第97黒 嫉妬の宝石魔導士 ミラ=ソルティス
カイゼルとセリウスが激しくやり合う爆音を
後にするようにリィナ達は、教団内部へと駆け抜けていた。
鳴り続ける鐘、迫り来る教団兵と魔導機械兵を倒しながら長い回廊をすすむ。
「……止まりなさい」
回廊の奥から静かに響く声。
その瞬間。
キィィィン――……
空間に無数の魔法陣が展開する。
幾重にも重なった術式で回廊そのものが、“結界”へと変わる。
「っ……この結界は…!?」
リディアが剣を構える。
前方から、ゆっくりと一人の女が歩いてくる。
長い髪に妖しく光る宝石、冷たい微笑。
モナークの右腕であり、宝石魔導士のミラ=ソルティスだ。
その瞳は真っ直ぐ、リィナを見ていた。
「また会えたわね」
甘い声で笑う。
だが、その奥にあるのは濁った感情だけだ。
「本当に……気に入らない女。…
どうしてモナーク様は、あなたばかり見るの?」
ミラが近づく度に空気が軋む。
「どうして、あなたばかり――」
その瞬間、
「……相変わらず重たいわねぇ」
ヴェルミナだった。
リィナの前へ出ると紫紺の魔力が、ゆっくりと滲み出す。
「……あなたは…」
ミラの目が細まる。
「久しぶりね…。負け犬さん」
ヴェルミナが笑い空気が凍る。
ミラの頬が、ひくりと動く。
「……言ってくれるじゃない!」
「だって事実でしょう?遺跡でも散々だったものね」
そう言ってミラが作り出した結界に穴を開ける。
「ヴェルミナ……!」
「今のうちに、あなた達は行きなさい。」
リィナ達の方へと合図をする。
その間にも視線はミラから外さない。
「ここは私がやるわ。」
「でも――」
「早く、ここでビションを逃したら、全部無駄になるわ」
ヴェルミナの声色が変わる。
二人の視線が交わり、一瞬の沈黙が流れ、
「……任せる」
リィナは一言そう呟くと、仲間達と共に先へと進む。
「これで心置きなくやれるわ。…安心して、今度はちゃんと壊してあげるから」
ヴェルミナが笑う。
ミラの額に青筋が浮かぶ。
「……っ」
その瞬間。
ドォンッ!!
巨大な宝石陣が展開し、リィナ達と、完全に隔離される。
最後に見えたのは――ヴェルミナの、不敵な笑みだった。
残ったのは二人の魔女だけ――
互いの魔力と魔力が、ぶつかり合い空間が静かに悲鳴を唸っている。
「……本当に嫌い、あなたみたいな女が一番ね!!」
ミラが口を開く。
「あら、光栄ね。私もあなたは嫌いだから」
ヴェルミナが笑う。
「その余裕……、まだ自分が勝てると思ってるの?」
ミラの瞳が細まる。
「思ってるわよ?むしろ負ける要素ある?」
ヴェルミナが首を傾げる。
「……っ!」
空気が爆ぜる。
「《魔力増幅!マナ・アンプリファイ》!!」
宝石が一斉に輝き莫大な魔力で周囲の床が砕ける。
「遅いわ」
ヴェルミナの指が、軽く動く。
《呪詛展開!カース・エリア》
黒い紋様が床を這いミラの魔法陣を侵食していく。
「っ……またその術……!」
「ええ。あなたには効果的でしょう?」
魔力の流れを読み、宝石術式の連結点を潰す。
「遺跡でも言ったわよね?環境依存の術式は、崩しやすいって」
ミラが歯を食いしばる。
「黙れええええええぇ!!」
無数の魔法陣が空間を埋め尽くす。
「《臨界魔力圧縮槍 マナ・ランス・オーバーブレイク》!!」
紫の槍群が、豪雨のように降り注ぐ。
「前よりも強力みたいね。でも…」
《魂縛 ソウル・バインド!!》
影が伸び槍の軌道が歪み、ミラの身体がわずかに止まる。
「っ……!」
「隙だらけよ」
ヴェルミナが更なる術を展開する。
《禁断侵食 フォービドゥン・イーター!!》
黒い魔力が奔流となって渦巻き、ミラの術を喰らいながら本体を蝕もうと迫る。
一つ、また一つと媒介に使っている宝石が砕けていく。
「やっ……やめて……!!」
ミラの表情が崩れる。
「あら?あなたには“奪われる側”になる覚悟ないのかしら?」
ヴェルミナが優しく笑う。
「っ……!!」
追い詰められたミラの心に怒り、嫉妬、と言って感情が溢れだし
魔力が暴走していく。
「モナーク様には私が必要なの!!」
「必要?」
ヴェルミナの笑みが、冷える。
「…違うわね。……あなたは、“選ばれたい”だけ」
その言葉で、ミラの瞳が揺れる。
「……っ」




