第81黒 閉ざす世界、抗う者たち
ラグナ・セクト遺跡の内部。
崩落したはずの空間は、もはや“元の形”を保っていなかった。
壁は歪み、角度を失い、
床は波打つように緩やかに傾斜し、
天井は“遠ざかっている”のか“近づいている”のかすら判別できない。
――ゼルヴァ側
ゼルヴァが、目の前の壁へと拳を叩き込む。
――ドゴンッ!!
重い衝撃。
だが。
「……っ?」
手応えが、ない。
確かに当たったはずの壁が、
ほんのわずかに“奥へ逃げた”。
まるで殴る直前に距離が引き延ばされたような。
「どういうことだ?……さっきとは手ごたえが違う」
もう一度、踏み込み拳を放つ。
すると、床が軋む。
いや――足元が、ぬるりと歪む。
石床が液体のように波打ち、足を絡め取る。
「ちっ…ふざけた真似を……!」
竜火が拳に宿る。
赤熱した魔力が、空気を震わせる。
「おい術者!……そこにいるんだろう?」
咆哮し壁を睨む。
だが返答はない。
代わりに――
空間が、わずかに揺れる。
「姿も見せずとは、随分と卑劣なヤツだ。」
口角が吊り上がる。
「待っていろ!完膚なきまでに叩き潰してやる!」
拳を振り上げる。
だがその炎が――消えていく。
「……っ、炎まで干渉しているだと?」
魔力の流れが乱されている。
「面白い……!」
低く笑う。
「ならば尚更、力でねじ伏せる価値がある!」
拳が、再び唸りを上げた。
――シルフィ側
「……おかしいですねぇ」
シルフィはしゃがみ込み、床を撫でる。
「魔力の流れが変わりましたねぇ…」
そのまま影の中へ滑り込もうとするが、
だが――途中で弾かれ影が裂ける。
「これは……」
立ち上がり周囲を見ると、影が“断続的に切れている”。
「接続が……途切れてる?」
つまり、“経路”を分断されたのだ。
「ふふ……」
不敵に笑う――
だが目は笑っていない。
「これは、相手も本気で潰しに来てますねぇ」
空間に張り巡らされた魔力の糸が先程よりも厳重に
幾重にも重なっていることに気付く。
「でも――」
短剣を抜く。
「こういうの、嫌いじゃないですよぉ」
にやりと笑う。
「逃げ道、探すのは得意なんですからぁ」
――リディア側
「……っ!」
重い空気。
だがそれ以上に――
“遠い”。
仲間の気配が、確かにある。
だが遠い。
手を伸ばせば届く距離ではない。
「……位相隔離か」
低く呟く。
剣を抜く。
床へ叩きつける。
――ガンッ!!
だが砕けない。
当然だ。
これは“物質”ではない。
「……だが」
目が鋭くなる。
「そこに“いる”のなら――」
再び振り下ろす。
今度は、感覚へ。
気配へ。
――ガンッ!!
空間が軋む。
確かな手応え。
「……やはりな」
さらに一撃。
――ガンッ!!
歪みが走る。
空間に、ひびのような“ズレ”。
「そこだッ!!」
剣を突き立てる。
ねじ込む。
押し広げる。
だが――
ビキィ……と歪んだ瞬間。
「……閉じる、だと!?」
裂けかけた空間が、押し戻される。
「くっ……!」
歯を食いしばる。
「ふざけるな……!」
再び叩き込む。
――ガンッ!!
今度は弾かれる。
まるで世界に拒絶されたような反発。
息が荒くなる。
「……これは、結界を強化されたか……」
拳が震える。
視線が落ちる。
だがすぐに上げる。
「それでも……私は」
低く。
絞り出すように。
「守ると決めたんだ……!」
剣を握り直す。
「この程度で、止まるか……!」
――ヴェルミナ側
「……ふふ」
この歪んだ空間の中で、ただ一人。
余裕を保ちながら怪しく笑う――ヴァルミナ=ブラッドムーン。
彼女が指先で空間をなぞる。
「荒いわねぇ……」
ピリ、とした感触と乱れた魔力の流れ。
「隠してるつもりでしょうけど、逆に目立ってるわよ?」
小さく笑いながら、空間の奥。
糸のような“核”を捉える。
「見つけた…」
だが指先が触れるその瞬間に、核が姿を消す。
「あら、逃げるの?」
一歩、踏み出し魔法陣が足元に広がる。
「いいわよ。追い詰めるの、好きだから」
呪詛が静かに広がる。
空間の奥へ。
逃げる核を――
ゆっくりと、絡め取るように。
「さぁ、どこまで逃げられるかしらね?」
――リディア側
空間に、ひびのような“ズレを見つけた、リディア。
「そこだッ!!」
剣を突き立てねじ込む。亀裂を押し広げる。
だが――
ビキィ……と歪んだ瞬間。
「……閉じる、だと!?」
裂けかけた空間が、押し戻される。
「くっ……!」
歯を食いしばる。
「ふざけるな……!」
再び叩き込む。
――ガンッ!!
今度は弾かれる。
まるで世界に拒絶されたような反発。
息が荒くなる。
「……これは、先程よりも術が強化されている……!?」
(仲間が…リィナ先輩が…向こうにいるのに届かないなんて……)
拳が震え、視線が落ちる。
「それでも……私は、守ると決めたんだ……!」
剣を握り直す。
「この程度で、止まってなどいられるか……!」




