第46黒 壊れる瞬間が最も美しい
鐘の音に誘導されるように人々が一斉に動き出す。
迷いなく、同じ方向へ。
行きついた先には広場。中央には処刑台。
その周囲には、監視用の魔導機械兵が配置されている。
逃亡も暴動も、許されない配置。
すでに多くの民衆が集まっている。
だが、その空気は”異様”だった。
恐怖ではない――
期待、まるで見世物でも待つような目。
「……趣味が悪いですねぇ」
シルフィは屋根の上から見下ろす。
やがて、罪人が引き出される男性。
その隣には小さな子供。
「お父さん……?」
震える声。
男は拘束され、言葉も発せない。
その時――
静かに、一人の男が歩み出る。
ぼさぼさの黒髪に紫がかった濁った瞳。
豪華な装飾が施された白衣のようなローブ。
あちこちに乾いた血の染みが付いている。
男は処刑台のすぐ近くまで歩み寄ると、
民衆がざわめく。
「おおっ…ダリオ様だ……」
「偉大なる教団の大呪術師様…」
その人物こそ
教団の大呪術師――”ダリオ=シャード”。
彼は男をじっと観察する。
まるで患者を見る医者のように。
「ふむ……いいですねぇ」
小さく笑う。
落ち着きのない、粘つく声。
「恐怖で心拍が上がっている。血流もいい」
子供の方を見る。
「この状況で親を見ている目……ああ、素晴らしい」
うっとりと呟く。
「記憶に刻まれる絶望。壊れる過程としては理想的だ」
シルフィの目が細まる。
「……最悪ですねぇ」
ダリオは、民衆に向き直る。
「皆さん、よく見ていてください」
にやりと笑う。
「命ってのはねぇ――」
わずかに身を乗り出す。
「壊れる瞬間が一番輝くんですよォ!!」
狂気――
そのまま、手で合図をすると、
処刑人が剣を振り上げる。
子供が叫ぶ。
「やめて!!やめてよ!!」
――振り下ろされる。
一瞬で血が、地面に広がる。
静寂。
そして――
「栄光あれ!!」
民衆が歓声を上げる。
「教団に栄光を!!」
「正義は守られた!!」
称賛に拍手。
その笑顔は正に異様、洗脳されているかのようだ。
子供は崩れ落ちる。
泣き叫ぶ声は、誰にも届かない。
ダリオは、その様子をじっと見ている。
興味深そうに。
「いい壊れ方ですねぇ……」
満足げに頷く。
その後、兵士たちが死体を回収すると、
魔導搬送装置へと乗せられていく。
「すぐに回せ、鮮度が落ちる」
運ばれていく先には黒い施設。
壁面には巨大な魔術回路が刻まれ、内部から低い駆動音が響く。
魔力と機械が融合した加工施設。
“素材”を、“兵器”へと変える場所。
ダリオがその背を見送りながら、小さく笑う。
「壊して、使う。最高じゃないですか」
その言葉は、この帝国そのものだった。




