第66黒 不完全ゆえに美しい――禁忌進化 ―
エルドの声が、歪む。
それは喜びとも、興奮とも違う。
――“理解できないものに触れた時の歓喜”。
「完璧ではない……」
低く、愉しむように。
「だからこそ、美しい」
その言葉に。
ほんの一瞬、空気が冷え切る。
「……黙れ」
リィナの声が、底に沈む。
怒りではない。
――拒絶。
その一言と共に、魔力が膨れ上がる。
空間が軋む。
「奪い、飲み込み、破壊する……」
闇が渦巻く。
足元から、空間を侵食するように広がっていく。
《黒百合魔装!》
その瞬間――
“世界が書き換わる”。
空間が歪み、幻影が砕ける。
焼け落ちた王国も仲間の残像も、
全てが、闇に飲み込まれる。
静寂。
そして――現実。
「ほう……」
エルドの声が、歓喜で震える。
「破られましたか。」
まるで、子供が新しい玩具を見つけたような声。
「私の“精神干渉”を……」
一拍。
「素晴らしい……!」
機体が、びくりと震え内部の肉が、脈打つ。
「本当に、素晴らしい!!」
笑っている――完全に。
ゼルヴァが低く吐き捨てる。
「……狂ってやがる」
カイゼルが鼻で笑う。
「今さらだろうが…」
それでもエルドは止まらない。
「どれも理想値に近い、やはりあなたは――」
一歩、機体が前に出る。
「解体する価値がある」
空気が凍る。
シルフィが、明らかに顔をしかめる。
「……ほんと、気持ち悪いですねぇ」
ヴェルミナも冷たく言い放つ。
「人の形してるだけの何か、って感じね」
エルドは、そんな言葉に一切反応しない。
「それでこそ、捕獲しがいがあるというもの」
その声には、
完全な“所有欲”が混じっていた。
リィナの瞳が、さらに冷える。
「それ以上、口を開くな」
短く、鋭く。
だが――
エルドは、リィナ達の声など聞こえていないかのように
楽しそうに笑う。
「いいでしょう」
「いいでしょうとも!!」
その声が、わずかに歪む。
「では――こちらも本気を出しましょう」
次の瞬間。
“グラフト=アーク”が、大きく脈動する。
どくん。
心臓のように。
いや――
それは確実に“生き物の鼓動”だった。
ゼルヴァが構えを深くする。
「来るぞ」
カイゼルが舌打ちする。
「面倒な展開だな……だが、嫌いじゃない」
エルドの声が、低く響く。
「グラフト=アーク――」
まるで、儀式のように。
「“制限解除”」
――バキン。
装甲が、内側から“押し広げられる”。
肉が裂け、剥がれる。
その内側から――
脈動する、赤黒い組織。
シルフィが息を呑む。
「……っ、あれ……まだ中に……」
“顔”が、開く。
一つではない。
無数の顔の残骸だ。
歪んだ口、閉じきらない瞼、焦点の合わない目。
それらが――
“同時にこちらを見た”。
ヴェルミナの声が、わずかに震える。
「……あれ、全部……」
「生きてる……?」
エルドが、優しく答える。
「ええ、もちろんです」
その声音は――
まるで、花を愛でるかのように穏やかだった。
「死んだら、意味がないでしょう?」
一瞬。
全員の動きが止まる。
ゼルヴァの目が、怒りで染まる。
「……貴様……」
エルドは続ける。
「苦しみ、壊れ、なお動く」
「それが最も美しく効率的な状態です」
カイゼルが、低く笑う。
「はは……なるほどな。本当に救えんな」
そして――
機体全体が、再構築されていく。
骨のような金属に肉のような装甲。
神経のような管。
それが融合する。
それに合わせエルドの声が、震える。
歓喜という狂気で。
「完全体――」
「《グラフト=アーク:アポストル形態》」
それはもう――
兵器ではない。
“冒涜そのもの”だった。
リィナは、静かに剣を構える。
その瞳に迷いはない。
「……終わらせる」
低く。
「その歪んだ命――私が断つ」




