第58黒 作られた魔物
森を抜けた先。
荒れた街道が、かつての面影を残したまま続いていた。
石畳はところどころ抉れ、黒く焦げた跡。
焼け落ちた家屋。
人の気配はほとんどない。
あるのはただ、放棄された“跡”だけ。
帝国との戦争の爪痕が、まだ生々しく残っている。
リィナたちは、リディアを帝国から救う方法を探し進んでいた。
足取りは速いが、焦りは表に出さない。
「……情報が足りないな」
カイゼルがぼやく。
「別の施設に移送された、ってとこまでは掴めたが……
場所が分からねぇんじゃ話にならんな」
ゼルヴァが低く言う。
「……追跡の痕跡も途絶えている…」
シルフィが肩をすくめる。
「さすがに用心深いですねぇ。
あの規模の研究をしてるなら、隠し場所も一つじゃないでしょうし」
ヴェルミナがくすりと笑う。
「ふふ……まさに迷子ね」
ちらりとリィナを見る。
「どうするの?当てもなく探す?」
リィナは答えない。
ただ前を見ている。
(……リディア)
間に合うのか。
――いや。
間に合わせる。
大した手掛かりがないまま、
時間だけが、残酷に過ぎていく。
その時――
「――きゃあああっ!!」
甲高い悲鳴。
子供の声。
全員の動きが、一瞬で変わる。
「右だ」
カイゼルが短く告げた時には
リィナはすでに駆け出していた。
崩れた建物の陰。
そこにいたのは――
数人の子供たち。
そして――異形の魔物。
それは、明らかに“自然”のものではなかった。
肉体は歪に膨張し、皮膚は継ぎ接ぎのように色が違い
縫合痕のような線が無数に走っていた。
片腕は異様に長く、もう片方は不自然に細い。
目は濁り、理性の欠片もない。
「……なんだ、あれ」
ゼルヴァが眉をひそめる。
「さあな……だが、作られたような歪な力を感じる」
カイゼルが呟く。
魔物が子供に向かって腕を振り上げる。
その瞬間――
「遅い」
リィナの声。
黒い影が走る。
一閃。
魔物の腕が、宙を舞った。
「――ギァアアア!!」
悲鳴。
だがその声は、“痛み”というより――
“壊れた音”に近い。
続く二撃目。
今度は首元に、正確な一撃。
抵抗も、防御もない。
ただ――
“切断されるための存在”のように魔物は崩れ落ち
その断面からは黒く濁った液体と、見慣れない管のような組織が覗いていた。
静寂が戻ると
子供たちは、震えたまま固まっている。
シルフィが尋ねる。
「大丈夫ですかぁ?」
しゃがみ込み、目線を合わせる。
子供の一人が、震えながら頷く。
「……うん……」




