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未完成作品集  作者: 京 高
真名探求研究会
10/20

真名探求研究会3

 バンと大きな音に驚いて本から顔を上げると、不機嫌な顔をした女子が部屋の入口に立っていた。

 先程の音は彼女が力一杯扉を開けたものらしい。


「生徒会長が学校の備品を乱雑に扱うべきではないぞ」

「そういうことはきちんと授業に出てから言ってちょうだい」


 表情と同じく不機嫌な声音で生徒会長と呼ばれた少女はそう言うと、壁に掛けられている時計を指差す。見ると午後の授業が始まってから相当な時間が過ぎていた。


「いかんな、思っていた以上に興味深くてのめり込んでしまっていたか」

「いいからさっさと教室に戻るわよ」

「この時間は……魔法理論の栗田先生か。授業後職員室に謝りに行く方が良いだろう」


 今から授業に出たとしても正味二十分もない。それならば遅刻よりも欠席扱いになった方がすっきりするだろう。そう考えたのだが、


「これから小テストがあるから逃がさないわよ。大体欠席でも良いならわざわざ私が呼びに来るはずがないでしょう」


 小テストということなら仕方がない。そういえばもう直ぐ定期考査だ、それなりの成績は維持しているが、教師たちに目を付けられるようなことは避けておいた方が無難だろう。


「それは悪い事をした。皆もテストの時間が少なくなって苛立っているだろうな」

「テスト自体はほんの二、三問らしいから、どこが出るのかヤマを張る時間ができて感謝しているわよ。私を除いてはね」

「生徒会長ともあろう人が小テストでヤマを張るなんて情けない」


 皮肉に皮肉で返すと、生徒会長はさらに不機嫌になる。


「冗談に決まっているでしょう」

「そんな事だろうとは思っていた。さて本当にテストをする時間がなくなってしまっては大変だ。早く教室に行くとしよう」


 彼女もまた幼年部からの付き合いであるが、直情的なその性格はあの頃から変わっていない。そんな彼女のことを心の中では好ましく思いながらも、そんなことはおくびにも出さずそっけなく答える。

 同年代――幼年部からほとんど面子が変わらず、そういう意味では全員幼馴染と言える――の恋愛感情感知機能に引っ掛からないようにするためだが、高等部に入って寮という閉鎖空間に閉じ込められて以降、この機能は高性能化の一途をたどっている気がする。


 連れ立って外に出て鍵をかける。その際扉の落書きが見えたのか生徒会長が苛だった声を上げた。


「またこんな姑息な真似をして!言いたいことがあるなら本人にでも生徒会にでも先生にでもはっきりと言えばいいじゃない!」


 本人にはともかく一般生徒が後ろ二つに文句を言うのは難しいのではないだろうか。そして当の本人である昇としては直接文句を言われるのはご免こうむりたい、というのが本音だったりするので、興味がない素振りで歩き始めた。


「それにしてもよく俺の居場所が分かったものだな」


 話題転換に追いかけてくる彼女に尋ねてみる。


「あなたの行き先なんて図書館か部室くらいのものでしょう、簡単に分かるわ」

「どうでもいいが、部ではなく研究会や同好会でも部室と言うのは何故だろうな」


 暗に単純だと言われたようだが、気にせずに会話のボールをあさっての話題へと放り投げる。

 するとやはり皮肉だったのであろう「知らないわよ」と悔しそうに一言だけ返してきた。


「生徒会長でも知らないか。そうなるとこの問題は永遠の謎ということになるな」

「いい加減にその生徒会長と言う呼び方は止めて。人格を否定されているようで気分が悪くなるわ」


 しつこく話題を引っ張ると勘の虫にでも障ったのか、彼女はこれまた強引な路線変更を仕掛けてきた。


「しかし社会に出れば役職名で呼ばれることは多い――いや分かった、花宮サクラ殿。これで良いかな」


 昇は当初正論で受け答えようとしたのだが、ジロリともの凄い形相で睨まれると、すぐさま白旗を上げた。


「そのおかしな口調も止めて」

「それは無理だな。これはもう俺のアイデンティティーでありレゾンデートルだ」

「何を偉そうに。単に達観しているように装っているだけでしょう」

「……先生や皆にはなかなか良い評判だったんだけどな」


 図星だったのか、それともこれ以上反抗しても無駄だと諦めたのか昇は口調を崩して答えた。


「そうでしょうね。あのおかしな詠唱法のこともあるから、キャラ作りとしては上手くいっていたと思うわよ」

「あれは別にキャラ作りのためじゃない。俺があのやり方でしか魔法が使えないことはサクラだって知っているだろう」


 当時の医師の診断によると「魔法発動経路が他人とは異なっている」とのことだったが、魔法発動経路それ自体が概念的なものであるため、よく分からないというのが結論だった。


「そうね。あれのおかげで精神集中が早かったから、子どもの頃は向かう所敵なしだったわね。『全国でもトップレベルの神童』、だったかしら」

「……昔の話だよ」

「そうね、昔の話ね。今では皆集中速度が上がって向かう所敵だらけ、というより負けばかりになってしまっているものね」


 それでも潜在的な魔法力は高いので、発動まで多少時間が掛っても問題のない試験では常に上位にいたりする。

 そしてそれこそ昇一人しか部員――研究会なのに、部員……――がいないにも関わらず『真名探求研究会』がクラブ棟に部屋をあてがわれている理由であり、同時に多くの生徒から妬まれている原因でもある。


「さっきから意地悪な言い方ばかりするんだな」

「気のせいじゃない。決して皮肉が通用しなかった意趣返しをしているのではないわよ」

「やっぱりそれか……」


 サクラの負けず嫌いは昔からのことだったが、最近その傾向が強くなっているように思える。

 幼馴染同然の者たちが多いので今更そのことで彼女のことを誤解するものはいないだろうが、敵を作りやすいことには変わりがない。


「もしかしてまた生徒会が上手くいっていないのか?」

「またって何よ!?そんなに何回も失敗していないわ」


 むきになって答えた時点で、そうだと白状したようなものである。サクラはこの学校の生徒会長としては珍しく、前年の生徒会には所属していなかった。

 その為選挙の時などは現職推薦の生徒会役員対無所属新人の一騎打ちなどと言われていた。


「そうかな?初等部で児童会会長だった時もいろいろ失敗していたじゃないか」

「いつの話をしているの!今はちゃんとやっているわ。先生たちからも生徒会長らしくなってきたって言われているんだから」


 その割に昇が生徒会長と呼ぶのは気に食わないと言うのはおかしな話ではないだろうか。まあ、昇の場合はからかい半分で呼んでいたということもあるのだが。

 そしてサクラが生徒会長に就任してまだ一カ月しか経っておらず、未だに前生徒会の影響力は大きいと聞く。役員人事に横槍が入ったのか、はたまた無理難題を押し付けられたのか、彼女がどことなく不機嫌な原因は恐らくこんな所だろう。


 しかしながら原因に予想が付いたからと言って何かができるということではない。今の推量をサクラに話してところで――当たっているにしても、外れているにしても――余計に意固地になるだけだろう。


「当分の間は様子見かな」

「何か言った?」


 心の中で思っただけのつもりが声に出ていたようだ。訝しげに問うサクラに昇は首を振って答えると、しばらくは彼女のことを注意して見ていようと決心するのだった。


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