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黒のカサブランカ ――裏切られし女勇者、闇に堕ちて魔王となる――  作者: 小鳥遊 千夜
第二章 二人目のメインターゲット 大司祭、ビション=ヴァルテス編

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95/112

第95黒 神炎の騎士団長 セリウス=ブライトハート

 

 重い鐘の音が、聖灰教団本部全域へ響き渡り、壁面に刻まれた光術式が、一斉に起動。


「全区画封鎖。第一級警戒態勢へ移行します」

 無機質な音声が、空間全体に反響する。


 周りは教団兵と魔導機械兵(ネクロ・マキナ)によって包囲され、

 その後方には、魔導砲を搭載した機械兵器が低い駆動音を鳴らしている。


 赤い照準光が、一斉にリィナ達を捉える。


「撃ちなさい」


 ビションの静かな声の後に、光弾の嵐。


「守ります!!」


 ≪闇の盾(ダーク・イージス)!!≫


 リディアが盾を構え仲間の前に立つ。



 だが、長くは持たない。


「くっ…。」


 激しい攻撃の余波で回廊が吹き飛び、石片が嵐のように舞い散る。



「ぬぅぅんッ!!」

 ゼルヴァが攻撃の隙を突き、前へ出ると、拳撃で正面の魔導機械兵を叩き潰す。


 鋼鉄の胴体がひしゃげ、周りの兵を巻き込み壁へ突き刺さる。


「くそ…数が多いな!」


「包囲戦ですからねぇ!」

 シルフィが笑いながら、影の中を滑る。


 次の瞬間、教団兵の首筋へ短剣。


 ザシュッ!!


「はい、一人退場ですよぉ」


 だが敵は止まらず、次々と押し寄せる。


「チッ……!」


 カイゼルが黒炎を放つ。

「鬱陶しい虫共だ!」


 黒炎が回廊を薙ぎ払い教団兵達が吹き飛ぶ。


 だが、その炎の向こうから、さらに増援。


「数で削る気か……!」

 ゼルヴァが歯を食いしばる。


 更に追い打ちをかけるように、後方の僧兵達が魔法を放つ。

 

 天井から光槍が降り注ぐ。


「上からも来るわ。!」


 ヴェルミナが叫ぶ。


呪詛障壁(カース・ウォール)!!》


 黒い呪詛壁が展開し光槍と激突。

 衝撃で床が割れる。


「……本気で殺しに来てるわね」


 ヴェルミナが冷たく笑う。


「当然でしょう?」


 上空の術式映像のビションが静かに告げる。


「あなた方は侵入者、()なのですから」


 その声音には感情がない。


「ならば、最大戦力で迎え撃つのは当然のこと」


 次の瞬間、回廊そのものが動く。


「なっ……!?」


 リディアが目を見開く。


「内部構造まで制御してるの!?」


「盤面そのものを動かしてるのよ、あいつ」

 ヴェルミナが舌打ちする。


「リィナ様、もう逃げ道がありませんよぉ…」

 シルフィが囁く。


 リィナは周囲を見渡す。


 逃げ道はどんどん狭まっている――だが、瞳に迷いはない。


「逃げ道なんて必要ないわ…。私達は進むだけ。

 ここで止まれば、また誰かが犠牲になる…」


 その声に、仲間達の空気が変わる。


「……はい!」

 リディアが頷く。


「ハッ、最初からそのつもりだ!」

 ゼルヴァが笑う。


「ああ、道が無いなら焼き開ければいい!」

 カイゼルが黒炎を纏う。


「良かったぁ。誰も弱気じゃなくて」

 シルフィがくすりと笑う。


 次の瞬間、リィナが踏み込む。


 「まずはこの包囲を突破する。」


 ≪黒龍断閃(ヴァル・ノワール)!!≫


 黒い斬撃が、前方の回廊ごと前列の教団兵を両断する。


 壁が吹き飛び、空いた穴を一行が駆ける。



 礼拝大回廊。

 巨大なステンドグラスが並ぶ神殿区画を進む。


「止めろォ!!侵入者を中央へ通すな!!」

 教団兵達が叫び、魔導砲が火を吹く。


 リディアが巨大盾展開。


闇の盾(シャドウ・イージス)!!≫


 ドゴォォンッ!!


 光弾を真正面から受け止める。


「ぐっ……!今のうちです!!」


 今度はゼルヴァが拳で聖騎士を吹き飛ばし、カイゼルの黒炎が後列を焼き払う。



 その時、まるで処刑宣告のように再び鐘が鳴り響き、

 ビションの声が響く。


「ここまで到達するとは、流石です」


 空間に、無数の光陣が浮かぶ。


「ですが――」


 次の瞬間、淡い光が、回廊全体を包み込む。



「ここから先は、“選別”の領域。

 あなた達の戦力を削ってあげましょう。」


 次の瞬間、重い鐘の音と共に巨大な白い隔壁が落下する。


「っ!?」


 リィナの赤い瞳が、光陣の奥を見る。


「誰か……来るわ」


 重い足音と共に、白銀の光の中から、一人の男が姿を現す。


  教団騎士団長 セリウス=ブライトハート。

  その姿を見た瞬間、空気が変わる。


「……やっぱり来たか、元勇者のリィナ様よぉ…」


 低い声。


 だがその視線は、真っ直ぐリィナへ向いている。


「くくく…随分と堕ちた顔になったな。」


「貴様……!」

 リディアが眉をひそめる。


 だがリィナは、表情を変えない。


「……セリウス」

 短く呟く。

 それだけで、二人の過去が滲む。


 セリウスがゆっくりと剣を持ち上げる。


「見損なったぜ…昔のアンタは、

 誰よりも強く、気高く、俺達の憧れだったってのによぉ…」

 

 その声には、怒りがあった。


「だが、今のお前は何だ?」


 セリウスの視線が冷たく細まる。


「復讐に染まっただけの化け物じゃないか…!?」


 空気が張り詰め、リディアが前へ出ようとする。


 だが――


「待て」

 カイゼルだった。

 黒炎を纏ったまま、ゆっくり前へ出る。


「……ほう、魔族の王か。」

 セリウスが目を細める。


「ふん。帝国の亡霊が、随分と馴れ馴れしい」

 カイゼルが笑う。


「貴様は勇者時代のリィナに憧れていたみたいだが…本質は見えていない」


 その一言で。セリウスの眉が、僅かに動く。

「ああ?本質だと?」


 カイゼルは続ける。


「そうだ。魔王として戦った俺には分かる。

 勇者とは強さだけではない。

 弱さも、怒りも迷いも…それらも抱えて、それでも前に進める者のことだ。」



「……だったら証明してみろよ。

 今のリィナが、かつてより正しいと!」


 セリウスの聖剣が光を放ち、神速の斬撃を放つ。


 だが。


「ハッ……!」


 カイゼルが笑いながら、黒炎の大剣で迎え撃つ。


 ――ガァァァンッ!!!


 炎と光が回廊を揺らす。

 壁が砕け、衝撃波が吹き荒れる。


「…行け」


 鍔迫(つばぜ)り合いのまま、カイゼルが言う。

「こいつは…俺が殺る」


 リィナが迷う。

「だが……!」


「行けと言っている。…貴様の目的はビションだろう?」


 リィナが静かに口を開く。

「分かった。……任せるわ」


「ああ、貴様は前だけを見てろ」

 カイゼルが笑う。


 その言葉に、リィナは一瞬だけ目を閉じる。


「行くわよ」


 全員が走り出す。


 その背後で――黒炎と聖光が、激突する。



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