第100黒 誇りを喰らう外道
――聖灰教団内の回廊。
黒煙と血臭が混ざる中、ゼルヴァとダリオは、真正面から対峙していた。
ダリオが放った無数の薬瓶から、紫色の霧が溢れ出す。
「ククク……いいねェ!実にいい……!」
瞳孔が開く。
「君みたいに“壊し甲斐のある生物”は久しぶりだよォ……!!」
ゼルヴァは拳を握り、黄金の瞳が冷たく細まる。
「……貴様を見ていると虫唾が走る」
「それは光栄だねェ」
ダリオが笑いながら指を鳴らす。
次の瞬間、床一面へ黒い術式が広がる。
《腐界呪毒》
紫の霧が一気に膨張し空気が毒へ変わる。
だが、ゼルヴァは動じない。
「フン……小細工か」
《竜鱗防壁》
鱗から赤い魔力が溢れ膜のようにゼルヴァを包み毒霧が、弾かれた。
「へぇ……耐性持ちかァ」
ダリオの目が細くなる。
「違うな。貴様程度の穢れ――俺の鱗には届かん」
ゼルヴァが低く言う。
「ハハッ!!。いいね!!その自信、実に壊したくなる!!」
ダリオが嬉しそうに笑い、無数の注射針が飛ぶ。
空間を埋め尽くす毒針がゼルヴァを襲う。
だがゼルヴァは避けずに一歩踏み込む。
《ドラゴニック・ブレード!!》
超重量の斬撃が注射針を全て叩き飛ばす。
「ッ……!!」
ダリオが飛び退く。
その斬撃は背後の回廊にも命中し礼拝堂の一角が消し飛ぶ。
「ハハッ!!いいねェ!!そういうの好きだよ!!」
ダリオが狂ったように笑う。
「でもねェ……!力だけじゃ人は救えないんだよォ!!」
ダリオが術式を展開する。
《神経侵食呪!!》
黒い魔力がゼルヴァの身体へ絡みつく。
「……ッ」
筋肉が痙攣し動きが鈍る。神経へ直接干渉する呪術。
だが、ゼルヴァは止まらない。
「貴様は…勘違いしている。」
一歩、また一歩と呪いを引き裂くように前進する。
「俺は“救う”為に戦っているのではない」
ゼルヴァの瞳が赤く光る。
「”命の尊厳”を踏みにじる貴様らを――叩き潰す為に立っている!!」
「尊厳~?」
ダリオが、ケラケラと笑う。
「そんなモノが何の役に立つんだい?
命は壊れる!!壊れるからこそ美しい!!」
両手を広げる。
「泣き叫び!絶望し、崩れていく瞬間こそ最高なんだよォ!!」
ゼルヴァの瞳に、怒りが灯る。
「……貴様が、命を語るな!!!」
竜の魔力が噴火するように身体から溢れ、
ドォォォォッ!!
翼が広がり、回廊全体が揺れる。
「貴様はただの腐った外道だ!!」
「ハハハッ!!怒ったァ!!
その顔だよ!!その感情!!!実に壊しがいがあるねェ!!!」
ダリオが狂喜し術式を展開する。
無数の死体兵、異形の怪物、魔導機械兵がダリオの周囲から溢れ出す。
「見て見なよォ!!
これ全部、帝国が僕が作った“芸術”だ!!」
ゼルヴァの表情が変わる。
「……そうか、ならば。」
《古代竜の咆哮!! 》
ゼルヴァが咆哮する
ォォォオオオオオオオオッ!!!
轟音で空間が震え、死体兵達がまとめて吹き飛ぶ。
ダリオの顔から笑みが消える。
「……ッ!?」
その瞬間、ゼルヴァの姿が消え、一瞬でダリオの目の前に迫る。
「終わりだ!」
ゼルヴァの拳で、ダリオの身体が壁へ叩き込まれる。
「ガハッ……!!」
さらに追撃、尾による薙ぎ払いと回転蹴り。
圧倒的暴力の連撃をダリオに繰り出す。
「な、なんで……?」
血を吐きながら笑う。
「なんでそこまで怒れるんだよォ……」
ゼルヴァが睨む。
「仲間を穢され、誇りを踏みにじられた。理由など、それだけで十分だ」
ダリオの顔は歪み、目の奥には恐怖が浮かんでいる。
「……あァ…なるほど」
だが、その恐怖は次の瞬間、歪んだ笑みへと変わり、目の色が変わる。
「君、本当に壊し甲斐があるねェ……!!」
その瞬間、ダリオが自分の胸へ手を突き刺した。
ブチュリ、と嫌な音。
「……何の真似だッ!?」
呪詛に黒い液体の薬品、その全てを、自らへ注ぎ込む。
《禁忌融合 キメラ・アポストル!!》
ダリオの骨が軋み、肉は膨張し巨大化。背中から異形の腕が無数に生える。
最早、人の形を成してはいない。
「ア、ァァァァァァアアアアッ!!!」
ダリオ――いやダリオだった怪物が咆哮する。
「……哀れだな」
ゼルヴァは静かに見上げ、黄金の瞳が獣のように光る。
「人の誇りすら捨てたか」
異形のダリオが何重にも重なった声で笑う。
『くく…美シイダロォォォ!?』
ゼルヴァの口元が、獰猛に吊り上がる。
「いいだろう、ならば怪物退治だ。」




