第49黒 救済という名の地獄
灰都の外れ。
地下へと続く、無機質な施設。
石と鉄で固められた入口には、教団の紋章。
淡く光る魔法陣が、侵入者を拒むように脈打っている。
「ここですねぇ」
シルフィが小さく呟く。
既に周囲の警備は排除済み。
静かすぎるほど静かだ。
「行くわ」
リィナが先に踏み込む。
扉を開けた瞬間――
空気が変わる。
重い――
血と薬品と、焼けた肉の臭いが混ざっている。
ゼルヴァが眉をひそめる。
「……腐っているな」
中は広い。
地下に向かって階層が続いている構造。
最初に目に入るのは――
檻。
中には、人間。
だが、その姿は“正常”ではない。
腕が異様に肥大した者。
皮膚が硬質化し、ひび割れている者。
目が濁り、焦点が合っていない者。
「……まるで実験動物ね…」
ヴェルミナが低く言う。
別の区画。
並べられた台。
その上に――
死体。
だが、ただの死体ではない。
魔導回路が組み込まれ、管が繋がれ、魔力が流し込まれている。
ぴくり、と動く指。
「……魔導機械兵」
さらに奥。
整列した魔導機械兵に、洗脳済みの兵士。
同じ動き。同じ呼吸。同じ表情。
シルフィが小さく笑う。
「まるで、”人形”ですねぇ」
リィナは、ゆっくりと歩く。
視線は止まらない。
どこを見ても――
人が“人でなくなっている”。
「……ここは地獄ね」
低く、吐き捨てる。
その声には、はっきりとした嫌悪があった。
その時――
「おやおやぁ……侵入者とは珍しい」
軽い声と共に奥の扉が開く。
現れたのは、一人の男。
白い外套に細身の体。整えられた髪。
だが、その目は――笑っていない。
男は、リィナたちを一瞥すると、軽く首を傾げる。
「なるほど……これはまた、上質な個体ですね」
まるで品定めとばかりにゼルヴァを見る。
「筋肉量、魔力反応、精神強度……」
その後はシルフィを見る。
「こちらも興味深い特性ですねぇ」
そして――
リィナで止まる。
「……ああ」
少しだけ、口元が歪む。
「”これ”は特に素晴らしい…。
実に、壊しがいがありそうだ」
次の瞬間。
ゼルヴァが踏み込もうとする。
だが――
「おっと…動かないでくださいね」
指を軽く鳴らす。
床の魔導装置が発動すると、一瞬で、空気が変わる。
「拘束装置です」
あっさりと言う。
「神経系に作用します。即死はしませんが、動きは鈍るでしょう」
シルフィが舌打ちする。
「……性格悪いですねぇ」
男は微笑む。
「効率的と言っていただきたいものですね」
リィナは、動じない。
一歩、前に出る。
「……あんたが責任者?」
「ええ」
あっさりと頷く。
「この施設の責任者エルド=クレインと申します。」
リィナの目が、さらに冷たくなる。
「じゃあ――」
剣を構える。
「全部、あんたの仕業ね」
エルドは、少しだけ楽しそうに笑う。
「ええ、……誇りに思っていますよ」
「無駄のない、素晴らしいシステムです。
死を、余すことなく活用する」
「これ以上の“救済”はないと思いませんか?」




