第92黒 “黒のカサブランカ”討滅指令
帝国聖灰教団本部――円卓の間。
重厚な扉が閉じると同時に、静寂が落ち燭台の火だけが、揺れている。
その玉座で教皇 ルシアン=カイゼルクレストが静かに口を開く。
「……報告は聞いた。」
視線が、円卓をなぞる。
「ラグナ・セクト作戦――失敗したようだな?」
ミラが鼻で笑う。
「ええ、そうよ。で?それが何?」
ミラの態度に協会騎士団長、セリウス=ブライトハートが睨む。
「軽く言ってんじゃねぇよ。マリオンまでが落ちたんだぞ」
「やられたのはあいつが弱かっただけ、私のせいじゃないわ。」
ミラは一切動じない。
その言葉に冷たく言い放つ人物はリュシアン=ノルド。
教団僧兵長を務めており、守りの要である。
「だが、負けたのは事実であろう?」
ミラの目が細くなる。
「私の作戦は完璧。あと一歩だった…
でも、想定外の自体が起きた…そのせいよ。」
歯を食いしばる。
「全ては……”あの女”のせいだわ」
一つ一つ、言葉を置く。
「……チッ」
大きく舌打ちするのはセリウス。
腕を組み、苛立ちを隠さない。
「気に食わねぇな」
「マリオンのやつは嫌いだったが……
“やられる側”になるのは、話が別だ」
拳が鳴る。
ミシッと。
「……あいつが落ちるなら、俺が叩き潰す側であるべきだった」
ミラが鼻で笑う。
「はっ、相変わらずね」
「うるせぇ!てめぇが仕留めきれなかったのが原因だろうが」
「やめるのだ」
リュシアンの声。
「内輪で潰し合うな」
巨大な盾を床に打ち付ける。
「戦力を一つ失っている状況で、感情で判断するな」
「感情?」
ニヤニヤと笑うのは教団大呪術師ダリオ=シャード。
「実にいいじゃないですかァ!感情」
「マリオンは壊れた…。完璧な機械であってもいつか壊れるモノ…」
「ハッ…相変わらずイカれた考えしてんな」
セリウスが睨む。
「おや?……何かご不満のようですね。」
ダリオが楽しそうに言う。
「“死”とは平等。だからこそ美しいのですよ。」
空気が濁る。
「……くだらない教えね。」
ミラが吐き捨てる。
その時、静かな声が差し込む。
「少し、議論が逸れておりますよ。」
全員の視線が、一点に集まる。
声の主は大司祭、ビション=ヴァルテス。
「今回の結果は、明確でございます」
淡々と。
「敵は“想定以上”だった。
だから、……戦術を修正する必要があります。」
セリウスが腕を組む。
「で?どう変えるんだ?」
ビションは指を一つ立てる。
「分断では不十分、逃走経路を許したのが今回の敗因です。」
リュシアンが頷く。
「……確かに」
ビションは続ける。
「次に――“個人ではなく集団作戦”に移行いたします」
「外の両方から“檻”を形成、追い詰め“同時”に殲滅する」
セリウスが笑う。
「へッ…いいじゃねぇか、まとめて燃やせる」
リュシアンが問う。
「防御線はどうするのだ?」
「私が担いましょう。」
ダリオが笑う。
「へぇ……自らとは随分とやる気だね」
「ええ」
ビションは微笑む。
「すべて“計算の上”でございます」
ヴァレンが軽く手を叩く。
「うん、まさに完璧な計算だね。」
「でもさ、その“計算”、外れたらどうするの?」
ビションは視線だけを向ける。
「外れるようなことはございません。
私が出る限り、そのような誤りは許しませんので」
ヴァレンが笑う。
「いいねぇ」
(危険だな、…これは、強すぎる信念は、折れた時に脆い)
ルシアンが口を開く。
「……ビション」
「はい」
「今回の指揮を任せよう。」
静かに告げる。
「今度こそ、確実に仕留めるのだ」
ビションは一礼する。
「承知いたしました」
顔を上げる。
「私の光が道を示します。
抗う者には――救いはございません」
その言葉が、静かに響く。
ミラが笑う。
「いいわ」
セリウスが剣に手をかける。
「やっと俺の出番だな。」
リュシアンが頷く。
「隊列は私が維持しよう。」
ダリオが楽しそうに言う。
「壊れる準備は万端ですねェ」
ヴァレンが小さく笑う。
「さて……どっちに転ぶかな」
ビションが遠くを見つめながら呟く。
「黒のカサブランカ……その闇――
私の光で、今度こそ消させてあげますよ」
燭台の火が揺れる。
それはまるで――
次の戦いが、既に始まっているかのように。




