第93黒 聖灰教団攻略戦
帝国領、外縁都市――灰都グラン=ゼイル。
空を覆う鈍色の煙。
巨大魔導炉も、石作造りの街並みも、魔導回路も
すべてが、国家という兵器を運用するために配置されている。
ここは人の為の街ではない
――魔導機械国家、それが帝国の在り方だ。
そして、その都市の中心に存在するのが――聖灰教団本部。
白亜の巨大聖堂。
煙に覆われた帝国都市の中で、そこだけが異様なほど白い。
まるで、死体の骨のように。
都市外れの高台にある、崩れた監視塔の影。
リィナ達は、そこから街を見下ろしていた。
排熱混じりの風と鉄と灰の臭いが風に吹かれて鼻につく。
リディアが眉をひそめる。
「相変わらず……息苦しい街ですね。」
「空気が死んでいますからねぇ」
シルフィが小さく呟く。
屋根の上から戻ってきたばかりらしく、
肩に灰が積もっている。
「それで、どこから侵入します?本部近くは巡回が多いですよぉ。
屋上にも監視術式も展開していますし…」
ヴェルミナが目を細める。
「……厄介ねぇ」
「それに、教団は単体じゃない、帝国の後ろ立てもある」
カイゼルが腕を組み、巨大聖堂を睨む。
「あそこは、単なる宗教施設じゃない、帝国の“実験場”みたいなもの
…だからこそ警備も厳重だ。」
ゼルヴァが低く唸る。
「ちっ…相変わらず、胸糞悪い連中だ」
遠くを歩く魔導機械兵、無機質な鋼鉄の兵士。
その横を、感情を失ったような市民達が歩いていく。
誰も笑わず、誰も空を見ない。
まるで、生きることすら、管理されているような地獄の町。
リィナは、静かにその光景を見つめていた。
「……ビションらしいわ」
ぽつりと呟く。
ヴェルミナが、
ちらりとリィナを見る。
「昔からだったの?」
リィナは視線を逸らさない。
「ええ、“正しさ”に拘る人だった。
誰より優しくて誰よりも人を救いたがってた…」
その声は、どこか静かだった。
「……でもだからこそ壊れた」
怒りとも、悲しみとも違う。
カイゼルが鼻を鳴らす。
「光に酔った奴ほど厄介なものはない、自分が正義だと信じて疑わんからな」
リディアが、ゆっくりと口を開く。
「ですが……あの人はリィナ様を知っている…
こちらの動きも読まれている可能性が高いです。」
「高いじゃない…確実に読んでくる。」
リィナが呟き、全員の空気が変わる。
「……なら、どうするのですか?」
リィナは、巨大聖堂を見上げた。
「……真正面から行く」
シルフィが目を丸くする。
「おやまぁ、珍しいですねぇ」
「ビジョン相手に隠れても意味がない。
それにビションは“隠れる前提”で盤面を組んでくる筈だわ」
ヴェルミナが頷く。
「なるほど、意表を突くのねぇ」
「ええ、」
リィナの瞳が鋭くなる。
「問題は…幹部達。彼らがどういう動きをしてくるか分からない。」
カイゼルが笑う。
「そんな雑兵共は俺が蹴散らしてやる。お前はビジョンだけに集中するといい」
「そうですよぉ。後ろは私達にお任せください~」
「ああ、帝国に恨みがあるのはお前だけじゃない、一人残らず叩き潰してやる。」
仲間達がリィナに笑う。
「皆、…感謝する。」
「あら、お礼はまだ早いんじゃない?それは全てが終わってからよ」
ヴェルミナが悪戯っぽく微笑む。
「…分かったわ。」
リィナが肩を落とし笑う。
「ビジョンは元僧侶、おまけに戦力も向こうの方が圧倒的に多い。
長期戦は不利になる、だから短期決戦で決める。」
「望むところだ!全部ぶち壊して突っ込めばいい!」
ゼルヴァがニヤリと笑う。
「脳筋ね」
ヴェルミナが呆れる。
「でも、間違いでもない」
リィナが言う。
「ビションは完成した盤面が最も強い。逆に言えば、崩れた状況には弱い」
その時。
ゴォン――。
低い鐘の音が響き都市中へ広がる。
「さぁ、行くわよ」
リィナは、ゆっくりとフードを被った。
赤い瞳が、闇の奥で光る。
「ビションを倒し、教団を潰す」
リィナが聖堂を見上げる。
夜風が吹き、灰が舞う――その中をリィナ達は進む。
目指すは帝国の闇、教団の中枢へ――




