第59黒 捨てられた命
ヴァルミナが子供達に尋ねる。
「それで、あなた達はなんでこんな所にいたの?」
「……僕達、この近くの孤児院に住んでるんだ。
ほら、あの向こうだよ。」
子供たちに案内された場所――孤児院。
街外れの崩れかけた石造りの建物の前に、
リィナたちは立っていた。
壁にはひびが入り、屋根もところどころ補修された跡がある。
扉が開く。
「……その子たちを助けてくださったのですね」
現れたのは、一人の中年女性。
年の頃は四十前後。
疲れは見えるが、目は優しい。
この孤児院の院長だった。
「本当にありがとうございます。」
そう言って深く頭を下げる。
シルフィが手をひらひらさせる。
「いえいえぇ、たまたま通りがかっただけですよぉ」
カイゼルがぼそっと言う。
「たまたまにしちゃ出来すぎだがな」
院長は子供たちを中へ促す。
「さあ、もう大丈夫ですよ」
子供たちはようやく緊張が解けたのか、
小さく笑いながら中へと入っていく。
リィナたちも、院長に導かれて中へ。
中は質素だった。
木の机と椅子。
簡素なベッド。
決して豊かではないが、清潔に保たれている。
「こんな場所で申し訳ありませんが……」
院長が言う。
ヴェルミナが軽く笑う。
「十分よ。雨風しのげるだけでもね。
それで魔物の件で聞きたいことがあるのだけれど…?」
院長に先程の経緯を話す。
「……その魔物はおそらく…」
表情が曇り、空気が変わる。
ヴェルミナが口を開く。
「帝国のものよね?」
院長は、ゆっくりと頷いた。
「はい……」
「元は、普通の魔物だったそうです」
「“改造”されて……あのような姿に」
シルフィの表情が、わずかに硬くなる。
「やっぱりそうですかぁ……」
院長は続ける。
「ですが……あれは“失敗作”です」
カイゼルが眉をひそめる。
「だろうな……」
「制御できないものは、すべて外へ捨てられると聞きました。」
静かな声。
だが、その中に怒りと諦めが混ざっている。
「この辺りでも……最近増えています。」
沈黙が落ちる。
カイゼルが低く問う。
「ほう……その施設はどこにある?」
院長は一瞬だけ迷う。
だが、やがて口を開いた。
「確証はありませんが、ここから北の森を抜けた先……」
「山の中腹に、大きな施設があります。」
「帝国の兵が常に出入りしていて……」
言葉を選びながら続ける。
「……おそらくそこかと…。」
リィナの視線が、わずかに鋭くなる。
「他に情報は?」
院長は首を振る。
「詳しいことは……」
「ですが、連れて行かれた人がいるという話も聞きます」
その一言。
空気が一変する。
(……リディア)
リィナの中で、点が繋がる。
シルフィが静かに言う。
「ほぼ確定ですねぇ」
ゼルヴァが拳を鳴らす。
「やっと辿り着いたな」
ヴェルミナがくすりと笑う。
「壊しがいがありそうね」
院長が、少しだけ不安そうにリィナを見る。
「……あの施設に行くのですか?」
リィナは、迷わない。
「……ああ」
短く、はっきりと。
院長はその目を見て、何かを悟る。
「分かりました。……お気をつけて」
「帝国の施設は……普通ではありません。」
一瞬、言葉を飲み込む。
「人を…人と扱わない…”地獄”のような場所だと言われていますから…」
その言葉は、重かった。
リィナは何も言わず、踵を返す。
「地獄ね。望むところよ。」
その一言で、全員が動く。
扉を開ける。
外の冷たい空気が流れ込む。
背後で、院長の声。
「……どうか。ご無事で。」
リィナは立ち止まらない。
「……全て終わらせるわ。」
小さく、だが確かに呟く。
外へ出る。
森の向こうの山の中腹。
そこに――
次の目的地がある。
リディアを取り戻すための戦いが、始ろうとしていた――




