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未完成作品集  作者: 京 高
真名探求研究会
11/20

真名探求研究会4

 二年三組の教室に戻った二人を出迎えたのは、


「遅かったな。花宮は御苦労さん。木下、一応言い訳は聞いてやる。どこで何をしていた?」


 と言う栗田教諭と、「まだ帰って来るな!」というクラスメイト達の視線であった。


「すまない先生。部室で魔法障壁に関する論文を読み耽ってしまっていた」


 昇はいつもの慇懃無礼な口調だったが、慣れてしまったのかそれとも本当に好評なのか、そのことについては誰も何も言わなかった。


「誰の論文だ?」

「風祭享太氏の『物理障壁と魔法障壁、その相違点について』だ」

「ふむ……その論文についてのレポートを来週の授業までに用意しておけ。それを今日の出席分にしてやる。この後の魔法障壁補修にどう役立ったかも書いておけよ」

「了解した」

「それじゃあ二人とも席につけ。ようし、早速小テストを始めるぞ。時間がないから三問中のどれか一つだけ解答すること。もちろん余裕なある奴は全問解いても構わない」


 栗田教諭の言葉にクラス中から喝采が起こる。

 しかし、その直後問題を見た生徒達から今度は呻き声が上がった。小テストの問題はどれも授業の復習などという生易しいものではなく、いわゆる超難関校の受験問題レベルだったからである。

 結局大半の生徒が一問すら解けずに時間切れとなり、正答者はわずか一割にも満たなかった。


 授業が終わっても小テストのショックから抜け出せない生徒達の恨み言が教室中を飛び交っていた。最初は難問を出した栗田教諭へのものだったが、やがて遅れてきた昇を非難するものへと変わっていった。

 幼馴染同然と言っても全員と仲が良い訳ではない。今回は昇に対抗意識を持つ者たちにとって絶好の機会となってしまった。


「ウエシタだって小テストがあることは知らなかったんだから、そんなに責めるなよ」

「誰かを責める前に自分の不勉強を恥じるべきでしょう」


 昼食を一緒に取った友人たちやサクラが注意して回るが、効果がないどころか逆にヒートアップさせてしまっている。

 大半の生徒は便乗して鬱憤を晴らしたいだけだったのに、そこに正論を突きつけられてしまい引くに引けなくなってしまったのだろう。


 このままでは矛先がサクラや友人たちに向かいかねない。そう思った昇は教室の前へ歩み出る。

 普段は何を言われても特にリアクションを起こさなかったため、たったそれだけのことでも教室中の注目を集めることができていた。

 教壇の前に立ちクラス中を見回すと、皆これから何が始まるのかと不安げな表情を浮かべていた。


「先程のテストのことは知らなかったとは言え、遅れてきた俺の責任だ。皆、申し訳ない」


 と深く頭を下げる。一瞬何が起きているのか分からず教室中が静まり返るが、直ぐに友人の一人が言葉を続ける。


「まあそうやって謝るなら許してやらんわけでもない」


 冗談めかした言い方にすぐさま別の友人から「何様だよ!?」と突っ込みが入り、あちこちから笑いが起きる。その様子を見て昇はこれならもう大丈夫だと感じていた。

 サクラは一人納得がいかないという顔をしていたが、この場で何かを言うつもりはないようだ。上手く場の空気を誘導してくれた友人たちには感謝である。


 しかし、この機を逃さないとばかりにしつこく絡んでくる者もいた。


「ところで木下はさっきのテストどうだったんだ?」


 答え方次第ではせっかく鎮火した炎がまた燃え始めることになるのだが、昇はニヤリと小さく笑っていた。

 何故なら本当のことを話せば良いだけだったからである。


「勿論、一問も解けずに再試行きだ!」

「えっ?じゃあどうして今笑ったんだ?」


 瞬時に友人の一人が聞いてくる。これ以上向こうの連中に口を挟ませないためというのもあるのだろうが、それ以上に昇の笑みが気になったのだろう。


「自嘲の笑みと言うやつだ」

「分かるか!そんな笑い方をすることなんてないわ!」


 キレのある突っ込みに笑いが巻き起こる。


「そうか?「認めたくないものだな、若さゆえの――」と言う前にやると良い」

「だからそんな台詞を言うことなんてないって!」


 別の友人がさらに突っ込むと、再び教室中に笑いが起きる。さすがにつるんでいる時間が長いだけあってこういうことはお手のものである。


「はい、それじゃあこの話はもうおしまいよ。もうすぐ次の授業が始まるから皆準備して」


 パンパンと手を打ち鳴らしながらサクラが終わりを告げると、それまでのことなどなかったかのように各々準備を始めていった。

 昇は片手を上げて友人たちと挨拶を交わすと、サクラを追って教室の外に出た。


「サクラ!フォローありがとう。お陰で助かった」

「別に。当たり前のことをしただけよ」


 サクラはそっけなく答えて歩いて行ってしまったが、その頬がほんのりと赤くなっているのが見えた。礼を言って正解だった、あのまま放っておけばクラスメイトへの苛立ちを抱えたままになっていただろう。

 まだ生徒会関連で気になることもあるが、これ以上は例の感知機能に引っ掛かりかねない。

 今回はこれで良しとしておこう、そう思って教室に引き返すと何人かの女子がニマニマと素敵な笑顔を浮かべている。


「時既に遅し、か……」


 予想を超えた機能の高性能化にうんざりしつつ、昇は自分の席へと戻って行くのだった。


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