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黒のカサブランカ ――裏切られし女勇者、闇に堕ちて魔王となる――  作者: 小鳥遊 千夜
第二章 二人目のメインターゲット 大司祭、ビション=ヴァルテス編

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第68黒 それは復讐にあらず

 

 カイゼルが、わずかに眉をひそめる。

 戦場の喧騒の中で、リィナだけが“別の何か”を見ているように感じたからだ。


「何が見えたのか……?」


 その問いに――リィナは迷いなく答えた。


「ええ、“人”よ」


 はっきりと、断言する。


「壊されても、繋ぎ合わされても――まだ、ここにいる」


 その瞬間、

 グラフト=アークが、わずかに震えた気がした。


 誰も気づかない、聞こえないはずの声が――


 リィナにだけ届く。


「……タス……ケ……テ……」


 かすれた声、壊れかけた言葉。


 だが――

 それはただの残滓ではない。


 ほんの僅か、ほんの欠片。


 それでも確かに――


 “意志”だった。


 リィナの瞳が、細くなる。


 そこに宿るのは、怒りではない。

 憎しみでもない。


 理解と――決意。


「……ええ」


 小さく、しかし確かに応える。


 剣を握る手に、迷いはない。


「もう、苦しまなくていい」


「終わらせてあげる」


 その言葉が落ちた瞬間。


 グラフト=アークの巨体が――


 ほんの一瞬だけ、揺らぐ。


 止まる。


 それは、機能停止ではない。


 ――応答。


 内部に残された“何か”が、その言葉に触れた証。


「……止まった……?」


 カイゼルが目を見開く。


 ヴェルミナも息を呑む。


「まさか……」


 説明のつかない現象。


 だがリィナだけは、それを理解していた。


 一歩、踏み出す。


「全員、合わせなさい」


 静かに告げる。


「ふん……ようやくか」


 カイゼルが口元を歪め、魔力が一気に膨れ上がる。


「燃え尽きろ……《深淵の黒炎(アビス・ブレイズ)》!!」


 黒炎が渦を巻き、空間ごと捻じ曲げながら叩きつけられる。


 轟音と焼ける匂い。


 肉と金属が同時に崩れる音。


 だが――


「……っ、まだ……!」


 炎の中で、肉が蠢く。


 盛り上がり、絡みつき、再構成される。


 炎を喰らいながら、なお形を保つ。


「チッ……まだ足りんか」


 カイゼルが舌打ちする。


 ゼルヴァがすぐさま空へ。

 翼が大きく広がり、空気が裂ける。


「だったら――上から叩き潰すだけだ」


 一瞬で加速。


 重力すら引き連れて落ちてくる。


「《天空突撃(スカイ・ストライク)!!」



 大地が割れ、施設全体が軋み、崩壊音が連鎖する。


 だが――


 それでも、グラフト=アークは立っている。


 崩れながらもなお、存在し続ける。


「……しぶといわね」


 ヴェルミナが低く呟く。


 指を鳴らすと同時に、魔法陣が幾重にも展開。


 空間を覆い尽くす。


「呪詛結界、最大展開――逃がさないわ」


 闇が絡みつき、機体の動きを拘束する。


魂縛(ソウル・バインド)!!……崩れなさい」


 見えない鎖が内部へと侵入し、“魂”に触れる。

 内部のざわめきが、わずかに乱れる。


「ふふ……、逃がしませんよぉ」


 シルフィの姿が消える。


 次の瞬間――


 関節部、接合部、弱点に的確に刃が走る。


「そこ、弱いですねぇ」


 二刀が閃き、動きをさらに削ぐ。


 完全に止めるには至らない。

 だが確実に――“鈍らせている”。


 そしてリィナだけが、違う速度で動いていた。


 ゆっくりと、まっすぐに。


 まるで戦場の喧騒から切り離されたように。


「……聞こえてるわ。あなた達の声」


 小さく呟く。


 その声は、誰にも届かない。


 だが確かに、“中”には届いている。


 リィナは目を閉じ、ほんの一瞬だけ。


 流れ込む声と壊れた記憶、助けを求める感情。


 すべてを受け止め――


 そして、目を開く。


「……今、楽にしてあげる。」


 その言葉に、迷いはない。


 愛剣のダーク・リベリオンが、低く唸り闇が広がる。


 だが。


 その闇の奥に――


 ほんのわずかな“光”。


「これは、復讐じゃない」


 一歩、踏み込む。


「――救済よ」


「《黒百合(ノクス・)終焉(カサブランカ)!!》」


 振り下ろされる刃。

 空間が静止したかのような一瞬。


 その軌跡が――


 まっすぐに、“核”へと伸びていく。


 誰も届かなかった場所へ。




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