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黒のカサブランカ ――裏切られし女勇者、闇に堕ちて魔王となる――  作者: 小鳥遊 千夜
第二章 二人目のメインターゲット 大司祭、ビション=ヴァルテス編

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第66黒 不完全ゆえに美しい――禁忌進化 ―

 

 エルドの声が、歪む。


 それは喜びとも、興奮とも違う。


 ――“理解できないものに触れた時の歓喜”。


「完璧ではない……」


 低く、愉しむように。


「だからこそ、美しい」


 その言葉に。


 ほんの一瞬、空気が冷え切る。



「……黙れ」


 リィナの声が、底に沈む。


 怒りではない。


 ――拒絶。


 その一言と共に、魔力が膨れ上がる。


 空間が軋む。


「奪い、飲み込み、破壊する……」


 闇が渦巻く。

 足元から、空間を侵食するように広がっていく。


黒百合(ネクロ・)魔装(カサブランカ)!》


 その瞬間――


 “世界が書き換わる”。



 空間が歪み、幻影が砕ける。


 焼け落ちた王国も仲間の残像も、

 全てが、闇に飲み込まれる。


 静寂。


 そして――現実。


「ほう……」


 エルドの声が、歓喜で震える。


「破られましたか。」


 まるで、子供が新しい玩具を見つけたような声。


「私の“精神干渉”を……」


 一拍。


「素晴らしい……!」


 機体が、びくりと震え内部の肉が、脈打つ。


「本当に、素晴らしい!!」


 笑っている――完全に。



 ゼルヴァが低く吐き捨てる。


「……狂ってやがる」


 カイゼルが鼻で笑う。


「今さらだろうが…」


 それでもエルドは止まらない。


「どれも理想値に近い、やはりあなたは――」


 一歩、機体が前に出る。


「解体する価値がある」


 空気が凍る。


 シルフィが、明らかに顔をしかめる。

「……ほんと、気持ち悪いですねぇ」


 ヴェルミナも冷たく言い放つ。

「人の形してるだけの何か、って感じね」


 エルドは、そんな言葉に一切反応しない。


「それでこそ、捕獲しがいがあるというもの」


 その声には、


 完全な“所有欲”が混じっていた。


 リィナの瞳が、さらに冷える。


「それ以上、口を開くな」


 短く、鋭く。



 だが――

 エルドは、リィナ達の声など聞こえていないかのように

 楽しそうに笑う。


「いいでしょう」


「いいでしょうとも!!」


 その声が、わずかに歪む。


「では――こちらも本気を出しましょう」


 次の瞬間。


 “グラフト=アーク”が、大きく脈動する。


 どくん。


 心臓のように。


 いや――


 それは確実に“生き物の鼓動”だった。


 ゼルヴァが構えを深くする。


「来るぞ」


 カイゼルが舌打ちする。


「面倒な展開だな……だが、嫌いじゃない」


 エルドの声が、低く響く。


「グラフト=アーク――」


 まるで、儀式のように。


「“制限解除”」


 ――バキン。


 装甲が、内側から“押し広げられる”。


 肉が裂け、剥がれる。


 その内側から――


 脈動する、赤黒い組織。


 シルフィが息を呑む。


「……っ、あれ……まだ中に……」


 “顔”が、開く。


 一つではない。


 無数の顔の残骸だ。


 歪んだ口、閉じきらない瞼、焦点の合わない目。


 それらが――


 “同時にこちらを見た”。


 ヴェルミナの声が、わずかに震える。


「……あれ、全部……」


「生きてる……?」


 エルドが、優しく答える。


「ええ、もちろんです」


 その声音は――


 まるで、花を愛でるかのように穏やかだった。


「死んだら、意味がないでしょう?」


 一瞬。


 全員の動きが止まる。


 ゼルヴァの目が、怒りで染まる。


「……貴様……」


 エルドは続ける。


「苦しみ、壊れ、なお動く」


「それが最も美しく効率的な状態です」


 カイゼルが、低く笑う。


「はは……なるほどな。本当に救えんな」


 そして――


 機体全体が、再構築されていく。


 骨のような金属に肉のような装甲。


 神経のような管。


 それが融合する。


 それに合わせエルドの声が、震える。


 歓喜という狂気で。


「完全体――」


「《グラフト=アーク:アポストル形態》」


 それはもう――


 兵器ではない。


 “冒涜そのもの”だった。


 リィナは、静かに剣を構える。


 その瞳に迷いはない。



「……終わらせる」


 低く。


「その歪んだ命――私が断つ」


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