第70黒 壊れなかったもの
爆発の余波が、帝国の施設全体を揺らす。
遅れて――警報音。
けたたましく鳴り響く。
「自爆シークエンスを確認。全区画、ロックダウンを開始します――」
無機質なアナウンス。
だが、その声すら途中でノイズに歪む。
「……チッ、まだ終わってねぇのか」
ゼルヴァが舌打ちする。
天井が崩れ落ち、瓦礫が降る。
「ここも、長く持たないわね」
ヴェルミナが冷静に周囲を見渡す。
「10分……いえ、もっと短いかも」
「リィナさま、ここにもう用事はありません。お早くですよぉ」
シルフィがリディアを支えている。
リディアのまだ意識は不安定だ。
「……立てる?」
リィナが静かに問う。
「……すみません……まだ……」
力が入らず、視線も定まらない。
「…いいわ」
リィナは迷わない。
そのまま、リディアの腕を取り――
肩に回す。
「私が運ぶ」
一瞬、シルフィが驚く。
だがすぐに、柔らかく笑う。
「……ふふ、やっぱり優しいですねぇ」
「……余計なことは言わなくていい」
リィナはそっけなく返す。
だが、その動きは丁寧だった。
「行くぞ!崩落の前に抜ける!」
カイゼルが先導する。
通路を走りる。
鳴り響き続ける警報に爆発、そして崩壊。
後方で、何かが崩れる音。
施設が、死んでいく。
「右だ!」
ゼルヴァが叫ぶ。
落ちてくる瓦礫を、尾で弾き飛ばす。
「罠は全部解除済みですよぉ!」
シルフィが先行する。
影を渡り、最短ルートを切り開く。
「遅れないで。置いていくわよ」
ヴェルミナが振り返る。
だがその位置は、しっかり後衛を守っている。
出口が見えた。
「飛ぶぞ!」
ゼルヴァが叫ぶ。
次の瞬間――
全員、外へ飛び出す。
その背後で施設が、崩壊した。
爆発と激しい閃光、轟音が、夜の山に炎が広がる。
リィナは振り返らずに、ただ、静かに目を閉じる。
――そして森の中。静かな夜。
遠くで、まだ煙が上がっている。
小さな焚き火が
ぱち、と音が鳴る。
リディアは横になっており、シルフィがそばで看ている。
「……今は落ち着いてますよぉ」
優しく、額に手を当てる。
「もう大丈夫です」
「……そう」
リィナが短く返す。
少し離れた場所では、
カイゼルが腕を組んでいる。
「ふん……手こずらせやがって」
だがその口調は、どこか緩い。
「でも、勝ったわよ。」
ヴェルミナが小さく笑う。
「それにあの子を“壊さずに”ね」
「……ああ」
カイゼルが頷く。
ゼルヴァが焚き火に薪をくべる。
「いい戦いだった」
短く。
だが、それが全てだった。
その静けさの中で、
リディアが、ゆっくりと目を開ける。
「……先輩……」
リィナが、そちらを見る。
「……起きたのね」
「……わたし……」
記憶が、戻り苦しそうに顔を歪める。
「……怖かった……」
震える声。
リィナは、少しだけ間を置く。
そして――
「もう大丈夫よ」
それだけを言う。
リディアの目から、涙がこぼれる。
「……ごめんなさい……」
「謝る必要はない。悪いのは、あなたじゃない」
シルフィが優しく笑う。
「そうですよぉ。むしろ、よく頑張りましたねぇ」
ヴェルミナも肩をすくめる。
「生きてるだけで合格よ」
ゼルヴァが低く言う。
「ああ、洗脳に屈しなかったこと、人間にしては大したものだ。」
カイゼルが鼻を鳴らす。
「これで、また帝国の戦力は下がっただろうな。」
リディアが、少しだけ笑う。
その光景を見て。
リィナは――
ほんのわずかに、視線を逸らす。
焚き火が揺れる。
「……心、か」
小さく呟く。
エルドの言葉、そして、自分の言葉。
(……まだ、残ってるのね)
完全に壊れたわけじゃない。
「……だからこそ」
リィナは立ち上がる。
「進むしかない。」
振り返らない、その背中に。
「はい」
シルフィが微笑む。
「どこまでも、ついていきますよぉ」
「当然でしょ」
ヴェルミナも続く。
「面白くなってきたもの」
ゼルヴァが立つ。
「ああ、帝国を潰すまではな。」
カイゼルが笑う。
「復讐劇は、まだ終わらん」
夜の中。
炎が、静かに揺れる。
戦いは終わった。
だが――
物語は、まだ続く。




