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黒のカサブランカ ――裏切られし女勇者、闇に堕ちて魔王となる――  作者: 小鳥遊 千夜
第二章 二人目のメインターゲット 大司祭、ビション=ヴァルテス編

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50/91

第50黒 壊しても終わらないもの

 

 その言葉で――


 リィナの中で、何かがはっきりと切り替わる。


「……救済?」


 低く、押し殺した声。


「ふざけないで!!」


 爆ぜるように感情が溢れた。


 空気が震え、足元から滲み出す黒い魔力が、

 煙のように立ち上り、周囲を侵食していく。


 それはただの魔力ではない。

 怒りそのものが形を持ったかのような、重く、冷たい圧。


 エルドの目が、わずかに細まる。

「おやおや……いい反応ですね」


 観察者の目。

 感情ではなく、興味で測る視線。


「やはり、壊しがいが――」


 言い終わる前に――


 リィナの姿が、消える。


 残像すら残さない踏み込み。


 床を蹴った音だけが、遅れて響く。


「黙れ!!」


 次の瞬間――


 斬撃が走る。

 空間そのものを裂いたかのような、黒い軌跡。


黒百合斬リリィ・エッジ


 だが、

 エルドの前面に展開された魔導障壁が斬撃を受け止める。


 火花のように魔力が弾け、衝撃が空気を押し広げた。



 エルドは軽やかに後方へ跳び、白衣の裾が、遅れて揺れる。


「いきなり斬りつけるとは、礼儀がなっていませんね」


 声に怒りはない。

 ただ、評価を下すような調子。


「それに私は戦闘は専門外。ですので……」

 指先が、空中に浮かび上がった魔法陣へと触れる。


 淡く光っていた術式が、一瞬で色を変える。


 次の瞬間――


 施設全体に刻まれていた無数の魔法陣が、一斉に脈動すると

 低い唸りのような振動が、空間を満たす。


「起動。第一層、防衛個体」



 ガシャン――


 重い音と共に、檻が開く。

 

 中にいた“それら”が、ゆっくりと動き出す。


 ――魔導機械兵(ネクロ・マキナ)


 歪な肉体、左右で長さの違う腕。

 金属と肉が無理やり接合された関節。


 だが、その動きは異様に滑らかで、速い。


「ちっ……来るぞ」

 カイゼルが低く告げる。


 リィナの黒い魔力がさらに濃くなる。


「まとめて……斬るわ」


≪――黒閃斬(ダーク・スラッシュ)!!≫


 闇を纏った斬撃が、一直線に空間を薙ぎ払う。



 複数の改造兵がまとめて両断され、

 壁に叩きつけられ肉片と金属片が飛び散る。


 だが――


 止まらない。


 倒れたはずの個体が、ぎこちなく身体を起こす。

 腕が千切れても、脚だけで前へ進む。


 ゼルヴァが笑う。

「任せろ」

 踏み込みと同時に、床が砕ける。




≪――竜撃砕(ドラグ・ブレイク)!!≫

 拳が叩き込まれた瞬間、衝撃が爆ぜる。


 改造兵の上半身が粉砕され、後方へと吹き飛ぶ。


 それでも――


 残った下半身が、なお前へと這い寄る。


「いいですねぇ、その火力」

 エルドが、心底楽しそうに声を上げる。


「ですが、耐久実験としては、少し物足りないかもしれませんねぇ?」



 今度は影が揺れ、次の瞬間、シルフィが敵の背後に現れる。

「……しつこいですねぇ」


 刃が、音もなく走る。


≪――静寂断(サイレント・キル)!!≫


 機械兵の首が落ちる。


「……静かに死ねばいいんですよぉ」

 淡々とした声。



「いいですねぇ、無駄が少ない」

 エルドは、まるで優れた作業を評価するように頷く。



 ヴェルミナが周囲を見渡し、即座に術式を構築する。

≪――雷影束陣(サンダー・グリッド)


 足元に展開された魔法陣から、網のように雷が広がり

 動きを封じられた魔導機械兵が、痙攣しながら崩れ落ちる。


 カイゼルが一体を掴み、叩き潰す。


「タフだろうが、壊せばいいだけだ」


≪――魔王砕拳(デモンズ・ブレイク)

叩きつけられた拳から衝撃波が広がり、周囲の敵をまとめて吹き飛ばす。


 だが――

 それで終わらない。


 エルドが、不気味に笑う。

「中々やりますね。では――次の実験と参りましょうか?」


 視線の先には奥の台座。


 横たえられていた“死体”が――


 ぴくり、と動く。


 次の瞬間。

 一斉に、起き上がる。


 関節が不自然な角度で軋み、肉の擦れる音が重なる。


「壊したものが、()()()()……」


 エルドの声が、静かに響く。

「どうです?不快でしょう?」


 さらに。

 背後で整列していた魔導機械兵たちが、同時に一歩踏み出す。


 完全に統制された動きで、ゆっくりと包囲を狭めてくる。


「どうです?」

 エルドは、心底愉快そうに微笑む。


「壊れるまで働く」


「実に理想的でしょう?」

 その言葉が、空気をさらに冷やした。

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