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黒のカサブランカ ――裏切られし女勇者、闇に堕ちて魔王となる――  作者: 小鳥遊 千夜
第二章 二人目のメインターゲット 大司祭、ビション=ヴァルテス編

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第86黒 「魔弾の終焉――狙撃手マリオン撃破」


 リィナ達の呼吸が、ほんの一瞬だけ揃う。


 だが次の瞬間――


 見えない“線”が、三人すべてに重なった。


 逃げ場を許さない、無数の照準。


「同時射撃」


 マリオンの声は、機械のように淡々としていた。


 ――パンッ、パンッ、パンッ!!…パンッ!!


 乾いた音が、重なり合う。


 だがその弾丸は、同じではない。


 あるものは直線、あるものは湾曲、あるものは加速する。


 異なる軌道、異なる速度、異なる角度。


 完全に“個別最適化”された殺意。


 まるで、それぞれの“未来の回避”を潰すように配置された死。



「私が守ります!」


 リディアが叫ぶ。

 地を蹴り、身体ごと前へ――壁となる。


 ≪闇の盾(ダーク・イージス)最大展開(フル・バースト)!!≫


 漆黒の魔力が一気に膨れ上がり

 半透明の防壁が、幾層にも重なり合う。


 盾ではない。もはや“壁”だ。


 ――ギィンッ!! ギィィンッ!!


 3発、直撃。

 衝撃が腕を伝い、骨の奥まで軋む。


「くっ……!」


 足が沈むがなんとか、耐える。


 守り切る――はずだった。


「やりますね。ですが……もう一発、お忘れですよ?」


 そう。死角から放たれた弾丸が――


 “壁の隙間”をすり抜ける。


「しまっ……」


 その一瞬。


「……させないわ!」


 低く、冷たいリィナの声。


 リディアの盾の影から、滑り込むように前へ。


黒龍断閃(ヴァル・ノワール)


 剣が、振り抜かれ至近距離で

 圧縮された闇が、弾丸と衝突する。


 ――ドォンッ!!


 弾丸ごと、空間を押し潰すような衝撃。


 衝突点から黒い衝撃波が広がり、瓦礫を巻き上げる。


 視界が、一瞬で奪われる。


 粉塵と魔力の残滓。


 すべてが混ざり合い、“何も見えない”世界が生まれる。


 煙の中。マリオンの瞳が、わずかに揺れる。


「……視界喪失」


 だが、その声に焦りはない。


「問題――」


 視界がなくとも、彼女は“感知”で撃つのは造作もない。


 魔力の流れ、呼吸、体温。

 すべてが“標的”になる。


 引き金に指がかかる。


 その瞬間――


「問題、大ありよ」


 背後から声。


「なっ――」


 反応が、遅れる。


 その理由――

 リィナは、そこに“いなかった”はずだから。


 煙の中に気配は確かにあった。


 だが――途中で“消えた”。


 ――固有スキル:完全隠密ステルス


 かつてリィナが奪った力。


 存在そのものを、戦場から“消す”技。


 感知すら、欺く。


 だからこそ、マリオンの“計算”から外れた。


黒百合斬(リリィ・エッジ)!!≫


 躊躇も、溜めもない。ただ、斬るためだけの一閃。


 ――ザシュッ!!


 肉を裂く感触と血が、空中に散り白銀の髪が赤が滲む。


 マリオンの膝が、崩れる。


 だが――

 彼女は、銃を離さない。


 崩れ落ちながらも、腕だけは動く。


「……まだ、終わっていません」


 その声は、かすれていない。


 冷静なまま、銃口が、ゆっくりと持ち上がる。


 ゼロ距離。


 逃げ場はない。


「必中」


 ――パンッ!!


 放たれる最後の一発。


 だが。


「……遅いわ」


 リィナの手が、銃身を掴む。


 弾丸が放たれた“後”ではない。


 放たれる“瞬間”。


 魔力の流れごと、握り潰す。


 じわり、とリィナの魔力が流れ込む。


「貰うわよ。あなたの全てを……」


 低く、囁く。


奪魂の契約(アブソーブ・リンク)――≫


 吸収し魔力が、逆流する。


 マリオンからリィナへ。


 弾丸が、霧のように崩れて消える。


「……っ」


 マリオンの瞳が、初めて揺れる。


 感情ではない、“機能の異常”として。


「……計算が……狂いました…ね」


 マリオンの力が抜け、銃が手から滑り落ちる。

 そのまま――崩れた。


 煙が、ゆっくりと晴れていく。


 その中心に、リィナが立っている。


「終わりよ」


 足元で、黒百合が、ゆっくりと閉じる。


 まるで役目を終えたように。


 戦場に流れていた“支配”が、反転する。


 縛っていたものが解け、代わりに――


 リィナの影が、場を覆う。


 戦場の支配者が――入れ替わった瞬間だった。



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