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黒のカサブランカ ――裏切られし女勇者、闇に堕ちて魔王となる――  作者: 小鳥遊 千夜
第二章 二人目のメインターゲット 大司祭、ビション=ヴァルテス編

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第67黒 誰にも届かない声

 

「……気色悪ぃな。だが、悪党にはお似合いの姿だ。」

 

 エルドを見ながら、カイゼルが笑う。


「同感だ!直ぐに叩き潰してやる!」


 ゼルヴァが踏み込む。


天空突撃(スカイ・ストライク)!!》


 渾身の拳が、グラフト=アークの外殻を破壊する。


 崩れていく外殻。


 だが――


 それは“破壊”ではなかった。


「その程度では終わりませんよ。……再構築、開始」


 エルドの声が、歪む。


 次の瞬間――


 ぐちゃり、と

 砕けた装甲の内側から、肉が溢れ出し破片を繋ぎ直す。


「……自己再生ですかぁ……厄介ですねぇ」

 シルフィの声が震える。


 ヴェルミナが低く呟く。


「……ただの自己修復じゃないわ。これは“進化”だわ」


 機体の全身が、変形し金属は骨へ。


 肉は装甲へ。


 そして――


 複数の“顔”が浮かび上がる。


 苦悶。絶叫。無言の叫び。


「これが…人間のやることなの!!」


 あまりの非道な光景にリィナが激しく怒りを露わにするが、

 そんな声には耳を貸さずに内部から、エルドの歓喜が響く。


「生命と機構の完全融合!!」


「ああ!!これですよ!これこそが――人の完成形!!」


 グラフト=アークは、もはや“兵器”ではない。


 意思なき生命の集合体。


「……また来るぞ。」


 ゼルヴァが低く唸る。


 次の瞬間、消える。


 いや――


 速すぎて見えない。


 衝撃でゼルヴァが吹き飛ぶ。


「がっ……!」


「遅いですね。」


 エルドの声。

 同時に、無数の腕が地面から突き出す。


「思い通りにはさせないわ。《禁断術式》展開!」


 ヴェルミナが叫び闇の魔法陣が炸裂する。


 だが――


 魔法が直撃したにも関わらず肉が、瞬時に戻る。


「再生速度、問題なし」


「……調子に乗るなよ。」

 カイゼルが歯を噛む。


「燃え尽きろ……《深淵の黒炎(アビス・ブレイズ)》!!」


 今度はカイゼルの黒炎が飲み込み、肉を溶かし焼く。


 だが――


「無駄ですね。」


 再生、再生、再生。


「魔力を……吸ってるわ!」


 ヴェルミナが気づく。


「攻撃そのものを“糧”にしてる!」


 シルフィが歯を食いしばる。


「じゃあ、どうすればいいんですかぁ……!」


 その時――

 グラフト=アークの胸部。


 “顔”の一つが――


 リィナを見た気がした。


「どうしました?よそ見している暇はありませんよ!」


 エルドの声と同時に、機体が跳ねるように動く。


 次の瞬間、圧縮されたような衝撃がリィナを叩きつけた。


「――っ!」


 肺から空気が押し出され、地面が砕ける感触だけが残る。

 視界が一瞬白く飛び、砂と血の匂いが混ざった世界に引き戻される。


「……まだよ」


 かすれた声。


 リィナはゆっくりと立ち上がる。


 血を拭う仕草に迷いはない。


 剣を握り直し、一歩前へ。

 

 その瞬間だった――

 

 ぐに、と何かに触れた。


 グラフト=アークの外殻でも、肉でもない。


 “境界のないもの”。


「――っ!?」


 反射的に引こうとした手が、離れない。

 いや、“引き込まれている”。


(……何?)




 次の瞬間、世界の音が落ちた。

 戦場の轟音も、仲間の声も、すべてが遠のく。

 

 ただ、リィナの意識だけが沈む。


 そして――

 映像が流れ込んできた。


「ァ……ア……ッ……」


 途切れた声。


 だが一つではない。


 無数の“声”。


 重なり、擦れ、溶け合うように響く。


「だレか……タスケ……て……」

「イタい……イタい……ヤめテ……」

「ボク……まダ……イきたイ……」


 子供の声。


 幼い。震えている。


 ――その瞬間、リィナの眉がわずかに動く。


 これは、幻覚でも精神攻撃でもない。


 リィナ自身の能力が、偶然“構造の隙間”に干渉してしまっただけだった。


 グラフト=アークに取り込まれた無数の個体。


 その残滓となった意識と、リィナの魔力が一瞬だけ共鳴してしまった結果。


 本来なら誰にも届かないはずの“内部の記録”が、リィナにだけ微かに漏れている。



「……っ、リィナ様!?」


 シルフィの声も、誰も異変に気付いていない。


 リィナの中に

 幾つの願いと記憶が、ひとつの塊になって押し寄せてくる。


「……っ」


 思わず呼吸が乱れる。


 だが、それでも手は離さない。


 踏み込んだまま、奥へ。


 さらに深く――触れてしまう。


 その中心にあったのは、ひとつの感情ではなかった。


 “助けて”と、壊れた願いの集合体。


「タスケ……テ……」

「コロ……シテ……」

「オワラ……セテ……」


 リィナは静かに目を細めた。


「……そう」


 気のせいじゃない――

 リィナが、静かに呟く。


「……まだ、残ってる」


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