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黒のカサブランカ ――裏切られし女勇者、闇に堕ちて魔王となる――  作者: 小鳥遊 千夜
第二章 二人目のメインターゲット 大司祭、ビション=ヴァルテス編

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51/113

第51黒 堕ちた聖騎士、再会は刃と共に


「……面倒ですねぇ」

 シルフィが小さく舌打ちする。


 斬っても、斬っても――

 終わらない地獄。



「何体増えても同じよ……」

 リィナの剣が、一体を迷いなく断ち切る。


 肉と金属が裂ける鈍い音。


 だが――


 その向こうで。


 崩れたはずの“それ”が、ゆっくりと起き上がる。


 骨が軋み、肉が擦れる音。


 あり得ない動きで、再び前へと進み出す。



「……」

 ほんの一瞬。


 リィナの動きが、止まる。



 その視線の先にあるのは――


 “かつて人だったもの”。


 その現実が、ほんの僅かに、剣を鈍らせる。


「ああ、その顔。……いいですねぇ」

 エルドの声が、楽しげに響く。


「怒りと憎悪、でも止まれない。

 壊さないと進めない」


「……絶望に浮かぶその表情、最高ですよ」


 味わうように。




 カイゼルが横から敵を吹き飛ばす。

「……気にするな!」

「もうそいつらは人じゃない……壊せ」



 リィナが歯を食いしばる。

「……分かってる」


 迷いを、押し潰し再び踏み込む。



 魔導機械兵(ネクロ・マキナ)も、死体兵も。

 一体、また一体と、確実に破壊されていく。


 数は減っている。


 だが――


 気分は、軽くならない。



 エルドが、小さく息を吐く。

「……なるほど。既存兵では不足でしたか」


「それでは――」


 楽しむように。


「”特別個体”を使いましょう」


 指が、軽く鳴らすと

 奥の重い扉が、ゆっくりと開く。


 重厚な金属音と共に

 空気が、変わる。


「……そんな」

 リィナが目を見開く。


 ――重い足音。



 一歩。


 床がわずかに軋む。


 金属が擦れる低い音。


 現れたのは――


 漆黒の重鎧に

 その上から流れる、赤黒いマントを付けた暗黒騎士。


 握られた大剣には

 刃には、粘つくような闇の魔力が絡みついている。


 だが――


 驚いたのがそれだけではない。


 銀の髪に、深紅の瞳。


 鎧の胸部には――

 かつての徽章。


 若き女性の顔。



 リィナの呼吸が、止まる。


「……まさか……?」


 見間違えるはずがない――



 かつての教え子であり、後輩。


 何度も夢を語りあった。


 あの姿を――


「……”リディア”……?」



 暗黒騎士が、ゆっくりと顔を上げる。


 その瞳に宿るのは――

 

 明確な、敵意。


 だが。


 ほんのわずか。

 その奥に、微かに揺らぐ“何か”。


 が見えた気がした。


「対象、確認」


 機械的に整えられた発声。



「排除……開始」



 次の瞬間――

 地面が砕ける。


 踏み込みの衝撃だけで、床が陥没する。



 一瞬で間合いを詰め、振り下ろされる大剣。


 ガァンッ!!


 衝撃が爆ぜる。


 リィナが、咄嗟にそれを受け止め、火花が散る。


 重い。


 あまりにも――


 押し込まれ腕が軋む。


「……っ!!」


 リィナの表情が歪む。



 怒り、困惑。


 そして――


 否定。


 あり得ない。


 こんな形で、こんな姿で。



「ふざけるな……」


 低く、震える声。



 エルドが、愉快そうに笑う。


「いいでしょう?()()


「自信作なんですよ。…元の性能が高かったので」


「少し“手を加えた”だけで――この強さです」


 リィナの視線が、ゆっくりとエルドへ向く。


 その瞳には、先ほどまでとは比べ物にならないほどの――


 濃い殺意。


「……きさま……」


 黒い魔力が、溢れる。

 

 先ほどとは質が違う。


 より濃く、より重く。


 怒りが、臨界へと達しようとしていた。


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