第65黒 再生する絶望
“グラフト=アーク”が、低く唸る。
いや――
それは機械音ではない。
内部で、何かが“生きたまま軋んでいる音”だった。
「……何なの、この音?まるで……」
ヴェルミナが怪訝な表情を浮かべる。
エルドの声が、機体の内側から響く。
「…そうですよ。これはただの音じゃない。
“適合できなかった個体たち”の声だ」
ぐちゃり、と。
装甲の隙間から、肉がわずかに膨張する。
「どうです、良い音色でしょう?」
その言葉に――
空気が、完全に凍る。
「……ふざけるな」
ゼルヴァの声が低く沈む。
「命を……材料にしたのか!!!」
エルドは、楽しそうに笑う。
「材料? 違いますよ」
一拍。
「“進化の過程”です」
次の瞬間――
機体の背部が、裂ける。
無数の管が展開し、
そこから“何か”が吐き出される。
地面に落ちたそれが、蠢く。
金属と肉が混ざった兵士。
「……量産型の魔導機械兵――《ネクロ・マキナ》」
エルドの声が愉悦に歪む。
「失敗作でも、数を揃えれば戦力になる」
「フン……雑魚が何匹湧いて来ようが同じこと。」
カイゼルが、前に出る。
「一瞬で片を付けてやる――」
片手を掲げる。
「燃え尽きろ……《深淵の黒炎》!!」
黒炎が爆ぜ群れごと焼き払う。
だが――
焼けた肉が、蠢く。
再び形を取り戻す。
「なに……もう再生だと!?」
カイゼルが舌打ちしながら、一度距離を置く。
シルフィが目を細める。
「再生速度が、異常ですねぇ……」
エルドが静かに笑う。
「当然です。“自己修復機構”は組み込んでありますから」
「破壊するだけでは意味がありませんよ。」
「……面倒ね」
ヴェルミナが指を鳴らす。
「じゃあ、壊れるまで呪えばいい」
《呪詛結界》
魔法陣が展開し敵の動きが鈍る。
「解析……完了よ」
ヴェルミナの瞳が光る。
「核があるわ。中心に“制御個体”」
エルドが、軽く拍手する。
「素晴らしい、実に優秀ですね」
「ですが――」
“グラフト=アーク”が動く。
巨大な質量とは思えない加速。
「――させないわ!」
リィナが前に出て剣を振るう。
《黒百合斬》
闇の斬撃で機体を斬り裂く――
だが。
肉が蠢き、即座に塞がる。
「……無意味ですよ」
エルドの声。
「その程度では、“私”には届かない」
「……なら」
リィナの瞳が細くなる。
「削り切るまでよ」
更に踏み込む。
《黒花絶断》
魔力ごと斬る一撃で、再生が一瞬止まる。
「ほう……!」
エルドの声が弾む。
「魔力断絶とは……素晴らしい。……やはり欲しい」
その瞬間――
機体の目が、リィナをロックする。
「“黒のカサブランカ”」
「あなたは、ここで――」
「“回収”します」
次の瞬間――
リィナを捕らえ、視界が揺らぐ。
「リィナ様……っ?」
シルフィが息を呑む。
リィナの景色が変わる。
そこは――
焼け落ちた王国。
「……これは……?」
リィナの瞳が揺れる。
懐かしい光景、かつての仲間。
「久しぶりだな、リィナ」
それは裏切った“元仲間”達の声。
「……ただの幻覚か」
リィナが低く呟く。
「いいえ」
エルドの声が重なる。
「“記憶再現”です」
「精神へ直接干渉し、あなたの“最も弱い部分”を、引き出している」
「……くだらないわね」
リィナの剣が、ゆっくりと上がる。
「そんなもの――」
「とっくに、乗り越えている」
仲間の幻影ごと空間を斬り、幻が、砕ける。
「ほう……少しはやるようですね。ですが――」
だが次の瞬間。
別の幻――
今度は血塗れで倒れているリディアの姿。
「……先輩……」
かすれた声。
リィナの動きが、一瞬だけ止まる。
「おや――揺らぎましたね?」
エルドの声が、嬉しそうに歪む。




