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黒のカサブランカ ――裏切られし女勇者、闇に堕ちて魔王となる――  作者: 小鳥遊 千夜
第二章 二人目のメインターゲット 大司祭、ビション=ヴァルテス編

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第69黒 アリガトウ

 

 リィナの魔法で

 世界が、黒に染まり花弁のような闇が舞う。


 触れたものを侵食し、飲み込む力。


 だが――


 中心だけが違う、優しく。


 包み込むように。


 リィナが、振り抜き斬撃が、内部へ届く。


 肉ではない、装甲でもない。


 “魂の核”へ。


 その瞬間。


「……ア……」


 声が、揃う。


 今までバラバラだったものが。


 一つに。


「……アリ……ガ……ト……」



 制御を失い、自ら崩壊していくグラフト=アーク。



 装甲が砕ける。肉が剥がれる。



 その中心で――


 エルドは、ただ“理解できない”という顔をしていた。


「……おかしい、」


 ぽつりと呟く。


 声が震えている――


 だがそれは恐怖ではない。


 困惑。


「ありえない、ありえない、……理論上、ありえないッ!!」


 計算するように、指を動かす。


 視線が揺れる。


「個体は完全に統合され、意思は排除されていたはずです!」


「命令系統は最適化済み、精神干渉も封鎖済み」


 グラフト=アークの崩壊は止まらない。


 それでも――


 理解しようとする。


「……なぜです?」


 歪な腕が、ゆっくりと動く。


 エルドへと伸びる。


「やめろ、…」


 一歩、下がる。


「それは誤作動、ただのバグです! 私の理論に狂いはないはず…!!」


 掴まれる。


「やめろと言っているのですよ!!」


 引きずられ、足が床を擦る。


「私は創造主だ!!」


「お前たちは素材、部品なのですよ!!」


 なおも、理解しようとする。


「なぜ、感情は削除したはず……」


「記憶も、思考も、全て分解し再構築した……」


 エルドの顔が歪むーー


 初めて。


 だがそれでも――


 “怒り”ではない。


 理解不能への苛立ち。


「なぜ残る!?なぜ動く!?」


「なぜ命令に従わない!!?」


 グラフト=アークの内部から、声が響く。


「……オワ……ラセ……」


 エルドが目を見開く。


「違う……こんなのは錯覚。ただの残響です」


「意味はありません!」


「アリ……ガ……ト……」


「違うッ!!」


 叫ぶ。


「そんなものは存在しない!!」


「それは機構に不要だ!!」


 その時――


 リィナが、静かに歩み寄る。


「……あなたには分からないでしょうね」


 エルドの視線が、リィナへ向く。


「分からない……?」


 かすれる声。


「どういう意味です……?」


 リィナは、まっすぐに見る。


 その目に、怒りよりも哀れむような瞳をしている。


「人は…()()()()()()


 一歩、近づく。


()があるの」


 エルドの瞳が、わずかに揺れる。


「心……?」


 理解できない言葉。


「そんな非効率なもの……」


 リィナが、遮る。


「その“非効率”に、あなたは負けたのよ」


 沈黙。


 エルドの口が、わずかに開く。


「……負けた?」


 その言葉の意味すら、掴めない。


「私が?……私の最高傑作が?……」


「理論は正しかったはず……」


 エルドの腕の拘束が、強まり骨が軋む。


「なのに……なぜだ……?」


 視線が、揺れる。


「なぜ……こんな結果になる……?」


 誰にも答えられない問い。


 いや。


 答えはある。


 だが――


 彼には、一生理解できない。


「……ありえない……」


 その言葉が、最後だった。




 グラフト=アークの核が、膨張し光る。


 内部から、声。


 今度は、はっきりと。


「……アリガトウ」


 エルドの目が、見開かれる。


「やめろ……」


 初めて、ほんの僅かに。

 エルドの目に恐怖が混じる。


「やめろォォォォォォォォ!!!!」


 光が、全てを呑み込む。


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