第85黒 全対象、同時ロック
崩れた塔の上空。
斬撃と魔弾が衝突し、爆ぜた煙が濃く広がる。
視界は奪われ、魔力の流れも乱れる。
だが――それは同時に、“均された視界”でもあった。
誰もが見えない。
だからこそ――動く者がいる。
「遅くなりましたぁ」
ふわり、と。
煙の層を裂くように、シルフィが姿を現す。
リィナの斜め後方。
狙撃線の延長に割り込み、背後を守る位置に着く。
「……援護、入りますねぇ」
シルフィが笑う。
その視線はすでに――マリオンの癖を捉えている。
「今がチャンスですね!」
リディアが地面を蹴り、瓦礫を砕き、一直線。
≪漆黒疾走≫
煙を突き破り、距離を強引に潰す。
「っ……接近戦?」
マリオンの瞳がわずかに揺れ、スコープ越しの“絶対距離”が崩れる。
「非効率ですね…」
だが判断は一瞬。
銃口を下げる――その刹那。
「逃げ場は与えない!!」
リディアが跳躍。
上空からの一撃。
――ガンッ!!
鋼と魔力が激突する。
マリオンは後退するが、完全には避けきれずに
肩口をかすめ、血が散る。
「ちっ……、ここは危険域」
即座に分析し、距離を取ろうとする。
だが――
「逃がさないわ」
今度は煙の奥から、リィナが踏み出す。
すでに位置を読んでいたかのように。
≪黒百合拘束!!≫
足元から闇の蔓が噴き出し絡みつき、拘束。
「……これは拘束!?」
マリオンの動きが止まる。
その隙を逃さずに、シルフィが背後へ回り込む。
「……さぁ、もう逃げられませんよぉ」
くすり、と笑う。
リィナが正面、リディアが横。シルフィが背後を取る。
三方向からの包囲。
マリオンは静かに分析するが、逃げ道は完全に塞がれている。
「……詰み?」
視線が僅かに動く。3人の役割は把握済み。
だが――
「――いいえ」
瞳に、わずかな光。
「最終手段、実行します。」
魔導銃が異様な光を帯び、空気が震え魔力が“面”として広がる。
「……まだ奥の手があったみたいね。」
リィナが眉をひそめながら、剣を握る。
シルフィが肩をすくめる。
「大技っぽいですねぇ」
リディアが踏み直す。
「何が来ようと、必ず守り抜く!」
「《魔弾領域》展開」
その一言で、空間が変質する。
煙が消え見えなかった軌道が、“線”として浮かび上がる。
縦横無尽に。
「……ここからは、私の領域です」
リィナの瞳が細まる。
「なるほど……空間そのものが照準になっている」
ヴェルミナの言葉が脳裏をよぎる。
“術者の領域内では、法則が歪む”
つまり――
「回避が成立しない、か」
その瞬間。
――パンッ!!
放たれた弾丸が空間に沿って、追尾する。
「来ます!」
リディアが前に出る。
≪闇の盾!≫
盾で防ぐ――だが直後。
弾丸が分裂し肩を掠める。
「っ……!」
衝撃が重なり、リディアの足が後退する。
「これは分裂弾……!」
さらに。
――パンッ!!
今度は五発。空間そのものが逃げ場を潰す。
「……厄介ね」
リィナが前へ出る。
剣を構え、魔力を集中。
≪黒花絶断!!≫
――ザンッ!!
空間ごと裂く一閃。
分裂弾ごと、魔力を断ち切る。
「……魔法ごと斬る、か」
マリオンの瞳がわずかに動く。
「……ならこれです」
《遅延屈折弾!!》
――パンッ!!
先程と違い、今度は遅い魔弾。
「……?」
リディアが警戒する。
次の瞬間――弾丸が消えた。
「消えた!?…どこ?」
リィナが振り向く。
だが――遅い。
その死角を突く。
「ふふ、見えてますよぉ」
シルフィが現れる。
短剣を“出現点”へ突き刺す。
キィンッ!!
弾丸を弾く。
「こういうトリック、大好物ですよぉ」
三人の連携が噛み合う。
だが――
マリオンは焦ることなく、銃を構え直す。
《多重狙撃線》
空間を走る無数の“線”が一斉に輝き、照準が収束する。
照準はリィナ、リディア、シルフィ……三者すべてへ。
「……これで終わりです」
「全対象、同時ロック」




