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七 ゼミナリステンの窮地


―委員会後、衆議院財務金融委員会“政府委員控室”-


 小生は、一人先に控室に戻り、モニターで委員会質疑の様子をうかがっていた。本委員会質疑が、海山にとって政治生命をかけた正念場であることはいうまでもない。

 しばらくして、委員会質疑を終えた海山が疲れた様子で控室に顔を見せた。

「御苦労だったね」小生がねぎらうと、

「俺ももう時間の問題だ。細田、お前には申し訳ないことをしたと思っている。君の学者としての主張をねじまげてまで、こちらの主張を代弁させてしまったからね」海山はそう話しながら、ソファにもたれかかった。

「しかし、ギャンブラーの俺とは対照的に君は慎重派で賢いとつくづく思うよ」

「というのは?」

「さっきの殿山の質疑の件だよ。殿山のお見込みのとおり、俺は、政治資金収支報告書に記載しないカネとして、トーキーホールディングス社から賄賂、いや健在な活動資金をもらっている。我が国の健全な会計基準策定のためにってね。だから、君にも研究費として受け取ってほしいと言ったが、君は『師から受け継いだ研究費があるから心配には及ばない』の一点張りで受領を拒否した。結果的にあのときの君の頑なな判断は正しかったのだよ」

 海山は、テーブルに置かれたコップに水を注ぎながら、言葉を続けた。

「こんな場所で、君に尋ねるのも、どうかとは思うが、最後に、二、三教えてくれよ」

「なんでも承るよ」小生がそう言うと、

「俺がある会社の代表からこういう相談を受けているが何か妙案はないかと君に尋ねたことがあったね―匿名業務でへまをやらかした日雇い労働者がいて、その穴埋めの労働者を効率よく集めたいと―」

「おぅ、たしかに、そんな相談も受けたね」

「そうしたら、君は『奨学金を支給する代わりの奉仕活動として、その業務を位置付けて奨学生をうちの大学から公募すればいい』と言った。ほんとうに頭の切れるやつだと思ったよ。だが、ずいぶん切れすぎているとも思った。というのは、君は、『奨学生として決定する学生は、一定数に絞る必要があるから、例えば、名前に季節や色の名前が入っている者を採択し、活動日は水に流れないようにという意味を込めて水曜日にしてはどうかね』と俺に進言した。センスがあって、説得力があるし、面白いと思った。今もそう思っている。ただ、そこに何か意図があったのでないかとも思っている自分がいるんだ」

 小生は「僕にも水を一杯入れてくれよ」と言って、

「何てことはないよ。我々の師の大山博士は、ポエマーだった。君もよく知っているね。講義中の会計理論を交えたジョークは秀逸だった。君も知っているか知らないかは存じ上げないが、大山博士は詩が好きな院生と出会ってから趣味でよく詩を書いていてね。その季節にちなんだ色を詩に交えることを好んでいたんだよ。だから、奨学生の選考に大山博士の想いを込めたいと思っただけさ」

 海山はため息をつきながら、

「知らなかったよ。大山博士が趣味で詩に親しんでいたとはね」と立ち上がって、窓の外を眺めながらこう続けた。

「君との大学生活が懐かしい。覚えてるかい?あの学生運動のとき、俺が商法改正の一部分で、企業会計原則の精神が反映されたかったことに腹を立てて、会計研究会の部室の壁―俺が“コンテン・ラーメン”と落書きしたあの壁―を怒りにまかせて破壊したとき、君は紙片に“コンテンラーメン同盟はその体系を引き継ぐ”と書きなぐって『俺たちの思いは後世にだ』と言って、思いを紙片に込めて壁紙で閉じた」

「そんなこともあったね」

「しかし、今回の連結会計基準もおそらくうまくはいかない。俺の政治生命は時間の問題だからね」鏡越しに映る海山の背中には、悲愴感が漂っていた。

「まぁ、今回もダメだとしても、優秀な未来の会計学徒が未来の我が国を背負ってくれるよ。うちの学部にもね、少々面倒だが、頭の切れる学生と、学生結婚した変わり種の売れない文豪がいてね」と小生が笑いながら言うと、海山も少し笑みを浮かべた。

「その二人は期待できるのかい?」

「まぁ、それこそギャンブルだね」小生は彼らの期末試験のレポートに少しばかりの未来を託したのである。


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