第62黒 届かぬ刃、止めるための一撃
二人の刃が、何度もぶつかり
甲高い金属音が、空間に響き続ける。
リディアの剣は速く正確で、迷いがない。
「――っ!」
リィナが受け流す。
だが、その一撃一撃は重い。
「……そんな振り方、教えた覚えはないわよ」
低く吐き捨てる。
しかし返ってくるのは――
「対象、制圧を優先」
機械のような感情のない声と無機質な最適解だけをなぞる剣。
(……分かってる、)
リィナの目が揺れる。
(これは、あの子の剣じゃない)
再び、衝突。
ガァンッ!!
リィナが押し込まれ足元が軋む。
かつて教えた“型”のはずなのに、そこに乗っているものが違う。
「……お願い、目を覚まして……リディア」
息を乱しながら、言葉を絞り出す。
「あなたは……そんな顔で剣を振るう子じゃなかったでしょう……!」
一瞬。
ほんのわずかに。
リディアの剣筋が、ぶれる。
だが――
「ノイズ確認、排除優先」
すぐに修正される。
(……ダメ。このままじゃ――)
容赦無く、次の一撃が迫る。
(……やられる)
リディアがではない。
自分が“負ける”。
それはつまり――
(あの子を、救うことが出来なくなる。)
「……っ」
歯を食いしばる。
(分かってる。守るだけじゃ、誰も救えないことを……)
「……それでも……!」
リィナの声が、低く震える。
「それでも私は――……諦めない!」
リィナの気配が変わり一歩、踏み込む。
「――《黒百合拘束!!》」
床が、裂け黒い魔力が噴き出し、蔓のようにうねる。
「――ッ!」
リディアの足元に絡みつく。
「拘束対象、確認」
「排除――」
腕を振るい、引きちぎろうとする。
「無駄よ……!」
リィナが叫ぶ。
「簡単には切らせない――」
魔力をさらに強める。
「……これはあなたを止める技なんだから!!」
蔓が、締め付け
ミシ、と音が鳴る。
完全に動きは止められない。
だが――
確実に、“遅れ”が生まれる。
「……今よ」
リィナが踏み込む。
《黒百合斬!!》
闇が弾け、黒い花弁が舞う。
その中心で――
一閃。
「――ッ!」
リディアの防具の“隙間”だけを、正確に斬り抜く。
防具が裂け、衝撃が走る。
「ぐっ……!」
初めて、リディアの声が漏れる。
ほんのわずかに、人の反応。
リィナの瞳が揺れる。
「……いるんでしょ……?」
息を詰める。
「………リディア……あなたの心はまだ残っているんでしょ?」
だが――
「…損傷軽微……戦闘継続可能」
無機質な判断が、すべてを塗り潰す。
「……っ……!」
リィナの表情が歪む。
「……優秀ね」
自嘲気味に笑う。
「ほんとに……嫌になるくらい」
一歩、引く。
呼吸を整える。
「……でも」
剣を、ゆっくりと下ろす。
「これで終わりよ」
空気が変わる。
それまでの“闇”とは違う。
静かで、澄んだ気配。
「……その力は…まさか」
カイゼルが目を細める。
リィナは、目を閉じる。
脳裏に浮かぶのは――
かつての仲間であり、最愛の人物――アルフレッド。
(……あなたなら、どうする?)
一瞬の静寂。
(……私は)
ゆっくりと目を開く。
(……守る)
剣が、光に包まれる。
黒ではない。
“白い光”。
それは、奪うための力ではない。
「……助けるための力よ」
小さく呟く。
リディアを見る。
「リディア、聞こえてるんでしょう……?」
「だったら、ちゃんと見なさい」
一歩、踏み出す。
「これが……あなたが目指した騎士よ」
リィナが剣を構える。
「――聖閃終刃!!」
一直線に踏み込む。
「目を、覚まして――リディア!!」
眩い閃光。
「――ッ!!」
リディアの剣が弾かれ体が宙を舞う。
壁へと叩きつけられる。
だが――
刃は、急所を外している。
貫いていない。
「……っ」
リディアの意識はまだある。
だが――動けない。完全に、制圧されている。
リィナは、息を吐く。
「……やっと、止まった……」
震える声。
「……待ってなさい」
ゆっくりと歩き出す。
「今、迎えに行くから」
その目は――
戦いのものではなく、
“救う者”の目だった。




