第67黒 誰にも届かない声
「……気色悪ぃな。だが、悪党にはお似合いの姿だ。」
エルドを見ながら、カイゼルが笑う。
「同感だ!直ぐに叩き潰してやる!」
ゼルヴァが踏み込む。
《天空突撃!!》
渾身の拳が、グラフト=アークの外殻を破壊する。
崩れていく外殻。
だが――
それは“破壊”ではなかった。
「その程度では終わりませんよ。……再構築、開始」
エルドの声が、歪む。
次の瞬間――
ぐちゃり、と
砕けた装甲の内側から、肉が溢れ出し破片を繋ぎ直す。
「……自己再生ですかぁ……厄介ですねぇ」
シルフィの声が震える。
ヴェルミナが低く呟く。
「……ただの自己修復じゃないわ。これは“進化”だわ」
機体の全身が、変形し金属は骨へ。
肉は装甲へ。
そして――
複数の“顔”が浮かび上がる。
苦悶。絶叫。無言の叫び。
「これが…人間のやることなの!!」
あまりの非道な光景にリィナが激しく怒りを露わにするが、
そんな声には耳を貸さずに内部から、エルドの歓喜が響く。
「生命と機構の完全融合!!」
「ああ!!これですよ!これこそが――人の完成形!!」
グラフト=アークは、もはや“兵器”ではない。
意思なき生命の集合体。
「……また来るぞ。」
ゼルヴァが低く唸る。
次の瞬間、消える。
いや――
速すぎて見えない。
衝撃でゼルヴァが吹き飛ぶ。
「がっ……!」
「遅いですね。」
エルドの声。
同時に、無数の腕が地面から突き出す。
「思い通りにはさせないわ。《禁断術式》展開!」
ヴェルミナが叫び闇の魔法陣が炸裂する。
だが――
魔法が直撃したにも関わらず肉が、瞬時に戻る。
「再生速度、問題なし」
「……調子に乗るなよ。」
カイゼルが歯を噛む。
「燃え尽きろ……《深淵の黒炎》!!」
今度はカイゼルの黒炎が飲み込み、肉を溶かし焼く。
だが――
「無駄ですね。」
再生、再生、再生。
「魔力を……吸ってるわ!」
ヴェルミナが気づく。
「攻撃そのものを“糧”にしてる!」
シルフィが歯を食いしばる。
「じゃあ、どうすればいいんですかぁ……!」
その時――
グラフト=アークの胸部。
“顔”の一つが――
リィナを見た気がした。
「どうしました?よそ見している暇はありませんよ!」
エルドの声と同時に、機体が跳ねるように動く。
次の瞬間、圧縮されたような衝撃がリィナを叩きつけた。
「――っ!」
肺から空気が押し出され、地面が砕ける感触だけが残る。
視界が一瞬白く飛び、砂と血の匂いが混ざった世界に引き戻される。
「……まだよ」
かすれた声。
リィナはゆっくりと立ち上がる。
血を拭う仕草に迷いはない。
剣を握り直し、一歩前へ。
その瞬間だった――
ぐに、と何かに触れた。
グラフト=アークの外殻でも、肉でもない。
“境界のないもの”。
「――っ!?」
反射的に引こうとした手が、離れない。
いや、“引き込まれている”。
(……何?)
次の瞬間、世界の音が落ちた。
戦場の轟音も、仲間の声も、すべてが遠のく。
ただ、リィナの意識だけが沈む。
そして――
映像が流れ込んできた。
「ァ……ア……ッ……」
途切れた声。
だが一つではない。
無数の“声”。
重なり、擦れ、溶け合うように響く。
「だレか……タスケ……て……」
「イタい……イタい……ヤめテ……」
「ボク……まダ……イきたイ……」
子供の声。
幼い。震えている。
――その瞬間、リィナの眉がわずかに動く。
これは、幻覚でも精神攻撃でもない。
リィナ自身の能力が、偶然“構造の隙間”に干渉してしまっただけだった。
グラフト=アークに取り込まれた無数の個体。
その残滓となった意識と、リィナの魔力が一瞬だけ共鳴してしまった結果。
本来なら誰にも届かないはずの“内部の記録”が、リィナにだけ微かに漏れている。
「……っ、リィナ様!?」
シルフィの声も、誰も異変に気付いていない。
リィナの中に
幾つの願いと記憶が、ひとつの塊になって押し寄せてくる。
「……っ」
思わず呼吸が乱れる。
だが、それでも手は離さない。
踏み込んだまま、奥へ。
さらに深く――触れてしまう。
その中心にあったのは、ひとつの感情ではなかった。
“助けて”と、壊れた願いの集合体。
「タスケ……テ……」
「コロ……シテ……」
「オワラ……セテ……」
リィナは静かに目を細めた。
「……そう」
気のせいじゃない――
リィナが、静かに呟く。
「……まだ、残ってる」




