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黒のカサブランカ ――裏切られし女勇者、闇に堕ちて魔王となる――  作者: 小鳥遊 千夜
第二章 二人目のメインターゲット 大司祭、ビション=ヴァルテス編

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第73黒 光の盾、裏切りの名に堕つ

 

 会議室の扉が、重く閉まり

 長い廊下に、足音が一つだけ響く。


 ビション=ヴァルテスは歩みを止めない。


 その背中には、揺るがぬ威厳と――

 わずかな苛立ち。


(……エルドの死。想定外ではあるが、誤差の範囲)


 だが。


(“黒のカサブランカ”……)


 ほんの一瞬、思考が濁る。


 その時――


「相変わらず堅い顔してんなぁ、お前」


 場違いなほど、軽薄な声音。


 ビションの足が止まり

 振り返ることなく、静かに言う。


「……”貴方”ですか…」


 影の中から、現れる男。

 かつてリィナ達とパーティを組んでいた戦士であり、

 現在は帝国騎士団総帥の”モナーク=ヴァルハイト”


 帝国の軍服に身を包み、青い瞳は冷たく細まり、銀の髪は無造作に流されている。

 そんな彼が壁に寄りかかり、笑う。


「久しぶりだな、ビション」


「……ええ。ですが、再会を喜ぶ間柄ではありませんね」


 ビジョンの淡々とした返答に、モナークは肩をすくめる。


「冷たいねぇ。昔はもう少し人間味あっただろ?」


「過去は過去です」


「今は“教団の犬”ってわけか?」


 わざとらしい挑発。


 だがビションは動じない。


「秩序に従うことを“犬”と呼ぶならば……そうかもしれませんね」


 一歩、距離を詰める。


「ですが、貴方のような無秩序な獣よりは遥かに価値がある」


 モナークが、くつくつと笑う。


「相変わらず口が回るな」


 一瞬の沈黙。


 そして、話題は自然と――


()()()のこと、聞いたぜ」


 空気が変わる。


「今は確か、”黒のカサブランカ”だっけか?」


 ビションの目が、わずかに細くなる。


「……ええ」


「しかも部下がやられたんだって?」



「事実です」


 ビジョンが短く答える。


 その言葉にモナークの口元が、歪む。


「いいねぇ……やっぱり“あいつ”は特別だ」


「……これは随分と楽しそうですね」


「当たり前だろ?」


 顔を上げる。


 その瞳に宿るのは――


 歪んだ欲望。


「世の中の女は全部、俺のモンだからな」


 ビションの眉が、僅かに動く。


「その中でも、リィナは“特別枠”。最高の獲物だよ」


 沈黙。


 そして――


 ビションが、ゆっくりと口を開く。


「……そういえば」


 わずかな皮肉を込めて。


「”ウィザー”を騙し、捨てたのは……()でしたかね?」


 空気が、一瞬だけ凍りモナークの目が細まる。


 だが――


 すぐに笑う。


「はは、()()()か」


 軽い、あまりにも軽い。


「利用価値があったから使()()()。それだけだ。」


「愛ではなかった、と?」


「当然だろ?力になるから近くに置いたやっただけだ」


 ビションは、わずかに目を伏せる。


(……救いようがありませんね)


 モナークは続ける。


「で、そろそろ本題だ。」


 壁から離れ一歩、近づく。


「俺ともう一度、組まないか?」


 静かな提案。


 だが、その裏にあるのは――


 明確な打算。


「……理由を伺いましょう」


「簡単だ。」


 モナークは笑う。


「“黒のカサブランカ”は、お前らだけじゃ扱いきれない」


「……」


「俺も欲しい。力も、あの女もな。

 そこでだ。貸してやるよ」


 指を立てる。


「俺の“右腕”をな」


「……ほう」


「使えるぞ。()()()


 意味深な笑み。


「お前らのやり方にも、きっと馴染む」


 ビションは、しばらく考えるように目を閉じる。


 そして――


 静かに頷く。


「……良いでしょう」


 モナークが笑う。


「話が早くて助かるぜ」


 だが、その瞬間。


 ビションの瞳の奥に、冷たい光が宿る。


(……利用させていただきますよ、モナーク)


(貴方も……、その“右腕”も)


「では、後ほど詳細を詰めましょう。」


「ああ、楽しみにしてるぜ」


 モナークは背を向け、去り際に、振り返る。


「次に会う時は――」


 笑う。


「奪い合いかもしれねぇな?」


 ビションは、微笑む。


「ええ、その時は――」


「こちらも容赦しませんよ?」


 静かな宣戦布告。


 モナークは愉快そうに笑いながら去っていく。


 足音が消え再び静寂が流れ、ビションは一人、立ち尽くす。


「……リィナ」


 かつての仲間の名を、静かに呟く。


「貴方の闇が……どこまで届くのか」


 目を閉じる。


「この光で、測らせていただきましょう」


 その声には――


 わずかな“執着”と、確かな“敵意”が混じっていた。




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