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黒のカサブランカ ――裏切られし女勇者、闇に堕ちて魔王となる――  作者: 小鳥遊 千夜
第二章 二人目のメインターゲット 大司祭、ビション=ヴァルテス編

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第60黒 命の処理場

 

 深夜。

 森を抜けた先――山の中腹。


 そこに、それはあった。


 岩肌に食い込むように建てられた巨大施設。

 外壁は無機質な金属で覆われ、窓はほとんどない。


 魔導機械兵(ネクロ・マキナ)と僅かな灯りだけが、不気味に規則正しく並んでいる。


「……あれですねぇ」

 シルフィが小さく呟く。


「間違いねぇな」

 ゼルヴァが低く笑う。


 リィナは、何も言わず

 ただ、その施設を見据える。


(……リディア)


「行くわよ。」

 短い合図と共に、影のように全員が動く。


 まずは裏手へ回り、警備の死角を突く。


 巡回兵の足音や規則的な灯りの動きを確認する。

 

「遅いわ」


 リィナの一閃で

 音もなく、兵は沈黙する。


 更に仲間達が周りの機械と扉を壊し内部へ。


 施設に入ると空気が一気に変わる。


 鉄と薬品の匂い。

 かすかに混じる――血の気配。


 長い通路に白い壁。


 だが、その白は“清潔”というよりどこか、冷たい。


「……嫌な感じですねぇ」

 シルフィが顔をしかめる。


「研究施設というより……処理場だな」


 カイゼルが吐き捨てる。


 奥へ進むと、ひと際頑丈そうな扉が見えると、

 ゼルヴァが力ずくでこじ開ける。


 その先には――


 誰も、すぐには言葉を発せなかった。


 広い空間と無数の培養槽。


 中には――


 “生き物”がいる。


 だが、それはもはや“元の形”ではない。


 腕が複数に分かれた獣。

 目の位置が不自然にずれた人型。

 体の一部だけが異様に肥大した個体。


 管が体に突き刺さり、液体が流れ込んでいる。


 かすかに動くもの。

 完全に沈黙しているもの。


 どちらも、“生きている”とは言い難い。


「……っ」


 シルフィが言葉を失う。


 ヴェルミナですら、笑みを消していた。


「……ひどいわね」


 カイゼルが拳を握る。


「反吐が出るな……」


 ゼルヴァが低く言う。


「……どこまでふざけてやがる。これは命への冒涜だ!」


 リィナは、動かない。


(……リディアも)


 その想像が、脳裏をよぎり

 

 ギリ、と拳が鳴る。


 その時――


「素晴らしいでしょう?」


 その声に全員が振り返ると


 通路の奥にあの男が、そこに立っていた。


 エルド=クレイン。


「ようこそ」


 まるで客を迎えるかのような穏やかな声。


「歓迎いたしますよ」


 誰も答えない。


 だがエルドは気にする素振りせず、ゆっくりと歩いてくる。


「少々、損失は出ましたが……」


 培養槽を一瞥する。


「研究としては、順調です」


「……これのどこがだ?」


 ゼルヴァが吐き捨てる。


 エルドは、ほんの少しだけ首を傾げる。


「全てですよ。」


「無駄を削ぎ落とし、機能だけを残し…」


 「命を、()()()する」


 その目には、一切の迷いがない。


「……狂ってやがる」


「いいえ」


 エルドは静かに否定する。


「極めて”合理的”ですよ」


 一歩、前へ。


 視線が――リィナに止まる。


「……やはり、来ましたね」


 わずかに口元が歪む。


「黒のカサブランカ……いえ()()()()()()


 じっと、観察する。


「……いいですね」


 ぽつりと。


「やはり、素晴らしい」


 一歩、近づく。


「動き、反応、殺意の質……」


 まるで“作品”を見るような目。


「非常に完成度が高い」


 シルフィが眉をひそめる。


「……気持ち悪いですねぇ」


 エルドは無視して話を続ける。


「壊すのは、あまりに惜しい」


 その言葉に、全員の空気が変わる。


「捕獲対象として再定義します」


 リィナは、剣を抜く。

「そんなことはどうでもいい。リディアはどこだ?」


 感情を押し殺している。


 エルドは、ほんのわずかに首を傾げる。


「“どこ”とは、不思議な問いですね」


 静かに、手を上げる。


「彼女なら――ここにいますよ」




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