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黒のカサブランカ ――裏切られし女勇者、闇に堕ちて魔王となる――  作者: 小鳥遊 千夜
第二章 二人目のメインターゲット 大司祭、ビション=ヴァルテス編

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第83黒 今度こそ守り抜く

 

 ――パンッ!!


 放たれた魔弾が、空間を裂く。


 歪んだ遺跡の中、弾丸は一直線ではない。

 幾度も“曲がり”、位相の継ぎ目を縫い、最短で“死”へ到達する軌道。


 リィナの瞳が、それを捉える。


「……来る」


 回避は――不可能。


 魔力は臨界に届かない。

 黒百合は、まだ“咲ききっていない”。


「……間に合わない」



 その瞬間。


 ――ビキィィィィッ!!


 耳を裂くような異音。


 それは音ではない。

 “世界そのもの”が軋む、現実の悲鳴。


 リィナの前方。

 何もないはずの空間が――歪む。


「……っ!?」


 空気が裂け、光が捻じ曲がる。


 そして――


 黒い亀裂。


 細く、鋭く。

 だが確かに“そこにある”。


「……何……!?」


 リィナが目を見開く。


 その亀裂の奥。


 暗闇の向こうから――


 剣が、突き出され空間を切り裂く。


「――遅れてすみません!!」


 その声と共に

 裂け目から、リディアが飛び出す。


 リディアが戦場に踏み込むと同時に――

 リディアの剣が、最小の動きで軌道に割り込む。


 ギィンッ!!


 魔弾が、弾かれる。


「……っ!」


 リィナの瞳が、わずかに見開かれる。


「……来たのね」


 短く、だが確信を込めて。


 リディアは剣を構えたまま、視線を逸らさずに答える。


「ええ。」


 一歩、前に出る。

 リィナを背に庇うように。


「私は貴方を守る騎士ですから」


 その声に、迷いはない。


 ただ、“決めたことを遂行する騎士”の声音。


 リィナが小さく息を吐く。


「……本当に、無茶するわね」


「フフ、貴方にだけは言われたくないですよ。」


 二人の呼吸が、揃う。



 ――同時刻、別位相。


 歪んだ空間の中でゼルヴァの咆哮が、空間を震わせる。


「今だァッ!!」


 拳が振り抜かれる。


 轟ッ!!


 凄まじい衝撃で空間そのものが、大きく歪む。


 だが、それだけでは足りない。


「チッ……まだ閉じるか!」


 ゼルヴァが歯噛みする。


 その瞬間――


「ふん……ようやく裂け目か」


 低く響く声の主は別位相にいるカイゼル。


 黒炎が、手の中で蠢く。


「ならば――焼き切るまでだ」


「燃え尽きろ……深淵の炎で!」


 ≪深淵の黒炎(アビス・ブレイズ)


 闇の炎が、空間の裂け目へ流れ込む。


 焼くのは物質ではない。


 “繋がり”そのもの。


 ビキィッ――!!


 空間が悲鳴を上げる。


「いいぞ、そのまま押し込め!!」


 ゼルヴァがさらに踏み込み、拳を重ねる。


 衝撃と炎。力と魔術。


 相反するはずのものが――


 一瞬だけ、噛み合う。


「崩れろォォッ!!」


 空間が耐えきれず、歪みが拡張する。


 裂け目が広がり結界が“綻ぶ”。


 その一瞬の隙。


 それを――


 リディアが掴んだ。



 崩れた柱の上、高所で銃を構える――マリオン


 マリオンの瞳が、静かに戦場を捉える。


「……命中、確定」


「終了です」


 引き金を引く。


 ――その直後。


「……?」


 違和感を感じる。


 視界に“ノイズ”。弾道に――誤差。


「……何?」


 弾が弾かれていることに気付く。


「……ありえない」


 即座に再演算。


 だが――


 数式が成立しない。


「弾道は完璧、干渉は不可能」


「一人では絶対に避けれない筈――」


 一拍。


「まさか……」


 瞳が、わずかに細まる。


「誰かが位相を突破した……?」


 だがその可能性は、計算外。


 再度、思考を巡り導き出される結論。


「……戦況、修正」


 銃口が、わずかに動く。


 だが――


 その僅かな遅れ。


 その“迷いにも満たないズレ”が――


 致命的だった。



 ――瓦礫の中、歪んだ空間。


 その中心に――


 二人。


 リィナとリディア。


 背中を預ける距離。


「戦える?」


 リィナが短く問う。


 呼吸は乱れているが、声は落ち着いている。


 リディアは即答する。


「ええ、勿論です。」


 剣を構え直す。



「リィナ様は?」


「見ての通りよ」


 血を拭う、口元に笑み。


「まだ動けるわ。」


 短い沈黙。


 今はそれで十分。言葉はいらない。


「……上にいるわね」


 リィナが視線を上げ、歪んだ空間の向こう。


「気配は消してるけど……完全じゃない」


 リディアも頷く。


「ええ。狙撃手のようですね。」


 盾を構え、一歩、前に出る。


「今度は、通させません。」


 その言葉に。


 リィナが、わずかに口元を緩める。


「いい盾ね」


 ほんの僅かな笑み。

 リディアも、わずかに口角を上げる。


「ありがとうございます。」


 その瞬間、空気が変わる。


 リィナの足元に闇が収束する。


 黒百合が、完全に咲く。


「……さあ」


 リィナの瞳が赤く輝く。


「反撃の時間よ」


 リディアが剣を構える。


「はい!」


 二人の気配が、完全に重なる。


 狩られる側ではない。


 狩る側へ。


 戦場が、反転する。


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