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黒のカサブランカ ――裏切られし女勇者、闇に堕ちて魔王となる――  作者: 小鳥遊 千夜
第二章 二人目のメインターゲット 大司祭、ビション=ヴァルテス編

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74/92

第74黒 特別という名の嘘

 

 静かな室内――

 月光が、銀髪の男を照らす。


 モナーク=ヴァルハイトは窓辺に立ち、帝都を見下ろしている。


 その背中には、かつての英雄の面影。

 

 だが、その内側にあるのは――


 支配と選別。

 感情ではなく、“価値”で世界を見る男。


「……入れ」


 扉が開く。


「失礼いたします、モナーク様」


 ミラ=ソルティスが入室する。

 鮮やかなピンクの長髪が、歩みに合わせて静かに揺れる。

 身に纏うのは、帝国騎士団の意匠を取り入れた魔導衣。

 赤を基調に、紫と金の装飾が絡み合い、魔力の流れを示す紋様が淡く脈動している。


 胸元や指先には、大小様々な宝石。

 指に嵌められたリングの一つ一つが、魔力増幅の触媒であり――

 同時に彼女の執着の象徴でもあった。


 一礼。


 その視線はまっすぐに彼へ向けられている。


「お呼びでしょうか?」


 だが、モナークは振り返らない。


「教団との件は聞いているな?」


「はい。」


「耳が早いな、流石は俺の自慢の右腕だ。」


「当然ですわ。貴方の為ですもの」


 柔らかく微笑む。

 だがその笑みは、どこか他者を排除するような閉じたものだ。


「ですが……」


 その声に、僅かな棘。


「ビション=ヴァルテス……気に入りませんわね」


 その目に宿るのはわずかな軽蔑。


 モナークは小さく笑う。


「別に気に入る必要はない」


 ゆっくり振り返る。

 その瞳は冷たい。


使()()()()()()()、それだけだ」


 ミラは頷く。


「……それで、ご命令は?」


 空気がわずかに変わり、モナークが歩み寄る。


「簡単な話だ。教団に手を貸せ」


 ミラの目が細くなる。


「……協力、ですか?」


「ああ」


()()()()、な」


 その言葉に、ミラはわずかに微笑む。


「裏がある、ということですね」


 モナークは否定しない。


「察しがいいな、ミラ」


 その言葉。


 それだけで――


 ミラの心は満たされる。


「……当然ですわ。私は貴方のものですもの」


 モナークは、彼女の顎に手を添える。


 優しく、甘く。


「そうだな」


 囁くように。


「お前は特別だ」


 ――嘘だ。


(“特別”なんてものは存在しない)


「そんなお前だからこそ頼みたい。」


 モナークの甘い言葉に、ミラの瞳は完全に満たされる。


「これはビションに“貸し”を作り、教団の戦力を俺の意のままに動かす理由にもなる」


「そして――”黒のカサブランカ”を捕らえろ。」


「捕らえて――」


 ゆっくりと告げる。


「俺の下へ()()()()()


 その声は静かだが、絶対。


 ミラは一瞬だけ沈黙する。


(……黒のカサブランカ…また、あの女)


 胸の奥に、黒い感情が滲む。


(気に入らない、なぜそこまで……)


 だが、その感情は押し殺す。


 代わりに浮かべるのは、完璧な笑み。


「……承知いたしました」


 深く頭を下げる。


「ビションと連携し、確実に捕縛いたします」


 モナークは満足げに頷く。


 そして、ミラの顎に軽く触れる。


 甘く。優しく。


「期待しているぞ。お前ならできる」


 その一言。


 ミラの心が満たされる。


「……はい」


「必ず、貴方の望みを叶えてみせます」


 だが――


 モナークの瞳は、既に彼女を見ていない。


 ビションも教団もそして――右腕のミラさえも彼にとっては駒に過ぎない。


 ミラは顔を上げる。


 その瞳には、忠誠と――


 消しきれない嫉妬。


(ああ、黒のカサブランカ……貴方さえいなければ)


 だが、口には出さない。


「……準備を進めますわ」


「頼む」


 短い返答。


 ミラは一礼し、背を向ける。


 扉へ向かう、その足取りは優雅。


 だが――


 その内側では。


(絶対に、認めない!あんな女が……)


(モナーク様の“特別”なんて)


 指に嵌めた宝石が、きらりと光る。


(捕らえる……ええ、捕らえてやりますわ。)


 (無事には言いませんけど…)


 微かに歪む唇。


 扉が閉まり静寂が流れる。


 一人残ったモナークは、再び窓の外を見る。


「……リィナ」


 その名を、静かに呼ぶ。


「お前だけは逃がさないぜ」


 その声は、愛ではなく――


 支配欲だけがあった。







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