五 規則性
「その奉仕活動に参加したのは、その1回のみ?」黒木が彼女に訊くと、
「いいえ、それからも不定期に数回同じ内容の通知がまいりまして、同じように、金ベルトの腕時計を着けて、地下鉄に乗車し、メモ紙を受け取って、というルーティンを繰り返しました。特にわたし自身に害はありませんでしたので、奨学金がもらえるならと行っていたのです。ただ、これは偶然なのかもしれませんが、この活動には規則性があるようでして」
僕と黒木は顔を見合わせた。黒木が前のめりに、
「それはどのような規則性でしょうか?」と訊くと、彼女は不安げな表情を浮かべながら丁寧に言葉を続けた。
「たいしたことではないのですが、奉仕活動の曜日が、決まって水曜日だったのです」
「なるほど」
僕も黒木も彼女の口からその規則性が発せられることを薄々気づいてはいたものの、このとき、僕と黒木は、『金ベルトの腕時計の男』事件の麻薬取引に、男女かかわらず多くの学生が利用されていたことを確信したのである。しかし、一方で、不定期に通知される奉仕活動の曜日が水曜日であるという規則性に気づく彼女もたいしたものだと僕は思った。
「ひとつお聞きしたいのですが?」
「何でしょうか?」
「その規則性に…といいますか、水曜日だと気づくのに、何かきっかけか何か?それとも偶然に?」
「たいしたことではないのです」少しの沈黙の後、彼女は目を見開きながら、
「アルバイトが休みで、かつ、講義を入れていないのが水曜日でしたので、水曜日がわたしにとって唯一の休日だったのです。その唯一の休日に限って、そのような活動をしなくてはならないというので、自然と、“水曜日”という規則性に…」
「そうでしたか」黒木も納得した様子で、
「いや、お時間を取らせてしまいましたね。しかし、随分とよいお話をお聞かせいただきました。感謝申し上げます」
「いいえ、そんな何かの役に立つほどのお話ではございませんので」
彼女が立ち上がったので、僕は彼女を部室の外まで見送ることにした。僕が彼女を見送って部室に戻ると、黒木は、
「よい収穫が得られたよ」と言いながら、テレビのリモコンを取って、国会中継のチャンネルをつけたので、僕が「相変わらず頭の切り替えが早いね。何か、関心のある政策論議でも?」と訊くと、
「細田教授がしばらく出張で不在にしているのは知ってるね?」
「たしか、掲示板には“東京出張”とあったけど…」
「その”東京出張”というのがこれだよ」黒木はリモコンでテレビ画面を指し示した。




