第82黒 断たれた絆、繋がる意志
――リィナ側―
仲間と分断されマリオンの領域に閉じ込められたリィナ。
辺りは空気が張り詰め、音が削ぎ落とされ、
世界が狙撃手のためだけに最適化されているかのような感覚に陥る。
その異質な均衡を――
――パンッ!!
乾いた銃声が破壊した。
「……っ!」
肩口が弾ける。
血が散り、遅れて痛みが焼けるように広がる。
リィナが一歩、後退する。
「見えない……!」
即座に周囲へ視線を走らせる。
瓦礫。柱。影。
だが――“そこにいるはずの存在”だけが、どこにもない。
「超遠距離……それに、この空間……」
歪んだ視界。
距離感が曖昧に溶けている。
「軌道が読めない……」
低く、冷静に分析する。
その瞬間――
――パンッ!!
足元が爆ぜる。
「くっ……!」
体勢を崩しかけ、無理やり踏みとどまる。
石片が跳ね、靴底を削る。
さらに。
――パンッ!!
頬を掠める。
一筋、血が流れる。
「……完全に、捕捉されてるわね」
逃げ場を“計算で潰されている”。
偶然ではない、必然の射線。
「……狩る側のつもりだったけど」
自嘲気味に、小さく笑う。
「狩られる側も、悪くないわね」
だがその瞳は、微塵も死んでいない。
むしろ――
獲物ではなく、“噛み付く獣”のそれ。
「ただし――」
剣を構える。
黒い魔力が、ゆっくりと集まり始める。
「噛み付くけどね。」
闇が凝縮し、足元に“黒百合”が咲きかける。
――リディア側
その頃。別位相にいるリディア。
閉ざされた空間の中で――
「……くそ……!」
リディアの剣が、再び叩きつけられる。
ガンッ!!
だが、応えはなく空間は軋むだけで、開かない。
「開け……ッ!!」
ガンッ!!
だが――変わらない。
「間に合わない……!」
息が荒くなる。
その脳裏に浮かぶのは――
リィナの背中。
戦場に立つ、あの姿。
「私は…」
拳を握る。
「私は、守ると誓った……!」
だが現実は無情だ。
目の前には見えない壁、手を伸ばしても届かない。
「……また、失うのか……?」
リディアの脳裏に過去が蘇る。
守れなかった命、届かなかった剣、折れた誇り。
「……違う」
顔を上げ、瞳に炎が宿る。
「今度は違うッ!!」
剣に魔力が集中し闇が奔る。
「壊すのではなく――」
「繋ぐッ!!」
剣が位相へ叩き込まれ、空間がわずかに軋む。
――同時刻。
同じく別位相のヴァルミナ。
「――見つけたわ」
その声は、静かに背後から響いた。
「え?」
ミラが振り向いたその瞬間――
足元に魔法陣に現れ、ヴェルミナがそこに立っていた。
まるで最初から“そこにいた”かのように。
「あなたが術者ね?」
ミラの瞳が見開かれる。
「な、んで……」
「簡単よ」
微笑む。
「あなたの術、目立ちすぎなの」
その直後、空間に走る呪詛。
「――魂縛」
ヴァルミナの魔法が発動しミラの身体が、止まる。
「っ……!?」
指先の宝石が弾け、防御術式が展開されるが――
既に手遅れ。
「捕まえた。もう逃げられないわ」
ヴェルミナの瞳が赤く光る。
「あなたは……ここで終わりよ」
結界が軋む、ミラの支配していた空間に、歪みが生じる。
それは――
戦場全体への影響。
――同時刻。再び、リィナへ。
マリオンの領域内では激闘が続いていた。
ミラが支配していた空間の歪みが、わずかに“揺らぐ”。
だが――
それは回避の余地ではない。
むしろ。
「……来る」
次は――当たる。
逃げ場はなく、軌道も読めない。
完全な詰み。
「……それでも」
リィナは剣を構え黒百合が、咲きかける。
魔力が臨界へ向かう。
だが――
間に合わない!
マリオンの引き金は、すでに引かれている。
パンッ!!
放たれる、死。
弾丸が――
迫る。
「――間に合わないッ!!」




