当に一面の壁だけやるつもりでいた。それに何より楽ができるのならばそれに越したことは無いのだ。


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