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黒のカサブランカ ――裏切られし女勇者、闇に堕ちて魔王となる――  作者: 小鳥遊 千夜
第二章 二人目のメインターゲット 大司祭、ビション=ヴァルテス編

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第56黒 例外という存在

 

 帝国教団――聖灰(せいかい)教団本部。


 白と金で統一された大聖堂。

 高い天井から差し込む光が、床の紋章を神聖に照らしている。


 その最奥――


 玉座のように設えられた壇上に、一人の男が立っている。


 大司祭 ビション=ヴァルテス。


 背に長いマントを垂らし、微動だにせず佇むその姿は、

 “信仰”そのものを具現化したかのようだった。


「……報告に参りました」


 静かな声で

 エルド=クレインが、片膝をつく。



 ビションはゆっくりと視線を落とす。


 氷のような青い瞳。


「顔を上げてください、エルド」


 穏やかな声。

 だが、逆らう余地はない。


 エルドが顔を上げ、視線が交差する。


「状況を」


 短く促す。


「はい。侵入者により、施設機能の大半が停止…

 実験体・記録媒体の多くを喪失しました」


「……そうですか」


 ビションは目を閉じる。


 怒りはない。

 落胆すら、表には出ない。


「それもまた、“計算の上”の誤差と考えましょう」


 静かに言う。


 エルドの眉が、わずかに動く。


「その侵入者の中に――」


 続ける。


()()()()を確認しました」


「……ええ」


 ビションはすでに理解しているように頷く。


「“黒のカサブランカ”」


 空気が変わる。


 ビションの口元に、わずかな笑み。


 それは温かさではなく――


 “評価”の笑み。


「またの名を”リィナ”……」


 静かに、その名を口にする。


「かつて勇者と呼ばれていた存在……。」


 わずかに視線を遠くへ。


「もっとも……今は、哀れな影となってしまいましたが…

 遭遇したのですね?」


「…はい」


「どうでしたか?」


 問いは穏やか――

 だが、試している。


 エルドは、ほんの一瞬だけ間を置く。


「…優秀です。」


「無駄がなく判断も早い。

 破壊効率において極めて高水準でした。」



 数秒の沈黙。


 そして――


 ビションは、ゆっくりと首を振る。


「……相変わらずですね」


 穏やかに。

 だが、その言葉には明確な“否定”が含まれている。


「エルド…」


 視線が鋭くなる。


「彼女を、貴方の尺度で測ってはいけません」


 空気が一段、重くなる。


「リィナは――」


 わずかに微笑む。


「“例外”です」


 エルドの目が細まる。


「例外、ですか?」


「ええ。理屈では動かない。計算では縛れない」


「……それは興味深いですね。」


 ビションは一歩、前に出る。


 その動きだけで、場の支配権が完全に移る。


「忠告しておきますよ。」


 穏やかに。

 だが、確実に“命令”として響く。


「深入りはなさらないことです」


「……なぜです?」


 ビションの瞳が、わずかに細くなる。


「貴方は優秀です」


 一拍。


「だからこそ、“壊される側”に回るのは惜しい」


 その言葉に。


 わずかに――ほんのわずかに。


 エルドの口元が歪む。


「……ご心配には及びません」


「そうですか…」


 ビションはそれ以上は言わない。


 ただ――


「ならば、浄化(システム)を復旧し、教団の威光を示すのです。」


 静かに告げる。


 それはリィナに向けた言葉であり、

 同時にエルドへの“警告”でもあった。


「ハッ…全てはビション様のお心のままに。それでは、私は施設復旧に戻ります。」


 エルドは頭を垂れ、戻っていく。


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