第96黒 深淵は勇者を知る
ーー教団の回廊
カイゼルの魔剣とセリウスの聖剣、
真逆の力が真正面から激しく衝突している。
「……っ!」
セリウスが後方へ押され石床が削れる。
だが次の瞬間。
「はぁぁぁぁッ!!」
セリウスは神速の踏み込みから白銀の斬撃を十字に走らせる。
「遅ェ」
カイゼルは笑いながら、片手で魔剣を振り抜く。
ドォォンッ!!
黒炎の衝撃波で回廊の壁が吹き飛ぶ。
聖光と闇炎が空間を食い潰し、礼拝堂のステンドグラスが一斉に砕け散った。
「ぐっ……!」
セリウスが着地する。
その視線は、カイゼルから外れない。
「この魔王風情が……!」
「ふはははッ!その殺気……昔の勇者共を思い出す!」
カイゼルの漆黒の外套が揺れ
赤い瞳が獣のように細くなり、魔剣に黒炎が渦巻く。
「だが足りんなァ!!」
「……貴様のような怪物が、なぜあいつらの側にいる!?」
セリウスが剣を構える。
「気に入ったからだ」
「……何だと?」
「アイツは面白い」
カイゼルが鼻で笑う。
「勇者だった頃より、遥かになァ」
そう言うと、再び黒炎が噴き上がる。
「ふざけるなァァァ!!」
セリウスが真正面から突っ込み、光の高速連撃が放たれる。
≪聖十字連撃刃!!≫
「ほう……!」
カイゼルは魔剣で受け止めながら不敵に笑う。
「いいなァその激情!」
ガァンッ!!
魔剣が聖剣を弾き飛ばしセリウスの体勢が崩れる。
「しまっ…!!」
「燃え尽きろ……深淵の炎で!」
《深淵の黒炎!!》
黒炎が津波のように回廊を呑み込みながら迫る。
《神炎解放!!》
セリウスが歯を食いしばり、聖炎が噴き上がる。
白金の炎と黒炎が激突し、礼拝堂が吹き飛ぶ。
瓦礫が宙を舞い燃え盛る炎の中で、セリウスは剣を支えに立つ。
肩から血を流しながらも笑う。
「はは……!……そうだ……!
命ってのは、こうやって燃えるべきなんだ!!」
セリウスは炎を纏いながら吼える。
「……なるほど、壊れかけてやがるな」
カイゼルが目を細める。
「何だと?」
「力に溺れている…だからリィナには届かないのだ」
カイゼルの黒炎が静かに揺れる。
セリウスの眉が歪む。
「またそれか……!」
「…やはり、お前には見えてない。
勇者、英雄、そんなモノは肩書きでしかない。…実にくだらん」
カイゼルが鼻で笑う。
「くだらない……だと!?」
「そうだ、アイツが本当に強ぇのはなァ……
全部失った後でも、諦めないところだ」
セリウスの瞳が揺れる。
「……っ」
「復讐に染まり、憎しみを抱えて…それでも運命に抗おうとしている。
だから俺は気に入ってんだよ」
カイゼルの黒炎が温度を上げる。
「違う……!そんなのは勇者じゃない!」
セリウスは顔を歪ませながら叫ぶ。
認められない、いや……認めたくないというように――
「ハッ…だからテメェは弱ぇんだ」
「なんだとっ!!」
セリウスが踏み込む。
自身の最高速度、聖炎を纏った神速突撃。
《神炎断罪剣!!》
だが、カイゼルは避けない。
「さぁ、地獄に堕ちる覚悟はできてるか?」
魔剣が黒く染まり空間が軋む。
《終焉解放!!!》
――ドォォォォォォォンッ!!!!
すべてが混ざり合い、回廊が崩壊する。
その中心でセリウスの剣が砕ける。
「……な……」
膝が落ち、視界が揺れる。
目の前には黒炎の中から、カイゼルが歩いてくる。
その姿はまさに魔王そのもの――
「終わりか?」
「……まだだ……!」
セリウスが息を荒げる。
「いいや、もう終わってんだよ」
カイゼルが見下ろす。
「お前の剣には、“誰かの為”が無い。
力に縋った時点で、勇者から遠ざかったのはテメェの方だ」
カイゼルの黒炎が揺れる。
「……本当に勇者に憧れてたなら、アイツの“弱さ”も見るべきだったな」
セリウスが言葉を失う。
崩れ落ち、脳裏に浮かぶのは憧れたリィナの姿と――今のリィナ。
傷だらけ、闇を抱えて。それでも前へ進む女。
「……あ……」
セリウスの手から砕けた剣が落ち、地に倒れる。
「ふん。やっと気付いたようだな。もっとも遅かったようだが…」
カイゼルが背を向け、崩れた回廊の奥へ歩き出す。
その背後で、セリウスは静かに目を閉じた――




