第99黒 聖灰教団幹部 疫災の大呪術師 ダリオ=シャード
燃え落ちる礼拝回廊。
警報音が、絶え間なく鳴り響いている。
崩れたステンドグラスから月光が差し込み、血と灰を照らしていた。
リィナ達は、なおも教団本部の奥を目指して駆ける。
その時――ぐちゃり。
まるで肉を踏み潰すような嫌の音で、全員の足が止まる。
そこへ、回廊の奥から白衣の裾を引きずりながら一人の男が現れた。
「いやァ……実に素晴らしいねぇ」
ぼさぼさの黒髪に血痕の付いた白衣。
聖灰教団の幹部である大呪術師――ダリオ=シャード。
その笑みを見た瞬間、ゼルヴァの瞳が、鋭く細まった。
「……貴様」
「おやァ?覚えててくれたのかい?」
楽しそうに、ダリオが肩を揺らして笑う。
「嬉しいねぇ」
リディアが警戒して剣を構える。
「こいつが……」
「ええ、教団幹部の呪術師ダリオ。
人体実験が大好きな……最悪の外道よ」
ヴェルミナが目を細める。
「ひどいなァ…僕はただ、“命の可能性”を研究してるだけなのに」
ダリオが口を尖らせる。
その視線が、ゼルヴァへ向く。
「くくっ…特に君は最高だったねぇ」
ゼルヴァの周囲に、赤黒い魔力が滲み始める。
「珍しい、古代竜人。しかも純血に近い個体なんて、
超一級の研究素材だったね。鱗を剥がして、骨を削って、血を抜いて……」
恍惚とした表情でニタァ、と笑う。
「どこまで壊れず耐えられるか、楽しかったなァ」
ゼルヴァは暴れる事もなく、
ただ、拳を握り静かに闘気を燃やしている。
それが逆に恐ろしく、リィナが横目で見る。
「……ゼルヴァ」
「…行け」
全員が目を向ける。
「ですが、こいつは危険です……!」
リディアが声を上げる。
「分かっている。……だからこそだ。」
ゼルヴァが前へ出る。
巨大な背中が、仲間達の前へ立つ。
「そうそう!君は僕と遊ぼうよォ!」
ダリオがケラケラ笑い紫煙が漂う。
「それに、こいつは俺の因縁だ」
ゼルヴァは視線を逸らさずに静かに告げる。
「だから、貴様らは先へ進め」
リィナが黙ってゼルヴァを見る。
黄金の瞳、揺るがない武人の目。
「……勝てるの?」
ゼルヴァは鼻を鳴らす。
「フン、誰に言っている?」
竜の魔力が噴き上がり、床が軋む。
「はは……ッ!!いいねェ!!やっぱり怒った顔が最高だァ!!」
ダリオが嬉しそうに目を見開く。
ゼルヴァが拳を握り、紅蓮の炎が走る。
「リィナ、貴様は止まるな。貴様の敵はこの先にいる筈だ。」
一瞬の沈黙。
リィナは静かに目を閉じる。
「……任せるわ」
「ああ」
リィナ達が走り出し、全員が、奥へ消えていく。
「これでいい。フフ、久しぶりに暴れられそうだ」
リィナ達を見送りゼルヴァが笑う。
「仲間を逃がす為に残るなんて……
いやァ、美しいねェ。実に“戦士”らしいですよぉ」
ダリオは焦る事もなく不気味に笑う。
「フン。貴様には理解出来んだろうな」
ゼルヴァがゆっくり構える。
「それはそうだろぉ?」
ダリオは両手を広げ恍惚とした笑みを浮かべる。
「悲鳴、絶望、断末魔。肉が裂ける音…
命は壊れる瞬間が一番輝くんだよォ!!」
ゼルヴァの瞳が、真紅に染まった。
「……貴様は”戦士”ですらない。
誇りも、覚悟も、命への敬意もない。ただの”屑”だ」
ダリオの笑みが、深く歪む。
「最高だなァ……」
毒瓶を砕き紫煙が噴き上がる。
「じゃあ始めようか、トカゲくん」
ゼルヴァが翼を広げ古代竜の魔力が、咆哮のように空間を揺らす。
「貴様だけは、この場で叩き潰す!!」




