第95黒 神炎の騎士団長 セリウス=ブライトハート
重い鐘の音が、聖灰教団本部全域へ響き渡り、壁面に刻まれた光術式が、一斉に起動。
「全区画封鎖。第一級警戒態勢へ移行します」
無機質な音声が、空間全体に反響する。
周りは教団兵と魔導機械兵によって包囲され、
その後方には、魔導砲を搭載した機械兵器が低い駆動音を鳴らしている。
赤い照準光が、一斉にリィナ達を捉える。
「撃ちなさい」
ビションの静かな声の後に、光弾の嵐。
「守ります!!」
≪闇の盾!!≫
リディアが盾を構え仲間の前に立つ。
だが、長くは持たない。
「くっ…。」
激しい攻撃の余波で回廊が吹き飛び、石片が嵐のように舞い散る。
「ぬぅぅんッ!!」
ゼルヴァが攻撃の隙を突き、前へ出ると、拳撃で正面の魔導機械兵を叩き潰す。
鋼鉄の胴体がひしゃげ、周りの兵を巻き込み壁へ突き刺さる。
「くそ…数が多いな!」
「包囲戦ですからねぇ!」
シルフィが笑いながら、影の中を滑る。
次の瞬間、教団兵の首筋へ短剣。
ザシュッ!!
「はい、一人退場ですよぉ」
だが敵は止まらず、次々と押し寄せる。
「チッ……!」
カイゼルが黒炎を放つ。
「鬱陶しい虫共だ!」
黒炎が回廊を薙ぎ払い教団兵達が吹き飛ぶ。
だが、その炎の向こうから、さらに増援。
「数で削る気か……!」
ゼルヴァが歯を食いしばる。
更に追い打ちをかけるように、後方の僧兵達が魔法を放つ。
天井から光槍が降り注ぐ。
「上からも来るわ。!」
ヴェルミナが叫ぶ。
《呪詛障壁!!》
黒い呪詛壁が展開し光槍と激突。
衝撃で床が割れる。
「……本気で殺しに来てるわね」
ヴェルミナが冷たく笑う。
「当然でしょう?」
上空の術式映像のビションが静かに告げる。
「あなた方は侵入者、敵なのですから」
その声音には感情がない。
「ならば、最大戦力で迎え撃つのは当然のこと」
次の瞬間、回廊そのものが動く。
「なっ……!?」
リディアが目を見開く。
「内部構造まで制御してるの!?」
「盤面そのものを動かしてるのよ、あいつ」
ヴェルミナが舌打ちする。
「リィナ様、もう逃げ道がありませんよぉ…」
シルフィが囁く。
リィナは周囲を見渡す。
逃げ道はどんどん狭まっている――だが、瞳に迷いはない。
「逃げ道なんて必要ないわ…。私達は進むだけ。
ここで止まれば、また誰かが犠牲になる…」
その声に、仲間達の空気が変わる。
「……はい!」
リディアが頷く。
「ハッ、最初からそのつもりだ!」
ゼルヴァが笑う。
「ああ、道が無いなら焼き開ければいい!」
カイゼルが黒炎を纏う。
「良かったぁ。誰も弱気じゃなくて」
シルフィがくすりと笑う。
次の瞬間、リィナが踏み込む。
「まずはこの包囲を突破する。」
≪黒龍断閃!!≫
黒い斬撃が、前方の回廊ごと前列の教団兵を両断する。
壁が吹き飛び、空いた穴を一行が駆ける。
礼拝大回廊。
巨大なステンドグラスが並ぶ神殿区画を進む。
「止めろォ!!侵入者を中央へ通すな!!」
教団兵達が叫び、魔導砲が火を吹く。
リディアが巨大盾展開。
≪闇の盾!!≫
ドゴォォンッ!!
光弾を真正面から受け止める。
「ぐっ……!今のうちです!!」
今度はゼルヴァが拳で聖騎士を吹き飛ばし、カイゼルの黒炎が後列を焼き払う。
その時、まるで処刑宣告のように再び鐘が鳴り響き、
ビションの声が響く。
「ここまで到達するとは、流石です」
空間に、無数の光陣が浮かぶ。
「ですが――」
次の瞬間、淡い光が、回廊全体を包み込む。
「ここから先は、“選別”の領域。
あなた達の戦力を削ってあげましょう。」
次の瞬間、重い鐘の音と共に巨大な白い隔壁が落下する。
「っ!?」
リィナの赤い瞳が、光陣の奥を見る。
「誰か……来るわ」
重い足音と共に、白銀の光の中から、一人の男が姿を現す。
教団騎士団長 セリウス=ブライトハート。
その姿を見た瞬間、空気が変わる。
「……やっぱり来たか、元勇者のリィナ様よぉ…」
低い声。
だがその視線は、真っ直ぐリィナへ向いている。
「くくく…随分と堕ちた顔になったな。」
「貴様……!」
リディアが眉をひそめる。
だがリィナは、表情を変えない。
「……セリウス」
短く呟く。
それだけで、二人の過去が滲む。
セリウスがゆっくりと剣を持ち上げる。
「見損なったぜ…昔のアンタは、
誰よりも強く、気高く、俺達の憧れだったってのによぉ…」
その声には、怒りがあった。
「だが、今のお前は何だ?」
セリウスの視線が冷たく細まる。
「復讐に染まっただけの化け物じゃないか…!?」
空気が張り詰め、リディアが前へ出ようとする。
だが――
「待て」
カイゼルだった。
黒炎を纏ったまま、ゆっくり前へ出る。
「……ほう、魔族の王か。」
セリウスが目を細める。
「ふん。帝国の亡霊が、随分と馴れ馴れしい」
カイゼルが笑う。
「貴様は勇者時代のリィナに憧れていたみたいだが…本質は見えていない」
その一言で。セリウスの眉が、僅かに動く。
「ああ?本質だと?」
カイゼルは続ける。
「そうだ。魔王として戦った俺には分かる。
勇者とは強さだけではない。
弱さも、怒りも迷いも…それらも抱えて、それでも前に進める者のことだ。」
「……だったら証明してみろよ。
今のリィナが、かつてより正しいと!」
セリウスの聖剣が光を放ち、神速の斬撃を放つ。
だが。
「ハッ……!」
カイゼルが笑いながら、黒炎の大剣で迎え撃つ。
――ガァァァンッ!!!
炎と光が回廊を揺らす。
壁が砕け、衝撃波が吹き荒れる。
「…行け」
鍔迫り合いのまま、カイゼルが言う。
「こいつは…俺が殺る」
リィナが迷う。
「だが……!」
「行けと言っている。…貴様の目的はビションだろう?」
リィナが静かに口を開く。
「分かった。……任せるわ」
「ああ、貴様は前だけを見てろ」
カイゼルが笑う。
その言葉に、リィナは一瞬だけ目を閉じる。
「行くわよ」
全員が走り出す。
その背後で――黒炎と聖光が、激突する。




