第86黒 「魔弾の終焉――狙撃手マリオン撃破」
リィナ達の呼吸が、ほんの一瞬だけ揃う。
だが次の瞬間――
見えない“線”が、三人すべてに重なった。
逃げ場を許さない、無数の照準。
「同時射撃」
マリオンの声は、機械のように淡々としていた。
――パンッ、パンッ、パンッ!!…パンッ!!
乾いた音が、重なり合う。
だがその弾丸は、同じではない。
あるものは直線、あるものは湾曲、あるものは加速する。
異なる軌道、異なる速度、異なる角度。
完全に“個別最適化”された殺意。
まるで、それぞれの“未来の回避”を潰すように配置された死。
「私が守ります!」
リディアが叫ぶ。
地を蹴り、身体ごと前へ――壁となる。
≪闇の盾、最大展開!!≫
漆黒の魔力が一気に膨れ上がり
半透明の防壁が、幾層にも重なり合う。
盾ではない。もはや“壁”だ。
――ギィンッ!! ギィィンッ!!
3発、直撃。
衝撃が腕を伝い、骨の奥まで軋む。
「くっ……!」
足が沈むがなんとか、耐える。
守り切る――はずだった。
「やりますね。ですが……もう一発、お忘れですよ?」
そう。死角から放たれた弾丸が――
“壁の隙間”をすり抜ける。
「しまっ……」
その一瞬。
「……させないわ!」
低く、冷たいリィナの声。
リディアの盾の影から、滑り込むように前へ。
≪黒龍断閃≫
剣が、振り抜かれ至近距離で
圧縮された闇が、弾丸と衝突する。
――ドォンッ!!
弾丸ごと、空間を押し潰すような衝撃。
衝突点から黒い衝撃波が広がり、瓦礫を巻き上げる。
視界が、一瞬で奪われる。
粉塵と魔力の残滓。
すべてが混ざり合い、“何も見えない”世界が生まれる。
煙の中。マリオンの瞳が、わずかに揺れる。
「……視界喪失」
だが、その声に焦りはない。
「問題――」
視界がなくとも、彼女は“感知”で撃つのは造作もない。
魔力の流れ、呼吸、体温。
すべてが“標的”になる。
引き金に指がかかる。
その瞬間――
「問題、大ありよ」
背後から声。
「なっ――」
反応が、遅れる。
その理由――
リィナは、そこに“いなかった”はずだから。
煙の中に気配は確かにあった。
だが――途中で“消えた”。
――固有スキル:完全隠密
かつてリィナが奪った力。
存在そのものを、戦場から“消す”技。
感知すら、欺く。
だからこそ、マリオンの“計算”から外れた。
≪黒百合斬!!≫
躊躇も、溜めもない。ただ、斬るためだけの一閃。
――ザシュッ!!
肉を裂く感触と血が、空中に散り白銀の髪が赤が滲む。
マリオンの膝が、崩れる。
だが――
彼女は、銃を離さない。
崩れ落ちながらも、腕だけは動く。
「……まだ、終わっていません」
その声は、かすれていない。
冷静なまま、銃口が、ゆっくりと持ち上がる。
ゼロ距離。
逃げ場はない。
「必中」
――パンッ!!
放たれる最後の一発。
だが。
「……遅いわ」
リィナの手が、銃身を掴む。
弾丸が放たれた“後”ではない。
放たれる“瞬間”。
魔力の流れごと、握り潰す。
じわり、とリィナの魔力が流れ込む。
「貰うわよ。あなたの全てを……」
低く、囁く。
≪奪魂の契約――≫
吸収し魔力が、逆流する。
マリオンからリィナへ。
弾丸が、霧のように崩れて消える。
「……っ」
マリオンの瞳が、初めて揺れる。
感情ではない、“機能の異常”として。
「……計算が……狂いました…ね」
マリオンの力が抜け、銃が手から滑り落ちる。
そのまま――崩れた。
煙が、ゆっくりと晴れていく。
その中心に、リィナが立っている。
「終わりよ」
足元で、黒百合が、ゆっくりと閉じる。
まるで役目を終えたように。
戦場に流れていた“支配”が、反転する。
縛っていたものが解け、代わりに――
リィナの影が、場を覆う。
戦場の支配者が――入れ替わった瞬間だった。




