第47黒 命を資源と呼ぶなら……
闇の中。
わずかに風が揺れたかと思った瞬間――
そこに、シルフィが立っていた。
まるで最初からそこにいたかのように。
気配も、足音も、余韻すら残さず。
「お待たせしましたぁ」
シルフィの軽やかな声。
だが、その目の奥はほんの少しだけ冷えている。
リィナたちの視線が、一斉に向けられる。
「……どうだった?」
カイゼルが短く問う。
シルフィは肩をすくめるように、小さく笑った。
「興味深い街でしたよぉ」
柔らかい声音。
だが――
ほんの一拍、間を置いて。
「人の悪意に満ち溢れていて……異様といいますかぁ」
シルフィは続ける。
「それに、公開処刑をしてましたよぉ……」
まるで天気の話でもするかのような口調。
「子供の前で親を殺して、みんな喜んでましたぁ」
沈黙。
焚き火の音だけが、ぱちりと弾ける。
「そして死体は回収。実に効率的なやり方でしたねぇ」
指先を軽く振る。
言い方は軽いが、内容は、あまりにも重い。
ヴェルミナの目が細くなる。
「……禁術運用してるのかもね。」
低く、抑えた声。
分析は冷静だが、感情は完全に消えてはいない。
カイゼルが鼻で笑う。
「相変わらずだな。“聖灰教団”」
その言葉には、明確な嫌悪が滲んでいた。
「ご存じなんですかぁ?」
「ああ、昔な……。」
「帝国教団――聖灰教団。
死を管理し、再利用する狂信集団だと聞いたことがある。」
「命を終わりとして扱わず、資源として循環させるそうだ。」
魔導機械国家である帝国にとって、それは極めて“都合のいい思想”だった。
死体は廃棄物ではない、素材だ。
魔力、肉体、骨格――すべてが利用価値を持つ。
魔導機械の補助素材として。
あるいは、禁術による兵器転用として。
徹底された合理。
その果てにあるのが――この街だった。
リィナは、しばらく何も言わない。
ただ、静かに街を見ている。
煙に覆われた空、機械のような管理された住民達。
感情を削ぎ落とされたような、均一な“流れ”。
静かに、口を開く。
「……”命”を、なんだと思ってるの」
低い声。
押し殺したようでいて、確かに滲む怒り。
視線は、街から逸れない。
「守るものでも、奪うものでもない」
一歩、前に出る。
「ただの“資源”扱いなんて……」
その言葉には、嫌悪がはっきりと刻まれていた。
「……気に入らない」
冷たい声。
だが、その奥で燃えているものは――隠しきれていない。
カイゼルが口元を歪める。
「いい顔だ。」
愉しげに。
だが、それは単なる嘲りではない。
“戦う理由を持つ者”への評価。
ゼルヴァが、低く呟く。
「……同感だ。帝国のふざけた野望を見逃すなど出来はしない!」
その声には、明確な敵意が宿っている。
拳が、わずかに軋む。
かつて自分が“使われた側”だった記憶が、静かに重なる。
シルフィがくすりと笑う。
「壊しがい、ありそうですねぇ」
その声音は柔らかい。
だが、その本質は――鋭い刃。
リィナは、街を見据える。
煙の向こう。
すべての元凶がある場所――
「全部――終わらせる」
その一言で、すべてが決まる。
灰に覆われた街。効率と狂気で築かれた都市。
その前に立つのは――
壊すことを選んだ者たち。
復讐は止まらない。
次の段階へと進んでいく。




